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125 第15章 トドマの港町 15ー32 続々・山での警邏任務

 魔獣は散発的に襲ってきてはいたが、とうとう雨が降り始め、降り続く。

 週末に、とうとう支部長の手配で1つの隊が戻ってきて、山の仕事に編入されるという。

 

 125話 第15章 トドマの港町

 

 15ー32 続々・山での警邏任務

 

 翌日。

 

 起きてやるのは、何時ものストレッチ。

 そして、何時もの鍛錬である。

 外は朝靄。しかし、これはそのまま霧になるだろう。

 

 ギングリッチ隊長はくじ運が悪く、またしても魚醤工場の近辺警邏。

 夜警邏の人たちと、工場に向かう。

 

 霧が薄く、私の匂いが漂うなら必然的に魔物との戦いが続く。

 この週も、魔獣は散発的に襲ってきた。

 

 背中にぞくぞくするような違和感は、何時ものように魔獣か、魔物だ。

 頭の中で、僅かに鐘が鳴り響き、私に危険を知らせている。

 霧が少なく匂いが漂っているなら、必然的に私が狙われる事になる。

 

 薄い霧の中から現れたのは、三頭の比較的小型な鹿のような角を持つポニーサイズの魔獣。大きさは二メートルはない。体高も一・二メートルくらいか。私の身長くらいだ。

 今回出て来た魔獣は茶色の体毛で毛足が長い。一見して普通の温和な獣に見える。

 ギングリッチ隊長によれば『クリクスス』という名前らしい。相変わらず命名規則はさっぱりわからない。これも発見者の名前なのかもしれない。

 

 しかし見た目がどうであれ、私には相手が危険だと判っているのだ。そして、頭の中の警報が僅かとはいえ、鳴っている。

 油断するな、油断すると死ぬぞ。と、警告しているのだ。

 それが有るなら、たとえどんなに可愛い姿であっても、愛くるしい姿で愛嬌を振り撒こうとも、関係がない。

 

 まるで、子鹿がスキップでもするかのような、振る舞いで近寄ってくる。

 まるでかわいい小鹿が、無邪気に遊んでいるかのようだ。

 

 私の目の前に来た一瞬で目つきが変わり、(いが)む。

 その瞬間に私は抜刀!

 

 手応えあり。

 クリクススは口を開けて咬みつこうとしていたが、私が相手の右足の付け根から首の根元まで剣の刃で筋を付けた。

 一気に払った剣で付けた剣筋から鮮血が迸る!

 耳元で恐ろしいほどの(つんざ)く悲鳴。

 

 手応えは確かにあったのだが。浅かったか。一撃では(たお)しきれなかった。

 右八相に構えてそこから左に払った。首の下が斬れて大量に出血し、クリクススは横に倒れ、脚が暴れた。

 

 開いた口の中に恐るべき牙がまるで鋸の如く見える。

 こいつは極めて獰猛な魔獣だった。さらにその中に伸縮する口が見える。

 

 この魔獣も、か。

 咬み付いてびっしり生えている牙で抑え込み、その時に中の伸縮する口が肉に喰らい込んで、食べるのだという。

 噛む力、蹴る力が強く、前でも後ろでも蹴られると骨折して、動きが止まると咬み付かれるらしい。

 魔獣は四肢が痙攣していた。

 

 私は冷静に胸の前から、心臓がありそうな位置を目掛けて突いた。

 

 もう一度悲鳴が耳を突き抜けて、魔獣は息絶えた。もう、四肢の痙攣は止まっていた。

 

 残りは二頭だが、一頭はギングリッチ隊長と隊員たちで斃されていて、残る一頭は、奇妙な鳴き声を上げながら、森の奥に去っていった。

 

 ……

 

 ブロードソードで、二回斬り払っても斃せていない。首を斬り飛ばせなかったせいだな。

 過去にこんな事はなかった。下の地面が如何に柔らかく泥濘んでいたとはいえ、間合いをしくじったのか。

 

 もう少し凶暴なやつなら、返り討ちにされていたかもしれない。

 同じ相手に、二回も切り倒し損ねるなど。

 街道でのイグステラでも、一撃で斃していない時はあったが、その時は頭を切って斃している。

 こんな不手際は、次はあってはならない。

 私が魔獣相手に生き残るには、一撃で相手を斃す。それは今後も変わらない。

 

 右手に持ったブロードソードを三回、力いっぱい上下に振って、血糊を飛ばし、鞘に納める。

 

 それから私は屈み込んで、静かに目を閉じ両手を合わせた。

 「南無阿弥陀仏。南無阿弥陀仏。南無阿弥陀仏」

 小声でお経を上げて、頭の方の解体開始。

 

 何時ものように頭蓋を割る。

 魔石は私の親指ほどの灰色の石だった。

 隊長の指示で、魔獣からやや大きめの牙四本、頭の小ぶりな角も切り取る必要がある。

 口の中にびっしり生えた鋸のような牙の中で、やや大きい牙が上下左右で四本。これを丁寧に根本を削るようにして切った。それと頭に二本生えた小ぶりの角も削ってから切った。

 これで終わりか。他の隊員に手渡す。

 

 すると、ギングリッチ隊長は、中の伸縮する口も切り取るという。

 私はやった事もない作業で、他の人たちを見ていると、要するに下の顎を切って、喉の所に折りたたまれかけている伸縮性の白い器官のような口らしきものを切り取るだけだった。この白い口には細かい、固そうな歯がびっしりと生えていた。

 

 「これは、何かに、なる、のでしょうか?」

 「ああ、マリーネ殿はこれは知らないのだな。この器官は薬師(くすし)たちが買うのだ。薬になるそうだ」

 それが終わると、他の隊員たちが魔獣の首の所の血管を切って、血抜きをしていた。私が斬った方は、もう胸から大量に流血している。

 

 この二頭の死体を隊員たち四名で持ち上げた。この魔獣の死体を一度、魚醤工場の方に運んで、工場の敷地内に置かせてもらい、再び警邏に出る。

 

 しかし、今度は何かが出る事はなかった。

 魚醤工場に全員戻って、魔獣の死体を回収して宿営地に戻る。

 

 この日の夜はブロードソードの脂を洗って研ぎ直した。

 

 もう毎日のように森の奥から、何かが出てくる。

 最早完全に、以前の山ではなくなっていた。

 

 

 ……

 

 翌日。

 

 外は薄暗く、雲が厚い。

 起きてやるのはいつものストレッチ。そしていつもの鍛錬。

 

 今回は伐採場がスラン隊長。

 この日、時々強い雨がある。もう太陽は見えない。何時も曇り空で、時々強い雨が降っては止む。

 私は革のマントをして、他の隊員と共に伐採場に向かう。

 樵ギルドの作業員は、この雨状態では危険と判断して、休みになったようだ。

 

 雨は、時々止むのだが、直ぐに降り始め、やがて強くなり、そして唐突に止む。

 そんな状態の繰り返しだ。

 薄暗い森の横に作られた道を通って、伐採作業場に行く。

 雨は既にいくつかの場所の土を削って、浅い小川を作り始めていた。

 そんな中、奥の方に何かいる気配。そう、背中がぞくぞくし始めたのだ。

 

 この日は体の表面に鱗のような固いもので覆われたアルマジロのような魔獣が出現する。『メドローア』というらしい。

 ネズミウサギもいる。そういえばスラン隊長が『メドヘア』という名前だと教えてくれたな。

 メドローアは丸まりながら転がって体当たりをしかけて来た。

 隊員たちは広がって、それを避けた。樹木にしがみ付いて登った隊員もいた。

 

 コイツは転がるといっても、その速度がこれまた尋常ではない。

 しかも、背中部分は鱗のような、爪に似た角質のようなもので覆われていて、ぶつかるモノたちを轢き潰していく。一匹のメドヘアがその回転する丸まりに巻き込まれて、圧潰。ぺちゃんこになって、血の塊だった。

 

 これは、誰彼構わずという奴だ。アルマジロもどきのメドローアがそのミンチになったネズミウサギを食べ始めた。ネズミウサギたちも牙があるのだが、小さいためにメドローアの背中の鱗には歯が立たないようだ。

 三匹ほど出て来たメドローアはネズミもどきやらネズミウサギたちを轢き殺して食べている。

 

 スラン隊長は無言で右手を上げて、掌を後ろに向け、前後にゆっくり手を振った。

 要するに、少し後退しろという事だ。

 全員が無言で、そろりそろりと、動き始めるが何しろ雨が大量に降って泥濘んでいる。音がしないようにするのは無理だった。

 

 そのうち、一匹がこちらに向かって転がって来た。ギリギリまで引きつける。

 私の後ろは巨木の幹。躱したその瞬間!

 恐ろしいほどの音がして、メドローアが衝突した幹の上から一気に水が落ちて来た。

 その水に驚いたメドローアが丸まりを解く。

 全員が走り出した。その場から撤収。

 

 メドローアたちはネズミウサギたちを蹂躙して、お腹を満たしたのか、森の奥に去って行った。

 

 ……。

 

 昼になると再び雨が強く降り始めた。遠くで雷が鳴る。

 この雨では危険だという事になり、宿営地に戻る事になったのだった。

 

 昼過ぎに宿営地に戻ったが、雨は強いままだ。

 部屋に戻って着替え、すぐにツナギ服を洗って絞り、廊下に干した。

 乾くとは思えないが、やらないよりはマシである。

 

 ……

 

 翌日。

 

 案の定、ツナギ服は生乾きだが、渋々、我慢して着こむ。

 今日は粘土採取場の番だ。

 担当はズルシン隊長である。

 強い雨が降る中、私は警邏には参加しなかった。

 くじ引きに参加したものの、警邏の当たりをひかなかったからだ。

 ズルシン隊長と四名の隊員が警邏に向かっていった。

 陶芸ギルドの人は当然お休みである。

 私は何時もの服に着替え直し、ツナギ服はロープにかけて廊下に干した。乾くかどうかは判らないが。

 

 そして雨は止まない。

 

 部屋の中で蝋燭を灯して本を読んでいても、雨音が凄い。

 廊下に出て外を見ると、激しい雨。

 雨足が強く、雨は廊下の一部を濡らしていた。

 

 昼になる前に、雨の音は一層大きくなり廊下の屋根を叩いていた。

 そしてお昼には、ズルシン隊長たちも撤収してきていた。

 思いのほか雨量が多く、あちこちが水溜まりだという。

 万が一の事を考えて、撤収となったらしい。

 

 ……

 

 翌日。

 

 魚醤工場近辺警邏。

 再びギングリッチ隊長と四人の隊員と共に警邏に出発。

 強い雨が降り続き、道は小川のような状態になり始めていた。

 もう私の足では水溜まりがない場所だけ歩く事は不可能なほど、彼方此方が水溜まりだった。

 

 もはや森の中は完全に水浸しで奥に行くのは危険。

 隊長判断で工場の横に戻って、工場近辺の警備になる。

 この日も、魔獣たちは出なかった。

 

 ……

 

 翌日。

 

 伐採場担当の日。

 スラン隊長と他に四人の隊員とで警邏。

 今日も樵ギルドの人たちはお休み。

 

 雨は弱くなっていた。しかし、あちこちで雨水が小さな小川を形成して流れていた。

 お昼になっても雨はまだ降っている。

 

 雨が弱いうちに、若木を植えた場所を見て回る事になった。

 大雨が降って流される事もあるというのは、どういう事だろうと思ったが、かなりの傾斜地に植えた場所もある。ここの木を切ったのか。切ったあと、抜根も大変だっただろう。そこに植えたわけだ。

 特に土が流れそうな状態ではなかった。下生えも、雑草はわざと残している。

 表土が流れないようにするためだろう。

 

 小さい植木の場所は、木の周りに四角い長い板が四方に植えてある。態々、下は一か所だけ、拳半分くらい地面から浮かせている。

 暫く考えて、解った。これは若木が獣に食べられないようにする為の工夫だ。

 下が一か所だけ僅かに空いているのは雨が降った時の水が溜まる事なく外に流れるようになっているのだ。

 

 植えた場所を次々と見ていきながら、酷く抉れた場所がないか確認。

 伸びてやや大きくなってしまってる雑草を適当に切った。

 

 そうして宿営地に戻ると、雨が上がる。

 すっかり夕方になっていた。

 

 やっと五日が終わり、明日は休日。

 今日は夕食後の打ち合わせで、何やら発表があるという。

 

 夕食を終えて娯楽棟に行くともう、全員集まってきていた。

 この週末には、このところ東部の街カサマに出張していた、リック隊の六人が戻って来たという。

 支部長の要請で、この鉱山の警護警邏任務に来て貰う事になったのである。

 だが、要請は八人だった筈だ。二名欠員か。何か有ったのだな。

 

 当然の事ながら、リック・エンデル隊長の首にあったのは金の階級章だったが、大急ぎで、特別に銀○三階級の階級章が作られて、金の階級章は支部長預かりとなった。

 

 宿営地にその連絡が来たのはこの日の昼だった。それで夕食後の打ち合わせでギングリッチ隊長からその事が皆に知らされたのだ。

 

 リック隊長の部下は、銀○二階級二名と残りは銀○一階級が三名だった。

 六人は、明日の夕食までには来るという。

 

 ……

 

 翌日。

 

 ギングリッチ隊長は支部に戻るため、宿営地を後にした。

 私もギングリッチ隊長とともにトドマ支部に向かった。

 私は自分のトークンの残高照会をしたかったのだ。それと、もう一つ、用件があった。

 いつもの服にリュックを背負い、腰にはブロードソードとダガー。

 

 ギングリッチ隊長と軽く話をしながら、トドマ支部に向かう。

 リック隊長の事を聞くと、ギングリッチ隊長はやや面白がる表情だった。

 「ああ、リック殿は支部長とも仲がいい。少し似ている所も有る」

 まあ、会えば分かると言うばかりで、それ以上は教えてくれなかった。

 

 ……

 

 支部に戻るとギングリッチ隊長は元の教官に収まった。

 スージー係官から、居なかった間の、自主訓練の内容を聞いている。

 どうやら、あまり捗々(はかばか)しくはなかったらしい。

 ギングリッチ教官の(こめ)かみが時々、動いていた。

 まあ、これから雨になるし室内で訓練できるのか知らないが、教官がそこはうまくやるだろう。

 

 私は支部長に会う必要があった。

 「支部長様に、お話したい事が、あります」

 そう言うとスージー係官が、支部長の部屋に行くよう、通してくれた。

 

 私は支部長の執務室に向かった。

 

 ドアをノックして尋ねる。

 「支部長様に、お話があって、参りました」

 「入りなさい」

 私は中に入って深いお辞儀をした。

 「どうしたんだね。ヴィンセント君。何の用かな」

 支部長は休みの日だというのに、書類と格闘している。

 リック隊長たちが戻った事で、いろんな手続きとかがあるのに違いない。

 

 そこで、私は現場では目立ちたくなかったが、スラン隊長が自分の心配をしてくれて、「臆する事はない」という事を言われたと支部長に話をして、色々と既に十分目立ってしまっているという事を認めざるを得ないという話をした。

 その時に、スラン隊長が私の事を『アイギスの盾』と言ったので、アイギスの盾とはなんなのか、支部長に訊きたかったのだった。

 

 「そうか、あいつがそんな話をしたか。それはあいつにとっては辛い話だ。よくそれを持ち出したもんだな。それは、ある国の防衛隊の中の一つだ。戦争で……。いや、やめておこう。ここで君に話してもどうなる話ではないのだから。今は君の胸の奥に仕舞っておくだけにしておいてやれないか。ヴィンセント君」

 私は深いお辞儀をした。

 

 「うむ。頼むよ」

 スラン隊長はやはり元軍人または傭兵部隊の要職。それも相当、訳ありらしいな。支部長が話すを辞めたくらいだ。たぶん、いい話ではないどころか、相当悲惨な話なのだろうという事は、容易に想像がついた。

 

 「それで、話というのは何だね。君が現場でそういう話を聞かされたという事を話に来た訳では有るまい」

 いつもは飄々とした態度の支部長だが、この時は違っていた。

 

 「実は、スッファに、行っている間に、向こうの支部で、報告した以外にも、魔獣は、斃していました。向こうで、報告を、躊躇ったのは、目立ちたくはなかった、ですし、あの支部で、細々とした事を、報告するのが、難しかったのです」

 「ふむ。それで?」

 「実際には、キッファから、戻る時のは、報告して、居ますが、街の、北部で、イグステラを、斃したのと、キッファに、行く時も、イグステラが出て、斃して、いるのです」

 私はリュックからイグステラの魔石と牙、角を取り出した。

 この品物迄、ジウリーロにわたして処分してもらうのは、何かが違う気がした。それで、除けておいたのだ。

 

 「なるほどな。君の剣の腕ならさもありなんと言いたいが、よく電撃を躱せたものだ。それについてはどうなのだ」

 

 「それが、運だったとしか、言いようが、ありません。ですが、私を、狙う、暗殺者がいて、一回目も、二回目も、彼らが、その犠牲に、なったのです。私は、その、隙きを突いて、魔獣を倒せた、だけです。その説明まで、スッファ支部で、やりたくは、ありませんでした」

 

 ヨニアクルス支部長は、ずっと私を見つめていた。

 「それを私に話すという事は、君は目立ちたくはないのだが、少なくともそれを隠すつもりはもう無い。という事だね」

 私は頷いた。

 「君はそれを隠して、それこそ港に撒いてしまっておけば無かった事に出来る。そうはしたくないという事か、それとも気が変わったからかね」

 

 「うまくは、言えませんが、魔獣たちにも、命はあった、のです。その、生命を、奪ってしまった、以上、この魔石や、牙に、意味があるなら、それは、使って、やりたい。それが、命を奪った、彼らへの、()()けだと、私は、思いたい、からです」

 

 ……

 

 ヨニアクルス支部長は私を見つめたまま、暫く無言だった。

 

 「君は妙に信心深いな。『死を司る神オルルカ』にも祈ってるのかね。まあ、君の気持ちは判った。これは預かっておこう」

 「分かりました」

 そう言ってお辞儀すると支部長は言った。

 「規則なら、これは全て記録されなければならんが、心配はいらんよ。君の討伐成績に乗せるような事はしないから、安心したまえ」

 私は深いお辞儀をして、退席。

 

 ここにどんな神々が祀られているのか私は知らないのだが、死を司る神か。ギリシャ神話でいう所のハデス、ローマ神話のプルートーだろうか。冥界の王だ。

 

 それから、スージー係官に私の代用通貨(トークン)の残高を調べてもらった。

 彼女は暫く、私を見ていたが書類を出して計算した。

 彼女は口には出さず、私の手に数字を書いた。四三九リンギレ。

 これはポロクワ支部から請求があって、差し引いた数だという。

 

 「すぐに手を洗って、それを流して消しなさい」

 彼女はやや命令口調だった。

 「本当は支部の方から気軽に教える事はしません。貴女はその規則を知らなかったのでしょうから、今回だけは特別に教えます。以降自分で管理して下さい」

 「皮紙に書いたりするとその金額を目にする人が出かねません。それで無用の(いさか)いを起こす事は、事務方としては本意では有りません。貴女も自分の代用通貨に幾ら入っている等と、無闇に人に話してはいけませんよ」

 「分かりました。ありがとうございます」

 お辞儀をして、トドマ支部の裏手にある訓練場に出る。ここの水場で手を洗った。

 手に書かれたインクの跡が消えるまで。

 

 ……

 

 やはり、金額を表沙汰にしないのは、その事で喧嘩や強盗になるのを、事務方も恐れているというか、気を付けて慎重に扱っているという事だな。

 しかし、自分のトークンにどれだけ入ってるかを、事務方に気軽に訊く事が出来ないのは面倒だと思った。

 

 事務所を出て、トドマの港街を歩く。

 少し時間はあった。

 

 

 つづく

 

 休みの日に、支部にまで顔を出し、支部長と話をするマリーネこと大谷。

 街道でたおしたが、スッファ街支部では報告しなかった魔獣の牙と魔石を支部長に手渡したマリーネこと大谷。

 トークンに残っていた金額も知ることが出来たのであった。

 

 次回 続々・山での警邏任務2

 リック隊長と警護仕事から始まり、淡々とお仕事の日々が過ぎていくはずだったが。

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