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126 第15章 トドマの港町 15ー33 続々・山での警邏任務2

 マリーネこと大谷は、新しく着任したリック隊長と、魚醤工場の警備から仕事を始める。この週も淡々と仕事が過ぎていくはずだった。

 

 126話 第15章 トドマの港町

 

 15ー33 続々・山での警邏任務2

 

 

 私は、いくつかの店の前を通り過ぎて、再び港の前にいた。

 トドマの港は今日も魚臭い匂いを漂わせていたが、活気でいっぱいだ。

 対岸のカサマから大きな平たい船で運ばれて来た荷物がどんどん陸揚げされて行く。

 

 時々水鳥たちが群れを成して、けたたましい鳴き声を上げて、やってくる。

 一斉に着水。船の近くの湖水に水鳥の塊が出来上がる。

 

 水鳥の啼く声が、けたたましい。なにか数羽の水鳥が喧嘩をしているように見えた。

 水鳥の塊がさっと、ドーナツ状になって数羽が真ん中に残される。

 周りの水鳥が一斉にはやし立てるように啼き始め、その一帯だけ騒然となった。

 

 私はそれをしばらく眺めていた。

 鳥たちの喧嘩は唐突に終ったようで、ぴたりと静かになり、鳥たちが一列になって水上を泳いでいく。

 

 湖面を渡る風はそれほど爽やかでもなく、湿気を含んでいた。

 北東のほうは、分厚い雲に覆われている。湖の南に目を転じれば、雲も疎らな晴れた空だった。

 これから雨の季節というのが、いまひとつ実感がないが、日々の霧の多さを考えれば、山は雲が低く垂れこめていて、いつでも雨になるという事になる。

 確実に季節は変わってきているのだ。

 

 私は、荷揚げで喧噪の続く港を後にした。

 

 やや急ぎ足で、鉱山の宿営地に戻る。

 まだだいぶ明るいうちに、宿営地の門にたどり着き、挨拶して中へ。

 

 

 この日の夕食後の打ち合わせは、隊員たちの場所変えクジの日である。

 リック隊長は、ギングリッチ隊長の替わりで来たので、場所は魚醤工場の近辺警邏であった。


 リック隊長の首にある階級章は、特別に作られた銀〇三つの階級章。

 そこには、左に☆三つが刻まれていた。

 これは……。

 

 そうだ。ギングリッチ教官が首つけている物と同じ。

 ☆が一つ多いのは教官の印かと思っていたが、どうやらそれだけではないらしい。

 本来は金の階級なのに、ここの隊長職につくためにリック隊長は態々、銀〇三つになった。

 ギングリッチ教官は、戦技剣術指導をしているが、態々降級して銀〇三つになった。でも、他の隊長たちは、たぶん元は金だっただろうと思うが、普通の銀〇三つに☆が二つ。

 何かルールがあるんだな。

 私にはまだわからないが、支部長が説明もしないという事は、私は知る必要が無いという事だろうか。

 

 リック隊長が両手を腰にあてて、軽く自己紹介をした。

 「リック・エンデルだ。ここの勤務はもう、とっくの昔に卒業したと思っていたのだが、またしてもやる事になった。支部長もひどいお人だ」

 彼は笑いながら、左目だけ閉じた。

 

 彼は左手を握って人差し指を伸ばし、顔より少し上に向けた。

 「まあそういう事で、どうやら古巣に戻って来たようだ。皆よろしく頼む」

 

 彼を観察する。ほんの少し焼けた肌だが、恐らく地肌はもっと白いのだろう。

 金髪をやや短めに切った髪型は、如何にも好青年だ。やや長い尖った耳。

 瞳は蒼。整った顔立ち。やや彫りが深い。身長はここにおいては平均的な物だろう、二メートルちょいだ。

 

 皆から、一斉に声が上がっていた。

 どうやら、彼は人気があるらしい。

 

 支部長が私を直接紹介した訳ではない。恐らく彼は私を知らない。

 初顔合わせである。

 隊員たちの間を抜けて、彼の前に出ていった。

 

 改めて、リック隊長に自己紹介する。まずは彼を見上げて右手を胸に当てる。

 「リック・エンデル様、私はマリーネ・ヴィンセントと申します。以後、お見知り置きくださいませ」

そう言ってスカートの端を両手で掴んでから僅かに広げ、左足を引いてお辞儀した。

 彼は私の挨拶を受けると、さっと右手を胸に当てるや、体を九〇度曲げたお辞儀を見せる。

 「これはこれは、ご丁寧な挨拶、痛み入ります、マリーネ・ヴィンセント嬢様」

 「支部長様から、お話とお噂は伺っております」

 うわぁ。この人、ワザとやってるな。しかしサマになっていた。どこかでこういう事をする機会がある人だ。

 

 「現場では、お手柔らかに、お願いします」

 私はそこで小さくお辞儀し右手を胸に当てる。

 「では、リック・エンデル様、ごきげんよう」

 再び、スカートの端を両手で掴んでから僅かに広げ、左足を引いてお辞儀。

 それから小さく手を振って、私は営業スマイルのままそこを後にする。

 「ごきげんよう」

 彼が後ろから声を掛けた。

 

 明らかにここにいる多くの隊員たちとは、振る舞いが違っていた。

 やや、飄々とした雰囲気を感じるリック隊長は、確かにどこかしら支部長に似てはいる。支部長もどこかしら育ちの良さも感じる部分があるが、リック隊長もそれは、はっきりと出ている。

 私が、やり過ぎたのでなければいいのだが。

 

 ……

 

 娯楽棟入り口近くで遠巻きに眺める。その後はリック隊長は顔馴染みらしい、ここの人たちと雑談を始めていた。

 ここの勤務を長くやっていたのなら、ここに知り合いも多いだろう。

 

 娯楽棟では場所替えのくじ引きが始まっていて、声が一段と熱気を帯びていた。

 

 私はそっと、娯楽棟を後にした。

 リック隊長は気難しい人ではなさそうだし、腕は確かだ。何しろ金の階級なのだから。

 

 私としては、距離感が適当な人ならば、誰でもいいのだ。

 この異世界において私は異邦者、いや招かれざる訪問者なのだから……。

 

 この異世界の一員に、私は成れる時が来るのだろうか。

 彼みたいにスムーズにすっと溶け込めるように、私自身がこの世界の一員になれれば。

 そうしたら、私はどういう風に生きて行きていけるのか。

 それは、今は全くわからない。

 出来れば、生産職希望は今の所変わっていないが。

 

 ……

 

 翌日。

 

 ここからはリック隊長を入れて、ズルシン隊長、スラン隊長の三人の持ち廻りでの警護と警邏が続く。

 

 この日は、朝靄も少なかった。

 朝起きてやるのは、何時ものストレッチ。そして柔軟体操からの空手と護身術。

 雨も降っていないので、何時ものように廊下の外で、剣の鍛錬。

 そしていつものように、早めに私は門の前に行く。

 

 そこでやるのは二刀剣術。ミドルソードは、ポロクワで買ったあの軽い剣。

 それで、少し力が入り過ぎてしまい、まだ慣れない。買ったばかりなのでしょうがない。

 体の優遇があるので、どれを持っても重いという事は無いのだが、重量差は感じる。この剣は軽すぎて、鉄剣と比べると歴然としている。

 この軽さを生かしての速度を出す剣のほうが、いいような気もする。

 

 男衆が出て来る鐘の音。

 リック隊長とズルシン隊長、スラン隊長の三人がまず出て来た。

 三人は何か話しながら歩いている。

 それから他の隊員たちが、門の近くに集合。

 

 私はリック隊長と組んでの工場近辺警邏からの、魚の水揚げ警護。

 今日の作業は私は初めてである。

 

 雨の降らない日にやらないと危険な作業であるために、今日明日でやってしまわないといけないらしい。この時期に雨が降らない日は貴重であるからだ。

 

 この後、暫く雨が降る事が予想されているために、揚げていく魚の量がかなり多い。

 四つの工場で処理される魚の量を見積もらないといけないのだが、凡そ四週ほどの間、水揚げなしで困らない程度は必要なのだそうである。

 ただ、天日に晒せない事で、醗酵熟成が時間が掛かるために、普段通りの魚の量で捌く訳でもないらしい。

しかし、それは二〇日以上は確実に雨が降るという事を暗に意味していた。

 

 下の湖から、崖の上にある水揚げ小屋まで魚を上げている最中に襲われないか、警邏隊が付近を警邏しつつ小屋近辺の警護も行う。

 

 一日かけて、下の湖から何度も何度も魚を崖の上に上げていく。

 あの時に見た、淡水の黒鯛以外に、様々な魚たちが水揚げされて行く。

 魚たちは桶に入れられて、荷車に載せられた。それはどんどん工場に運ばれて行く。

 工場の中の生け簀で飼う訳だ。

 桶を運んでいく荷車を警護するのも、隊員たちの役目だ。

 そんな作業が、日暮れ近くまで続いた。

 足りなかった分は翌日も水揚げするとの事である。

 

 

 翌日。

 

 今日は朝靄が、晴れず、そのまま薄い霧になった。

 

 スラン隊長と伐採場の警護から別れて、若木の植栽後の下生えの刈り取り護衛。

 実はこれも初めてなのだ。

 

 既に植えてある若木の周りに生えた植物を軽く刈り取るが、小さな雑草は残す。

 小さな雑草は、根が張る事で土が流されなくなる。

 

 特に蔓植物は根っこから処分する。徹底的に抜かないといけない。

 そうしないと若木に巻き付いて成長を阻害、場合によっては若木を枯らしてしまうのだ。

 

 樵ギルドの人たちが若木の管理に勤しむ中、私は周りの気配を確かめるほうに集中した。

 小動物たちはいる様だが、魔物の気配はしていない。

 霧は僅かなので私の匂いでどんな魔獣が出て来るのか、油断はできない。

 

 しかし、この日も魔獣は出てこなかった。

 毎日、何かしら出る物だと思っていたのに、出てこない事でかえって不気味だった。

 

 

 翌日。

 

 朝から激しい雷が鳴り響き、じきに大雨になった。

 ズルシン隊長と粘土採集場の警護の予定だが。

 

 今日の大雨は、辺りが見えないほど降っている。

 採集場警邏自体が中止に成る程、降ってきていた。

 今日は、全ての現場でお仕事中止。

 

 雷は鳴り止まない。村の時のあの雷雨を思い出す。

 その、あの巨大竜を見た日だ……。

 

 廊下の天井を叩く雨の音が、かなり大きな音になっている。

 かなり大粒の雨が降っていた。

 

 結局、雷が止んだのはお昼近くになってからだった。

 しかし土砂降りの雨は、一向に勢いが衰えないようだった。

 

 ……

 

 翌日。

 

 やはり大雨。

 昨日から大雨が降り続く事になった。

 

 なるほど、この勢いで雨が降れば土砂崩れがあっても不思議でも何でもない。

 そう思わせる雨が降っていた。

 私は剣を持って、革のマントを羽織って、西にある鍛冶の作業場に向かう。

 

 鍛冶場は二つの炉を除いて他は火が入っていなかった。

 四人の鍛冶師が何かを叩いていた。

 鍛冶ギルドの事務所に行ってみる。

 

 「すみません。誰か居ますか?」

 返事がない。ホアンスを探してみる事にする。。

 彼は、事務所の奥の方で丁度何かの計算をしていて、机の前に座り込んでいた。

 

 「ホアンスさん、こんにちわ」

 声を掛けると、彼はかなり難しい顔をしながら、こちらを向いた。

 「おや、ヴィンセントさんですね。どうかしましたか?」

 「あの、剣を、振る為に、鍛冶場の、一部、使っていない、場所を、借りても、よろしいでしょうか?」

 彼は小さな笑顔で答えた。

 「邪魔にならないような場所なら、どうぞどうぞ」

 そう言うと彼はまた、机の上にある皮紙と格闘を始めたようだ。

 

 とりあえず、ホアンスさんの許可は得た。

 鍛冶場は広い。

 

 自分が動き回っても大丈夫そうな場所を見つけた。鍛冶師たちからも、十分距離を取った。

 

 剣を振るう訓練を開始した。

 暗い場所だが全く問題ない。どのみちやる事はシャドウ剣術なのだ。

 いや、正式にどういうのかは知らない。私が勝手にそう呼んでいるだけだ。

 

 村の時の事を思い出す。

 あの時も、雨が続いて体が鈍りそうだったから、鍛冶場を鍛錬道場にしたのだった。

 空手技と護身術。しっかり鍛錬する。

 下が土間なので、転がる事はやめておいた。

 

 二刀剣術もやろう。

 新しく買った少し長い剣は右手。左手に何時ものブロードソード。

 これで、色んな方向からくる剣を全て弾くか、捌いて、右手のこの剣で、差し込む。

 

 突く剣は、速度があると避け難いのは、あの黒服の男と戦ってよく分かっている。

 特にあの短い剣は、当てて逸らせるのも容易では無かった。

 

 この新しい剣は先端に向かいやや幅もある。相手に刺し込んで捻れば、それで致命傷になる。

 スラン隊長に言われた、ほぼ動いていないような状態で相手の剣を弾き、或いはフェイントで弾かせずに、突っ込んでいく練習もやる。受け身からの反撃、といったところか。

 

 ダガー二つの謎の格闘術も、忘れてはいけない。

 目を閉じて、あの黒服の動きを思い出す。あの手が伸びた黒服と、最後の男が同時なら、私はすぐにでも死んでいただろう。あの二名の縦横無尽な短剣を、同時に脳裏に描く。

 あの二名なら避けるだけでも、無理だな。

 しかし、イメージトレーニングを続け、ダガー二つや、剣二つで弾いて、捌くことを練習する。

 

 そして、ふとスッファの北側で出たあの傭兵の殺し屋らしい男が放った剣を思い出した。

 とてもそうは見えなかったのだが、重い剣筋で、打ち合わせるのに苦労した。

 こちらの手が痺れそうな重さだった。

 そして時々、横から薙ぎ払うような剣が来て、大きい鉄剣でも受けるのは苦労した。

 相手が横から剣を出してきた時には、私が打ち合わせるのは本当は愚策だ。

 同じような体格ではないのだから。

 

 私に出来るのは、剣の刃で当てるよりは刃を斜めにして、そこに相手の剣の刃を当てて、捩るようにして剣を上に跳ね上げる。

 一瞬が勝負だ。見極めをしくじれば、私の命がない。

 

 私の剣術は他の人が見たら、出鱈目(でたらめ)だろう。

 私の身長で、他の人たちと同じ剣術ではだめなのだ。彼らは私の身長の二倍近い。

 そんな私には私なりの剣術がある。たぶん。

 

 スラン隊長に教わった二刀剣術は、恐らく私の身長がもう少し伸びた時に、真価を発揮するだろう。二つの剣を使って縦横無尽に斬り合うだけでなく、二つの剣で相手の剣をいなすことで、こちらが主導権を握る剣術だ。

 それ以外は専ら、私の出鱈目な膂力で叩き出す速度と力。そして反射神経頼みだ。

 結果的に、魔獣を一太刀で(ほふ)る事が出来ていれば、それが私専用の剣術なのである。

 

 ……

 

 そして、来る日も来る日も、ひたすら雨である。時々大雨になる。

 雨音が、大きい。

 

 その大雨に混ざって、何か笛のような音を聞いた。初めての事だった。

 誰だか、女性陣の一人が笛のような物を吹いているのだ。

 大きな雨音で、あまりしかとは聞こえないが、ややゆったりとした旋律。

 やる事が無くて、暇だから楽器演奏なんだろうか……

 

 一方、私は鍛錬の汗を流すのには、早い時間でもいいかと考え、まだ明るいうちに共同浴場にいって体を洗う。女性陣が来ないか、いつもハラハラする。そういう心配をしないで、一人でゆっくり入りたいのだが。

 

 やる事はあとは、洗濯くらいだ。とはいえ、普段用を沢山は持ってない。何時もの服とツナギ服を交互に着用、あとは下着を洗うくらい。

 干しても乾きが悪いので、交換は二日か三日に一度になる。ブラウス以外に、何か簡単な上着も作ればよかったのだろうな。ズボンと合わせて着用すれば三着で交代で回せたのだ。

 まあ、服は今後考えよう。

 

 …………

 

 毎日、空手と護身術、そして剣の鍛錬とダガーの二刀流に、何時もの剣で二刀剣術。

 

 

 山には雨が降り続き、さらに一八日、つまり三週が過ぎる。

 その間、私はずっとお仕事も無し。女性陣の部屋の何処かで笛が奏でられるのも、毎日になった。

 

 止まない雨。時々鳴り響く、雷鳴。

 

 男衆らは、毎日娯楽棟にすし詰めである。

 

 何もかもが黴て来そうなくらい、雨の日々が続く。

 この分では、この宿営地とトドマの港町との間の街道も川になっているのではないだろうか。

 

 そしてこの日、足の骨にひびが入って戦列を離脱していた、ラート隊員が警護隊に復帰した。まだちょっと早いがするが。

 そこで初めて彼の名前がラート・グリネスというのを知った。

 あの時の副長ツィーシェはツィーシェ・グースというらしい。

 

 みんな名前で呼びあっていたせいで、苗字は知らなかった。

 そのくせ、私の事を名前で呼ぶのはギングリッチ教官だけで、他の人は私の事を苗字の方で呼ぶ。ヴィンセント殿、と。

 そして、なぜかギングリッチ教官の事を、皆は名前で呼ばない。

 ゲオルグという立派な名前が有るのに、あの人もなぜか苗字で呼ばれている。なぜなのか、さっぱり分からない。

 

 とにかく、多くの隊員に実は苗字がある、というのを知ったのはその時だった。

 そもそもベッドで寝ているカレンドレ隊長の苗字すら知らなかったのだ。

 カレンドレ・イオンデックというらしい。

 ズルシン隊長は、ズルシン・バロムドーレ。

 そしてスラン隊長はスラン・ドルズネイ。

 

 他の副長たちにも、みんな苗字があるらしい。

 支部長はそういう事を一切教えてくれなかったし、ギングリッチ教官は誰に対しても、名前で呼ぶ人だ。支部長を呼ぶ時だけ、役職名だしな。

 

 亡くなったクバル隊員には苗字が無かったんだな。彼の場合、葬儀でも名前だけだった。

 

 

 その間に、雨が弱まった日だけ、雨中の警邏や土砂崩れの監視と警戒。

 既に、粘土採掘場で二か所、若木を植える前の伐採場で一か所、土砂が崩れていた。

 

 そして殆どの日々は、ただただ大雨が降るために、既に道は小川と化していて警護が出来ない状態だった。

 魚醤工場の警邏だけは、工場近辺のみ、いける日は警護が続いていたが、これもとうとう道が川となっていて、行く事すら困難を極め、昼間警邏自体中止となっていた。

 

 あの工場の人たちは、こういう時のために食料を備蓄しているのだろうか。

 そして工場の夜勤警邏の人と交代すらできない。

 

 鉱山の方も、この雨では外の作業が出来ないので、作業自体が中止になっていた。

 たぶん掘ることは出来るのだろうけど、それを運んで出入り口まではいい。

 そこからこちらの宿営地にある保存場所に運べないのだ。

 それで、普段は見ない鉱山作業の人たちまでもが娯楽棟に来ていて、娯楽棟が溢れんばかりの人だかりだった。

 

 この宿営地の食事も、保存食といっていい、燻製肉と硬いパンとスープばかりになり始めた。

 時々、魚の干物や野菜が出る程度だ。まあ、鍛錬以外に体を動かしていないのだ。それほどカロリーはいらない。

 

 まあ、村の時の自炊は、もうちょっと酷かったので、これでも全然ましである。

 何しろ、ここには魚醤という万能調味料があるのだ……。

 

 そして、とうとう、また週末がやって来た。

 

 つづく

 

 山に雨が降り始める。

 それは仕事が出来ないほどの降雨である。

 仕事が出来ない状態になり、マリーネこと大谷は、鍛冶の作業場を借りて、自己鍛錬に勤しむ。

 そして、雨の中、日々は過ぎていく。

 

 次回 ポロクワ街の陥穽

 雨上がりの休日。マリーネこと大谷は、ポロクワに出かけることにしたが、そこで大谷は事件に巻き込まれてしまう。

 

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