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124 第15章 トドマの港町 15ー31 ポロクワ市街・見学2

 思いがけなくも朝食を戴き、ポロクワ市街をもう少し、見学。

 街は広かった。

 様々人々が行きかう街だった。

 

 124話 第15章 トドマの港町

 

 15ー31 ポロクワ市街・見学2

 

 翌日。

 

 宿で目が覚める。

 服を皴にしないように脱いで下着だけで寝たが、ここは夜間寒くなるような地域ではない。こじんまりとしたベッドは私には十分に大きすぎるくらいだし、掛け布団も快適だった。

 起きてやるのはストレッチ。すこし体を動かし体を解す。

 ここで静かにできる鍛錬は手技だけの空手と護身術。ダガーの方は止めておいた。

 

 服を着る前に、昨日買った剣をリュックの後ろに結びつける。

 一緒に貰った帯はリュックに入れた。

 

 この剣にかなり支払った。

 

 スッファで街道の魔獣を斃したので、たぶんトークンにかなりの金額が入ったはずである。マースマエレファッスと、イグステラ。一人で全額受け取ったのだから相当な金額になったのは間違いない。

 どれだけ残っているのか、確かめないといけないのだが。

 スッファの記録は私が正式に銀三階級になった時に来ているので、トドマの冒険者ギルドに寄っていけば分かるのかもしれない。

 

 畳んでおいたお洒落着を着直して、荷物を背負って部屋を出ると、宿の主人が呼び止めた。

 朝食を出すので、食べていきなさいというのだ。

 

 食事の用意されたテーブルの横で私はリュックを下ろす。

 

 椅子の高さは主人が気を利かせて、クッションが置いてあって、私の必要とする高さに合わせてあった。

 

 朝食は、パイのような生地を二枚か三枚重ねた物になにか甘いものが掛けてある。蜂蜜に似た『何か』。

 それと、果物の生ジュース。

 小魚を捌いて、甘酢に漬けたものがパイ生地に載った物が出た。

 それと、やや白濁した様に濁ったスープ。

 

 手を合わせる。

 「いただきます」

 

 スープから戴く。この濁ったようなスープには肉のエキスや野菜の旨味が出ていた。そこに僅かに魚醤が入れてある。隠し味というよりは、もう少し入っていて味を整えていた。

 

 小魚の乗った甘酢あんかけ風のパイ生地をスープと共に戴く。

 なるほど。この甘酢の魚の味と合わせてあるのだという事が分かった。

 これはこれで、かなりいい味だった。

 

 「フェルト様、この食事は美味しいですね」

 笑顔でそういうと、夫妻の顔も笑顔だった。

 パイに何か甘いものが掛かっている食べ物をデザートにして、果実の生ジュースを戴く。

 この生ジュースはオセダールの宿で出た物とも違っている。やや甘酸っぱいが甘味のほうが勝っていた。

 

 水も一杯戴いて、口の中の味を流す。

 

 手を合わせる。

 「ごちそうさまでした」

 

 食事を終えて、主人に、もう宿を出る事を伝えると、受付でもう一度署名して欲しいという。

 私はポーチからリンギレ小銀貨を一枚取り出して手渡してから、書類に署名。マリーネ・ヴィンセント。相変わらず文字が下手である。

 

 たぶん、宿に泊まった何某がこの料金を支払いました。とか、そういう書類なのだろう。店の主人がデレリンギ大銅貨を五〇枚数えて渡してきた。お釣りだ。

 

 店の主人に挨拶すると、夫人も出て来て、二人で見送ってくれた。

 

 

 今日は歩いてポロクワ市街を見学する。

 それなりに大きな市街で、人口も三万以上、四万人近くはいるようである。少なくともスッファは勿論、キッファの街より大きい。

 

 そこにいる人々を見る。

 ここもスッファ街以上に、様々な人々の居るコスモポリタンな感覚の街である。

 それはここが東の隊商道にある程度近い事も、大いに影響しているだろう。

 

 ポロクワ市街の東にはカミナの港町。

 南東に太い街道があり、これはコルウェの港町に継っている。

 それはカミナの港町の南にある大きな港町だ。

 そのコルウェからまっすぐ西に向かうのが東の隊商道で、かなり行くと第三王都がある。

 

 ポロクワ市街から南に細い道があり、馬車は通れるものの行き違える事が出来る程でもない道の先にはマリという小さい街、その先は東の隊商道に繋がっている。

 

 真司さん、千晶さんが滞在しているスッファの街も南には街道とはとても呼べない細い道が有り、テッファ、さらに南にはクルーサの街がある。その先は第三王都があるのだ。

 

 つまりトドマからポロクワに荷物が回送されているのは、仲買商人の都合に過ぎない。トドマの港ではなく、コルウェの港で荷揚げすれば、そのまま第三王都まで送って、そこから細い道ではあるが、魔物の出る北の街道を通らずに、スッファ街まで物資を運べる。しかし、それでは北の隊商道を使う商人をパスする形になる。

 

 街道が一時的に通れなくなっている今、スッファとキッファに物資を送って利益を出していた仲買い商人は遠回りの影響をもろに被っている。いったんポロクワを経由させて、南に向かい、そこから西に運んで、スッファやキッファに持ち込むしかないのだ。

 

 行き交う多くの人たち。

 

 見た事もない服を着た複数の商人らしき男たちが、早口で何かを喋りながら歩いていく。残念ながら共通民衆語ではない。何を喋っているのか。

 概ね、肌の色が濃い人々が多い。小麦色というか、赤銅色に近い人々も多い。冒険者ギルドのメンバーはそれこそ、人種? 種族? がばらばらなので、こうやって纏まって同じ種族? な人々を見る機会はさほど多くはない。

 同じ種族どころか、同郷の人で固まっているのは粘土採集している陶芸ギルドの人たちとか、伐採場にいる樵ギルドの人たちくらいだ。あれとて、あの職場だから、それを見れているのであって、港町の支部に居たらそれも見る事はない。

 

 やや、小綺麗な服を着た紳士な男たちが簡単な屋根のついた馬車に乗って、ゆっくりと通り過ぎていく。

 

 すこし、街中を歩いてみる。

 小綺麗な道路は石畳。綺麗に真っ直ぐな道路が碁盤目のように街中に通っている。

 かなり優秀な行政官がこの街の設計を行い、道路を引いた事は間違いない。

 そしてそこに整然と建物が立ち並ぶ。全てが白い漆喰と木材の柱。屋根は何で出来ているのだろう。茶色の屋根瓦だった。

 

 遊び人風の女性たちは、ここ、ポロクワ街にもいた。

 彼女たちは相変わらず、美しい。そしてやや淫らな挑発的な服、そう胸元が大きく開いていて胸の上部が見え、太股の横の所が大きく上に切れ上がったスリットのあるワンピースのような服を着て、街中の道路脇にある長椅子に座っていた。

 

 彼女たちはスッファやキッファの街でもそうだが、何かを飲んでいる。

 何を飲んでいるのか、さっぱりわからないが、麦酒や水ではなさそうだ。

 透明な入れ物に入っていたのは、白っぽい飲み物。元の世界の牛乳とは思えないし、なんだろうか。

 

 私が近くを通ると、彼女たちの表情が変わる。

 私は営業スマイルで手を振ると、彼女たちも手を振ってきた。

 そのまま、通り過ぎて別の通りに入る

 

 街の中央よりやや西。街中に流れる川にほど近い、細かい部分を見ていく。

 

 ポロクワ街は、ソルバト川の支流が流れている所に都市が築かれていて、飲料水は地下水だが、それ以外の水はすべて川からの水道によって賄われている。

 スッファ街はともかく、キッファ街は大きかったが近くに大きな川がない。

 彼処は全て井戸だったのだろうか。小さな川はあったのであれを使っているのだろうか。

 

 ここは街の中に川が引かれている。そこで水車によって水を汲み上げ、それを使って噴水、公共浴場、各家庭で必要となる飲料水以外の、たぶん食器洗いとか洗濯などの水需要を満たしている。

 お風呂は恐らくはみんな公共浴場だろう。燃料代を支払えるほど裕福なら、その屋敷には専用の風呂があるかも知れないが。

 大通りの交差点の横には、比較的大きい建物で公共浴場があった。

 

 暫く歩いて、気がついた事が有る。

 下水道が完備されていて、こういう都市に有りがちな貧民窟とそれに伴うネズミが居なかった。

 下水道は一箇所に集められて浄化させているようだ。

 たぶん何かの方法があるか、そういう汚れ仕事をやる者たちがいるのだろう。

 

 大都市なら、まま有る事だが、その日暮らしが出来るか出来ないかというような者たちを放置すると、貧民窟が形成されて街の衛生や治安に大きな影響を及ぼしていく。

 

 そういう場合に一番効果的なのは、彼らを排除する事ではないのだ。それは一番の悪手。終わりなき土竜叩きになるだけだ。

 良い手は、きちんと給料を支払ってそういう人々を優先して雇う代わりに監視付きだが、生ゴミ集めや下水処理、下水道掃除などをやらせるのだ。

 

 基本給を保証する以外にも出来高で支払う様にすれば、我先を争ってゴミ集めや下水のゴミ処理をする事だろう。作業が終わった彼らは、必ず水を使って手や足、体を洗わせる。

 こうする事で、まず不衛生から来る病気や疫病をかなりの程度防げるのだ。

 

 そういう作業に従事する者たちに野心が出来て、そういう仕事が飽きてくるようなら、他の仕事も斡旋出来るように、差配すればいいのだ。そうすれば街も綺麗になり、下水も綺麗になり公衆衛生も保たれる。支払う金額に比べたら、守れる物は大きい。

 そういう事を考え付いて、実行出来ている優秀な行政官がいるという事だな。

 

 もうお昼を回っていたが、朝しっかり食べた事で、お腹は空いてもいない。

 

 午後には、港町に行く荷馬車を見つけて乗せてもらう。

 多くの荷馬車は、コルウェや、南西のマリを通って第三王都へ向かうのだが、それだけではない。

 何しろ、トドマの港町とここポロクワ市街との間は降って湧いた物資の往来で、荷車の需要が高まりトドマの港町に向かう荷馬車もかなりあったからだ。

 デレリンギコインで支払う。今回も五枚で話がまとまった。

 

 私の要望に答えてくれたのは、髭面で顔中にニキビを潰した痕の有る痩せぎすの男だった。

 しかし少なくとも、私をぞんざいに扱う事はなかった。銀の階級章と私の服装、そしてベルトの剣が物をいったのは間違いない。

 

 馬車はゆっくりと街を出た。御者台から見える景色は周りの畑と北の方の山。西に目をやれば街道沿いの先に見える街。その手前は広々とした畑が広がり、黄緑色の葉っぱの先に何か多数、実らせて揺れている。

 

 途中から荷馬車は速度を上げた。とはいっても荷台には荷物が乗っている。

 街道の途中で、何台もの荷馬車とすれ違う。あれらはトドマの港町からの荷物だろう。

 男は鞭を入れなおし、アルパカ馬の速度がさらに上がる。

 

 街道の小さな村をかなりの速度で走り抜けた。

 私はとにかく目の前の手すりを握りしめる。馬車が跳ねるたびに、椅子から腰が浮き上がり、私は手すりを握りしめていないと降り落とされそうだ。

 

 トドマへ向かう道はやや上り坂なのだが、アルパカ顔の馬たちは力強く荷馬車を引っ張り、速度を上げて北の隊商道に向かった。

 北の隊商道に出ると右折して、港に向かう。だいぶ日は傾いたが、西日になる前にトドマの港町の門を潜った。

 

 ……

 

 「小さな剣士様。ご所望の港に到着です」

 男はぶっきらぼうにそう言って、私を抱えて降りた。

 ドドマの港町の波止場の近くに私は降ろされた。辺りには、川魚の腐敗臭が漂う。

 

  男は再び御者台に乗って、そのまま馬車を港の荷下ろし場所に向け、少し進んでから止まった。男は飛び降り、荷役人たちと話をしている。

 

 それを暫く見守った私は、ギルド支部に寄るか迷ったが、そのまま戻る事にする。

 街の中は、そこそこ人が出ていた。

 その中をダッシュで抜けて、北側の門へ。街道を通って鉱山の宿営地に向かう。リュックと剣の重さはまったく問題ない。

 

 夕方になる前に辿り着き、門番に挨拶して入る。

 

 さて、ここでスカーフを首に巻いた。

 一度部屋に戻って荷物をおいてから、娯楽棟に行く。

 そこは人でいっぱいだったが、奥の方のテーブルにズルシン隊長とスラン隊長が共に麦酒を飲みながらチェスのような駒の多い将棋をやっていた。

 残念な事にルールはさっぱり解らないので、どちらが優勢なのかすら分からない。

 周りの隊員に、尋ねてみたが今のところ形勢は互角だという。

 もう一度盤面を見るのだが、駒は入り乱れ、何がどうなっているのかすら私には分らない。諦めて娯楽棟を出る。

 

 ここで一度、カレンドレ隊長をお見舞いしておこう。

 まずは鉱山ギルドの事務所に行って、医療班の女性に許可を得ないといけないのだ。

 カレンドレ隊長はだいぶ良くなってきているとの事で、夕食前までの面会許可がでた。

 私は病室に向かう

 

 まずは右手を胸に当てて挨拶。

 「お邪魔いたします」

 「マリーネ・ヴィンセントです。ご機嫌はいかがですか」

 

 カレンドレ隊長は起きていた。ゆっくりこちらを向いた。

 「ああ、久しいな。ヴィンセント殿。今日は何時もとは服が違うようだね」

 私は軽く、スカートの端を掴んで、左足を引きながらお辞儀。

 カレンドレ隊長の顔が綻んだ。

 

 「それにしても暇で暇でしょうがない。退屈に憑りつかれて、体より心を悪くしそうな程だ」

 彼は体を起こそうとしたので、私はそれを止めた。

 「まあ。カレンドレ様。動いてはお体に障りますわ」

 「医療班の女性たちに、それは散々言われてね。些かうんざりしている」

 「もう少しの辛抱で御座います。カレンドレ様」

 私がそういうと、彼は私の手を掴んだ。

 「それにしても、よく助かったものだ」

 カレンドレ隊長が、遠くを見る目になった。

 

 「あの怪物は、あの時のツィーシェ副長ははっきりとは言わなかったが、スラン殿に聞いた所、普通なら全滅していておかしくない遭遇だったらしい」

 カレンドレ隊長が私の方をまた見た。

 「あのラドーガとの試合も尋常では無かったが、ヴィンセント殿の剣はどれ程のものなのだろうな」

 カレンドレ隊長は私の手を離すと、目を閉じて少し溜息をついた。

 

 「まだまだ、修行中の身に御座います」

 私は頭を下げた。

 「そなたの腕で修行中なら、警邏隊の隊員たちはみな、剣技見習いになるな」

 「そのようなお戯れを」

 私は笑って否定したが、カレンドレ隊長は目を閉じたまま、口元を引き締めた。

 「皆さん、魔獣と十分に戦っておられます。それで十分なのではないですか?」

 そういうと、カレンドレ隊長は僅かに首を振った。

 

 そこに医療班の女性がやって来た。時間らしい。

 「それでは、カレンドレ様、ごきげんよう」

 右手を胸に当てる。

 私は軽く、スカートの端を掴んで、左足を引きながらお辞儀。

 「ああ、ごきげんよう」

 カレンドレ隊長が答えた。

 私は挨拶を済ませると病室を後にした。

 

 私は一度部屋に戻り、着替える事にした。

 お洒落服を脱いで丁寧に畳み、いつもの服に着替える。

 

 夕食は、鉱山の共同食堂。そしてギルドメンバーたちはくじ引き。

 メンバーたち全員がくじ引きだが、ここで隊長たちもくじ引きである。

 全員が配置換えである。

 

 

 つづく

 

 ポロクワ市街は一言で言えば衛生的かつ綺麗な街だった。

 この異世界は、確実に元の世界の中世とは違う。

 そんな感想を持ったマリーネこと大谷だった。

 鉱山の宿営地に戻り、カレンドレ隊長も見舞って、ギルドメンバーたちのくじ引きを見守るのだった。

 

 次回 続々・山での警邏任務

 魔獣は散発的に襲ってくる。

 そうして数日過ぎていくと、とうとう雨が降り始める。

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