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130 第16章 第3王都中央 16ー4 第3王都冒険者ギルド

 大谷にとっては薄味の、香料ばかり使ったような料理ばかり出て、食事もおいしくない。

 そして、豪華な部屋に閉じ込められた後は、冒険者ギルドの責任者と会うのであった。

 マリーネこと大谷は、そこである事を陳情する。

 

 16ー4 第三王都冒険者ギルド

 

 翌日。

 私はベッドから窓の外に見える大きな宮殿と白亜の塔を眺めていた。

 

 あの白い壁と白い塔は全て、花崗岩だろう。

 近くからでは高さも判らないが、四〇メートルとか五〇メートルではないな。もっとずっと高い。


 全て手作業だとしたら、とてつもない加工時間がかかっているのだろう。

 何故なら、花崗岩はとんでもなく硬いからだ。そう。石英と長石を多く含むためにモース硬度六・五から七という硬さで、正確に切断するにはダイヤモンドカッターが必要な代物だ。

 

 ……

 

 昨日は、有無も言わさずにここに連れてこられ、部屋にあったバスタブで使用人らしき女性に抱きかかえられて、長い時間かけて体を洗われ、何やら薄味の食事が出た。

 私の上着と下着はその時、彼女たちが持って行ってしまった。

 

 よく判らない薄い布で出来た、恐ろしく簡単な服を着せられた。

 貫頭衣、いや違うな。こんな布では貫頭衣は造らない。端が(ほつ)れてしまうからだ。それに貫頭衣はポンチョのような形をしているのが普通だ。

 これは首から膝下くらい。つまり七分丈で、腕を通す穴も有るが袖は無い。この服は筒型衣という奴か。元の世界のチュニックの一つだな。あの初めて私が訪れた村の子供服は、これのもうすこし厚い布で、袖が付いていたが。

 

 エイル村でも、まず見かけない服だが。要するに寝間着にしておけという事か。

 本来は、この下に下着を着たり、ズボンも穿いたりするものだが。

 まあ、とにかく私の服は特に下着が汚れていたから、取り上げられてしまったのだ。

 

 そして恐ろしくでかいベッドが充てがわれていたのだ。

 まあ、あの牢屋の(かび)()えた臭いのする、硬いベッドを思えば、極楽だったのは間違いないのだが。

 

 ……

 

 そして、この部屋から出しても貰えない。部屋の出口に軍服のような制服姿の女性がずっと立っていて、時間ごとに別の人と交代していく。

 とどのつまり、体のいい軟禁状態だった。

 

 下着も無い筒型衣のままでは、何処にも行けないし、鍛錬もままならない。

 

 私の入れられた部屋は、豪華な絨毯(じゅうたん)が敷かれ、部屋の壁は全て真っ白の漆喰と白い石の柱。そしてその柱にも、複雑な彫刻が施されている。これは白い大理石を綺麗に磨き上げて彫刻してあるのだろう。

 豪華なテーブルと椅子。それはテーブルと椅子も脚に複雑な彫り込みの施された、優美なデザイン。

 椅子の背もたれの脇にも、細かい彫刻。テーブルの上の板は、端は三段ほどの段差にこれまた細かい彫刻が施されている、分厚い板である。たぶん、相当加工に手間のかかったテーブルなのだろう。

 その上にはやや控えめなサイズの真っ白のテーブルクロスが敷かれ、金属製のゴブレットと金属製の燭台。

 天井からはシャンデリア状態の燭台に、多数の蝋燭。

 つまるところ、それはスッファのオセダールの宿の貴賓室(きひんしつ)にも似た高級な部屋である。

 

 しかし、私はただひたすら、窓の外の白い壁と空を眺める以外に、やる事が無かった。

 トイレならその時に外に出れるかと思ったが、トイレは、部屋の脇に小さな小部屋が付いていて、そこだった。

 ……

 この日も、夕食は香りがやたらと複雑な、極めて薄味のシチューと硬いパン。トドマのあの宿営地の共同食堂の味がやたら恋しくなった。

 

 

 翌日。

 目が覚めると、もう使用人らしき女性が部屋にいるために、私は何時ものストレッチも出来ない。

 

 そうこうしているうちに、軍服の様な制服を着こなした女性が、トレイを運んできた。

 朝食らしい。

 今日の朝食もこれまた香りのついた、よく判らないスープだった。

 

 手を合わせる。

 「いただきます」

 

 僅かな塩味。そして肉と野菜から取ったであろう旨味が僅かに感じられる。

 だが、肉は入っていなかった。少し濁ったスープには葉野菜がしんなりした状態で入っていた。

 香りだけは、はっきりと付いていた。

 

 僅かな溜息が出てしまう。

 これはこれで、悪くはないのだろうけれど、アグ・シメノス人達の食事は、どうにも味にパンチが無くて、食べている気がしなくて嬉しくない。

 

 ……

 

 いや、折角、出して戴いているのだ。贅沢は敵である。

 そう考えて、スプーンでどんどん掬って飲み込む。

 

 「ごちそうさまでした」

 手を合わせる。

 

 そして朝の食事が終わると、これまた、ちょっと色の違う軍服の様な制服姿の女性が服を持ってきた。

 洗って、乾燥させたらしい。

 私の服だ。いつものやつ。この異世界に来た時に着せられていたあの服は、それなりに愛着もあるので、捨てられてしまうとそれなりに悲しい。

 上着だけでなく、下着にまで丁寧にアイロンが掛けてあった。

 

 服を着ていると、出ていった制服の女性がまた迎えにやって来た。

 私は監査官の使う箱馬車に載せられ、両側に護衛兵がついた状態で、有無もなく冒険者ギルドに連れていかれたのだった。

 

 馬車についた小さな窓から見える景色は、ひたすら白い石造りの建物が一杯ある事だけだった。

 

 冒険者ギルドにつくと、いきなり貴族風の服を着た老人。たぶん責任者か要職の人かどちらかのお出迎えだ。

 

 降りて、まずはこちらから挨拶だ。

 「お初に、お目にかかります。私は、マリーネ・ヴィンセントといいます。以後、お見知り置きくださいませ」

 右手を胸に当ててそう言ってから、スカートを両手で軽く掴んで左足を引きながら、お辞儀。優雅にできているとは言えないだろうけれど、取り敢えず、先に挨拶はしておく必要がある。

 

 「おお、これはご丁寧に。お嬢さん、儂はヘイデン・クリステンセン。この第三王都の冒険者ギルドの責任者をしております」

 初老の紳士が右手を胸に当てた後、鮮やかに九〇度曲げたお辞儀をした。

 

 

 ヘイデン・クリステンセンは二メートル二〇ちょっとある長身。

 頭は頭頂部が禿げあがり、左右に灰色の髪の毛がへばりついていた。

 はっきりと彫りの深い顔で鷲鼻。目は銀灰色で鋭い眼光。鼻の下と顎にはこれまた、灰色の髭が生えていた。着ている服は、やや貴族っぽい雰囲気の漂う仕立ても良さそうな高級品だった。

 全体的に見て、かなり厳格そうに見える老紳士といった風情である。

 

 

 ─────────

 クリステンセンは第三王都冒険者ギルド責任者として長年、この席に就いている。

 いわば相当な古狸といえるが、この第三王都における冒険者ギルドの地位を一定に保つためには、このような人材が必要であった。

 ─────────

 

 ギルド責任者であるクリステンセンの誘導で中に入ると、そこで警護兵は外に戻り、馬車のほうに行った。

 

 中で待っていたのは、スッファ街支部のルクノータ商業ギルド監査官。

 そしてそのやや後ろに、この王都の二人の監査官。

 

 何事だろう。

 

 まず、私は責任者の執務室に通された。そして三人の監査官も支部長の横に立った。

 一体、何が起こるのやら。

 

 一度、執務室の椅子に座ったクリステンセンは再び立ち上がって周りを見回した。

 「まずは座ってくだされ」

 クリステンセンは自分の執務室に置いてある小さなローテーブルの脇に置かれた豪華なソファを指さした。

 クリステンセンは自分の椅子に座り直す。

 三人の監査官がそれぞれ奥と左右に座ると、出口の前に置かれた椅子が残る。

 私がそこらしい。やや高い椅子にやっと座る。

 

 そして改めて、二人の監査官が自己紹介がわりに名前を述べた。

 「私が中央商業ギルド監査官のセランス・リル・トルヴァトーレです」

 まだ駆け出しの監査官らしい。それにしても顔色が悪いな。

 

 「あの時、お会いしましたね。私は第一商業ギルド監査官のノレアル・リル・エルカミルです」

 この人、私の鼻血を拭いてくれた人だ。かなり落ち着いた雰囲気を放つ監査官だ。

 

 この三人はほぼ同じ顔だが、私の見極めの目で見れば、別人であることは判る。

 他の人はたぶん腕の腕章で判別するのだろう。注意力が高い人なら、髪の長さや髪型も微妙に違うとか、耳の後ろに黒子(ほくろ)があるとか、そういった部分で見分けるかも知れない。

 

 

 ここでまず、トルヴァトーレと名乗る監査官がお詫びから入ったが、

 ただただ、

 「申し訳ございません」

 そればかりだった。

 

 「あの、それでは、事情が、分かりません」

 そういうと、今回の誤認逮捕の事だった。

 

 「商業ギルドからの通報有りとはいえ、吟味もほぼ無いままに逮捕に至ったことは、誠に申し訳なく慙愧(ざんき)の念に堪えません」

 態々、難しい言い方をするのだな。

 要するに何者か所轄(しょかつ)の商業ギルドから盗品等に関する犯罪ありと耳打ちされて、誤認したまま逮捕して恥ずかしい。(ゆる)されよってか。

 

 「私に、謝る、よりは、セントスタッツ様に、お詫びを、お願い、します。きっと、あの時の、鞭を、持っていた、監査官様に、()()()、虐められた、でしょう」

 そう言うとまずルクノータ監査官が言った。

 「相変わらずだな、ヴィンセント殿は。自分の事はいいのかね」

 「私の、やった事で、セントスタッツ様を、巻き込んだ、のは、私の、責任です」

 

 そこでエルカミル監査官が口を開いた。

 「済まない。ザインベルが粗暴な事をそなたにやったのだ。恐らくはセントスタッツにもかなりやった事だろう。これは上の方でも問題になるだろうが、ヴィンセント殿には、まず素直にお詫びを受けて貰いたい。彼女にも立場があるのだ」

 

 やらかしたのは、監査官側のミスだろうけれど、それを冒険者ギルドのメンバーとはいえ、ほぼ一般人相手に謝るというのも何か、妙な気がした。

 

 しかし、この場は謝罪を受け取っておかないと、相手の格好がつかない。

 そういう事だろうな。見届け人がエルカミル監査官なのか。

 

 「わかりました。謝罪は、受け取らせて、頂きました」

 そう言うと少しほっとしたような顔をしたトルヴァトーレ監査官だった。

 さっきまで青ざめていたのだ。これは、何かあったのに違いない。

 

 「それで、私が、ここに、連れてこられた、のは、トルヴァトーレ監査官様の、お詫びの、言葉を、聞くため、だけでは、ないと、思いますが、どの様な事、なのでしょう」

 

 「それについては、まずここのギルド責任者と話し合いがしたいのだ」

 そう言ったのはルクノータ監査官だった。

 

 それは冒険者ギルドの規則にない、業務時間外の魔獣討伐とその扱いである。

 そもそも、依頼も受けていない状態で、危険な魔獣相手に一人で次々と斃してしまうという事自体が、まったくの想定外だった。ギルドの規則になかったのである。

 

 「本当に、そんな事が可能なのですかな」

 クリステンセンは疑い深い目を私に向けた。

 

 「クリステンセン殿。ヴィンセント殿が討伐したのは、なにも街道のステンベレだけではない。イグステラを一人で四頭、別の日にはマースマエレファッスを一人で五頭、それぞれ同じ日に斃しているのだ」

 ルクノータ監査官が静かに報告をした。

 

 そこでクリステンセンの目が大きく見開かれる。

 「……ばかな。あり得ない。それは王都の精鋭か練度の高い傭兵部隊を出すような事態だ」

 

 「クリステンセン殿が疑うのも無理はない。実際にそれを見なければ、信じられないだろう。その記録自体はベルベラディの仮本部にも出しているので、確認するとよいだろう」

 ルクノータ監査官はそう言った。

 

 「では、業務以外で魔獣に出会い、それを首尾よく倒した場合の扱いですな」

 クリステンセンは椅子の上で姿勢を正した。

 「スッファでは、それをどう扱ったのですかな」

 

 「テオ・ゼイ殿、スッファ街前支部長は普通の討伐任務と同じ扱いをした。スッファ支部の人員ではない、ヴィンセント殿の働きを感謝もなく、()める事すらなく、ぞんざいに扱ったのも問題だった」

 ルクノータ監査官は、少し難しい顔をした。

 それを受けて、クリステンセンの目が細くなった。

 「ゼイ殿が、まるで自分の部下のように扱って、場所と時間を記録し討伐記録に載せた。それでヴィンセント殿は、それを受けて業務時間以外のものは、自分で商人に売って記録に載せない事を選んだ。そういう事になるのですな?」

 「まあ、大体はそういう事になる」

 ルクノータ監査官はそっけなかった。

 

 クリステンセンが暫し目を閉じ、考え込んでいた。

 それから、目を開いて話し始めた。

 「偶発的な事態であったとして、まったく任務から外れている訳でもありますまい。銅階級より上は、魔獣、魔物を退治するのが仕事。しかし、依頼にない、或いは討伐、掃討任務以外で魔物を業務時間以外に倒したのなら、それをどう扱うかは確かにギルドの規則にはありませんな」

 三人の監査官がほぼ同時に頷いた。

 「まあ、そんな事があったとしても、通常業務と同じ扱いをするのが当然。しかし、実績が要らない等という事を希望する者が例外ですな」

 こんな事を言い出す冒険者は居なかったのだな。


 クリステンセンがまた暫し考え込んだ。

 

 「そこで、妥当な案として、二名以上で行った場合は、討伐場所と時間を記録の上、買取を行う。討伐記録に載せるかは、討伐者の任意とする。というのでどうですかな?」

「まあ、冒険者たちは普通に記録に載せ、実績に乗せるほうを選ぶであろうと儂は予想しますが」

 「ふむ。それではヴィンセント殿の場合はどうするのだ。クリステンセン殿」

 ルクノータ監査官は、まだ納得いっていない様だった。

 「一名で行った場合は、討伐場所と日にちだけ記録の上、魔石の買い取りは行うが、討伐記録には今後、一切載せない。これでどうですかな。どのみち一名ではどの様に斃したのかも不明で御座います」

 

 「なるほど。一人で斃し続ける限り、討伐記録にしないという事かね」

 「それが一番よろしかろうと儂は思っております。問題がありますかな。ヴィンセント殿」


 いきなり話を振ってきたな。この古狸。

 「はい。私は、自分の、階級を、上げたくて、斃している、訳では、ありませんから、それで、結構で、御座います」

 一応、ペコリとお辞儀だ。

 

 「今後はその証拠として、耳が有るものは耳を必ず納めて貰う事で、盗品との区別をつける事といたしましょう。まあ魔物、魔蟲にはそういう物は有りませんが、それは致し方ありますまい。牙や何かしら、魔石以外の物も取ってきて貰うのでどうですかな」

 クリステンセンが付け加えた。

 

 この方針でいいのかは、ベルベラディの仮本部を通して、第一王都の本部とのすり合わせが必要とのことで、この規則が適用されるまでは、支部長に一任という、現場にぶん投げとなった。

 

 この新しい規則が全支部に行きわたるまでには相当かかりそうだったが、支部長に一任といっても、それはトドマ支部のヨニアクルス支部長が分かっていれば良い事であろう。

 とはいえ、ヨニアクルス支部長は、あの時に私が預けた魔石や牙を記録に乗せて、討伐成績に加算するような事はしないと言っていた。

 クリステンセン支部長が判断したのとほぼ同じ事を、瞬時にあの時に下したのであろう。恐らくはそういう規則が今後作られるであろう事まで、見越していたのかも知れない。流石に優秀な支部長である。

 

 

 それだけで話は終らない。

 

 

 ルクノータ監査官がここに来た本当の理由は、別にあった。

 それはスッファ街への応援を第三王都に申請しているのに、全く人が来ない事が問題になっていた。支部長の代理なり、何なりも要請したが着任していない。

 

 ベルベラディの方からも八人しか着任しておらず、白金の二人が大掛かりな街道の掃除に専念出来ていない事が大きな問題となっていた。

 

 

 「申請して既にもう六〇日を越えました。その間に二回は此方に催促を入れています。しかし、それでも人が全く来ないのはどういう事なのですか、クリステンセン殿」

 「これではスッファ街の冒険者ギルド立て直しがいつまでたっても始まらない。現状は白金の二人にずっと頼りきりです。これは由々しき事態なのですよ」

 

 そこにエルカミル監査官が話に入った。

 「ここではまだ、スッファのような田舎に行くのは御免だとかいう、偏見がまかり通っているのかね?」

 「い、いえ。違うのですよ。第一監査官様。白金の二名の指揮配下に入って、その技が見れるなら、是非という志願者が殺到しまして御座います。副支部長まで、精鋭を連れて行きたい等と言い出す始末で御座います」

 クリステンセン支部長が席を立ち、テーブルの方にやって来た。そしてエルカミル監査官の方を向いた。

 「調整が難航しております。第一監査官様。主力がごっそりとスッファに向かうような事になれば、この第三王都の冒険者ギルドのほうが人員がいなくなってしまうのです」

 クリステンセンは禿げあがった頭に汗をかいていた。

 

 どうやら、白金の二人は大人気らしい。然しその事で、かえって人が決まらなかったのか。何とも、難しい事だ。

 「くじ引きでも何でも、いいのでは?」

 とりあえず、決めたほうがいいだろうと思い、私は提案した。

 「流石に、スッファ街支部長をくじ引きにする訳にはいかないとは思いますが」

 

 そう言うと全員が微妙な笑い顔だった。

 

 私はこの機会に、どうしても言っておきたいことがあった。

 「ご無礼を、承知の上、僭越(せんえつ)ながら、申し上げます。第三王都支部長様。スッファの、立て直しは、勿論、ですが、トドマ支部は、怪我人が、頻出。定員割れ、目前です。ベルベラディの、仮本部も、第三王都の、冒険者ギルドも、なぜ、かかる、この、事態を、放置なのですか」

 

 出過ぎた真似として、トウレーバウフ監査官がいたら、(たしな)められたかも知れない意見表明だが、言っておかねばならない。

 

 「総じて、北東部は、手薄に、見えました。スッファ支部の、人員流出も、うっすら、聞いては、いますが、魔獣の、増えた、北部街道を、放置しすぎな、気が、いたします」

 

 私は胸に右手を当てて軽くお辞儀した。

 

 「いやはやなんとも。そなたは冒険者ギルドに登録されたばかりだと聞いたが、随分とはっきりと物を申す方のようだ」

 クリステンセンは禿げ上がった頭に右手を当てた。

 

 「如何にも。如何にも」

 二度、三度と平手で禿げ上がった頭を叩く。

 

 「スッファ支部の方はともかく、トドマの近傍は白金の二人に頼り切りだったのは否めまい。確かに北部街道を放置したと(そし)られても反論の余地もない。ベルベラディから遠いことも、その要因ではあろう。それとて言い訳にもならぬな」

 やや苦り切った顔をしたクリステンセンはまた、禿げ上がった頭に手を当てた。

 

 私は顔を上げて、更に続けた。

 「トドマ支部は、警護も、警邏(けいら)も、ずっと、予備人員も、ほぼない、まま、四人で、行って、いる、場所ばかり。このまま、魔獣の、動きが、活発に、なれば、不測の、事態が、起きかねません。既に、山は、異変が、起きております。そうなれば、トドマ支部まで、崩壊して、鉱山の、宿営地に、大きな、影響が、でますでしょう。それは、少なからず、王国の、警備に、影響が、御座います」

 

 全員が無言のまま、私の方を見ていた。

 

 「ヨニアクルス、支部長様は、確かに、優秀で、御座います。ですが、人が、居ないのでは、割り振りも、限度、という物が、御座いましょう」

 「(いささ)か、口幅ったい事を、申し上げましたが、もう少し、北部街道に、目配り頂きたく、存じ上げる、次第に御座います」

 

 ルクノータ監査官も驚いた表情だったのは確かだが、言わずにはいられなかったのだ。

 

 更に続けた。

 「警邏も、隊長が、一名、瀕死の、負傷で、交代に、戦技指導教官が、山に、行く程に、逼迫(ひっぱく)、している、と言えば、御理解、頂ける、のでは、ないかと」

 

 クリステンセンの目が大きく見開かれている。愕然としたのであろう。

 

 「其処まで追い込まれながらも、何とか人員を回しているのか、ヨニアクルス殿は。……流石、この第三王都随一の英俊偉才と謳われた男よ。あの目の怪我さえ無ければ、彼は今頃……。いや、起きてしまった事は変えられぬ……」

 暫し、クリステンセンの目が閉じられた。

 何かを考えているようだった。

 

 目を開けると、私を真っ直ぐ見据えた。

 「お嬢さんのその率直な物言いによる申し立て、この老骨に()みいりましたな。人員不足の陳情、確かに受け取りましたぞ。必ずやその件は解決をお約束いたしましょう」

 

 

 つづく

 

 冒険者ギルドの責任者であるクリステンセンは、マリーネこと大谷の陳情を受け入れてくれた。

 大谷は、人員の大幅な増員でトドマの人員不足を解消、あの警護隊の隊員たちの負担を減らしたかったのである。

 

 次回 小旅行と職場復帰

 第三王都からトドマの支部に戻るのは、完全に旅行というべき日程である。

 馬車に乗って湖の西岸まで行き、そこからの船旅もある。

 

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― 新着の感想 ―
[一言] まるで貴人専用の座敷牢のような雰囲気ですね。
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