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120 第15章 トドマの港町 15ー27 続・山での警邏任務9

 スラン隊長はマリーネこと大谷のダガーが前から気になっていたようだった。

 それを彼に見せる。

 そして翌日は雨になった。

 季節の変わり目に入ったようだった。

 120話 第15章 トドマの港町

 

 15ー27 続・山での警邏任務9

 

 お昼は今日も塩の効いた燻製肉の串焼き。

 手を合わせる。

 「いただきます」

 

 塩分過多な魚醤の味も染み込んだ燻製肉を齧りながら考えた。

 

 それにしても。

 買ってきた剣があんなにあっさりと折れるとは思わなかった。自分のあの大きい鉄剣なら、斬れたのだろうか。それは分からないが、折れる事はないだろう。

 刃が何処まで毀れるかは実際に相対して見なければ分からないが。

 

 食べていると、スラン隊長がレノスとノルドンから報告を聞いていた。

 

 「では、小型の魔獣が少し出て来ているという事だな」

 「今まではあれほど頻繁には出ていませんでした」

 「何が出た。ノルドン」

 「メドヘアとメルジュ、ルカンです」

 ノルドンというやや若い顔の隊員が答える。

 「そうか、やはりレハンドッジが減った影響は出ているな。死骸はどうしたのだ」

 「はっ。全て持ってきております」

 すぐに答えたのはレノス。

 「食べた後でいい、魔石は抜いておけよ」

 「はっ」

 二人から緊張気味の返事が聞こえた。

 

 それにしても、これから更に魔獣は増える。鉄剣を背負っていくしかなさそうだ。

 

 食べ終える前に、串焼きはとっくに冷えていた。

 固い肉を食べきるのには、水が必要だった。

 

 手を合わせる。

 「ごちそうさまでした」

 

 さて、午後の警邏の前に魔獣の頭から魔石を抜かなければならない。

 手を洗ってから、ポーチからマスクを取り出しそれをつける。

 ネズミウサギの頭を両足で挟んで、ダガーで鼻の付け根から額をまっすぐ上に後頭部まで切ると、血と脳漿が流れ出る。

 脳味噌の中にダガーを差し込んでいく。

 軽く石に当たる感触。そのまま抉ってやや頭蓋骨を左右に広げて、石を取り出す。

 井戸から汲んだ水で手と魔石を洗って、少し離れた場所に掘ってある穴に頭を埋める。スラン隊長が自分で斬った獲物の頭から魔石を抜き、頭を刎ねて持ってきた。

 私は無言で魔石を隊長に渡した。

 

 私とスラン隊長の後ろでは、レノスとノルドンが小型の魔獣を解体していた。

 

 その時に不意にスラン隊長が私のダガーを見て、覗き込んだ。

 「ヴィンセント殿。前から気になっていたのだが、その小さい武器はどういうものなのだ。小刀とは思えないが」

 「これは、自分で、作りました。投げたり、刺したり、切ったり、するのに、都合の、いいように、作って、あります。刺すなら、もう少し、細いほうが、向いているかと、思いますが、斬る事を、考えて、刃を、つけました」

 彼を見上げてそう言うと、興味がありそうだった。

 「見せてくれるか」

 

 私は左腰のダガーを手にしていたので、それをそのまま彼に柄の方を向けて差し出した。彼はそれを受け取り、投げるふりをしたり、突くような動作を数度繰り返した。

 それからスラン隊長はダガーを再び眺めていた。よく研ぎ上げてある、鋭い刃。長さはかなり短い。刃は五から六フェム(二一センチから二五センチ。一フェムは四・二センチ)程度だ。しかし様々な可能性を感じさせる小型剣だった。

 「ヴィンセント殿は、これを投げるのかね」

 「はい。幾度となく、投げて、危機を、切り抜けて、います」

 「そうか。これほどにも短い剣だが、これが君のその体格を補う戦い方なのだな」

 そう言って、スラン隊長はもう一度ダガーを眺めた後、柄をこちらに向けてダガーを返して寄越した。

 

 午後の任務は採集場の警護になった。

 霧は一向に晴れる様子もなく、作業場には陶芸ギルドの作業員の人たちが粘土を掘る音だけが響いていた。

 

 何事も起こる事も無く、夕方になり撤収。

 鉱山街に戻る。 

 

 夕食を食べ終えて、何時ものように娯楽棟での打ち合わせ。

 小型魔獣の活動が活発になってきている事が報告された。

 これは全ての現場で同じだった。

 

 寝る前にやっておくべき事は、いつものようにツナギ服を洗う事だ。

 いつもの服を着て、井戸の脇で洗う。だいぶ色が褪めてきている。濃い青だったツナギ服は、いまやスカイブルーとでもいうべき青になっていた。

 そのうち、もっと薄くなるだろう。

 しっかり絞って水気を切ってロープに干した。

 

 夜になると、やる事がない。

 仕方なく、蝋燭を二本灯して植物の本を小声で読み上げる。

 つっかえないように読めるようにならないといけないな。

 

 深夜になると何度か雷鳴が聞こえ、雨が振り始めた。

 

 ……

 ……

 

 そして、日替わり勤務の四日目。再び魚醤工場近辺の警邏。

 朝から雨が降る。いや、昨日の夜から。

 

 雨が本降りになった。気温が少し下がっている。

 

 起きてやるのはいつものストレッチ。

 そして柔軟体操から空手と護身術だが、部屋の中で足を振り回せるよう、テーブルを隅に追いやって場所を開ける。

 できるだけ音を立てないように気をつけた。

 

 雨のせいで、ツナギ服は完全には乾いてはいない。

 しかし、こんな日こそツナギ服でないといけない。転んだら泥だらけになるからだ。

 こんな雨でも警邏は休みにならないから、私は生乾きのツナギ服を着た。

 今日は大きな鉄剣は持って行けない。

 ミドルソードも折れている。

 今回、武器はブロードソードとダガー二本。

 部屋の中なので、ダガーだけに留めた。

 その代わり、目を閉じて両手ダガーでの鍛錬だ。

 

 女性陣の鐘が鳴り、私はマントを羽織って、門に行くと娯楽棟に行く様に言われた。雨の時は、娯楽棟で打ち合わせがあるらしい。

 他の生産ギルドの人々は、お休みとの事。

 

 渡り廊下は女性陣の方の食堂と共同風呂のほうにしか繋がっていない。

 娯楽棟や男衆の寄宿舎へは渡り廊下がなかった。

 

 朝の男衆向けの鐘で、全員が一度、娯楽棟に集まってきた。

 今日の仕事はギングリッチ隊長とカロー副長の隊。

 

 工場近辺の警邏は、よほどの雨じゃないと、中止にならないのだそうだ。

 その、よほどの雨というのは、道が川になったり、森の中が水浸しで歩けない状態をいうらしい。

 他の場所の警護の隊は、くじ引きで見回りだ。あの数字の彫ってある杭の周りを見て回る仕事だ。

 こっちも道が川になっていれば、見回りもなにもない。

 下手をしたら命に関わるからだ。

 

 今回の雨は、まだ本格的に降り始めたばかりだ。当然中止になどならない。

 

 マントをしっかり被ってやや土砂降りの中、警邏に向かう。

 雨脚が早く、そして強く降り跳ね上がった雨の水滴が忽ち足を濡らしていく。

 完全に泥濘んだ道は、私には歩きにくい。

 他の人々は背が高いし、脚も長い。歩幅があるから、私は小走りしないとついていけない。

 森に入ると、雨はそれほどでもない。樹木の枝がそれなりに伸びていて、激しい雨を和らげていた。

 しかし、かなり暗い。ただでさえやや薄暗い感じの森がこの雨で相当に暗くなっていた。しかし灯りは役に立たない。こういう場所でも役に立つ灯火はまだ、開発されていないのだ。そしてこの雨で松明は消えてしまうから使えない。

 所々、枝から滴る雨水の量が多く、まるで滝のようになっている場所もあった。

 

 そんな時、急に背中に疼きがあった。今までに感じたのとは違う、痒いような何ともいえない感じ。

 「ギングリッチ隊長。止まって下さい」

 「どうした、マリーネ殿。また魔獣かね」

 「はい。何か、います」

 「方向は分かるかね」

 私はしゃがんで、左手を水浸しになりかけている地面にそっとおいた。

 雨の振動が多く、方向がわからない。

 「すみません。雨で、気配の、方向が、分かりません」

 「分かった。マリーネ殿でも方向が分からないなら、他の誰にも分からん。気にしないでいい」

 私は左手を例によって左足の踝近くで拭いて、立ち上がる。

 

 全員がゆっくりと進む。

 

 薄暗い、森の奥にいたのは、見た事のない魔物だった。

 赤い目をしたそれが飛び出している。蝸牛(カタツムリ)のような目を持つ魔物は数頭で現れた。

 胴体の上には硬い丸い殻を載せている。足は百足(ムカデ)のように左右にびっしり生えている。

 全く不思議な魔物だが、雨のせいで私の血の臭いは漂っていかない。つまり血の匂いで出た訳では無い。

 恐らくは、ぬめぬめとしたアルカリ性の液体を纏っていて、なぜあの体が溶けないのか不明だ。雨に打たれても表面のぬめぬめはそのままなので、恐らく常に分泌している。

 時々、胴体からかなり長い突起のようなものが形成されていく。それが先端が鋭い。任意の場所にいきなり槍が生えるような感じだ。そして急に短くなって胴体に収まる。

 

 あれが、この魔物の攻撃方法だろうか。

 だとしたら、あの突起の先端は何かあるのだ。それが毒なのか、強烈なアルカリなのかは分からないが。例え強アルカリでも、刺されば体内に入る。血管にでも刺されば、量にもよるがアルカリ血症を起こし、不味い事になる。

 『代謝性アルカローシス』というやつ。

 腎臓機能不全が起こり、まず吐き気を催すところから始まり、筋肉の痙攣が起こる。量が多いと恐らく完全に腎臓がやられる。

 急激に痛みを伴うほどの筋肉の痙攣が起これば、まず倒れる。そこにあいつがたぶん食べに来るのだ。だとしたらアルカリなら、相当注入するだろう。

 刺された相手が動けなくなるようにするだけなら、神経毒かもしれない。

 

 さすがは『異世界』。元の世界からは考えられないような()()がいる。

 最早、驚きもしない自分も自分だが……。

 

 ギングリッチ隊長が全員に散開を命じて、隊員全員が広がる。

 雨の中、全く不思議な魔物を相手にしなければならない。

 否。雨でなければこれは出てこなかったに違いない。

 ぬめぬめしたあの体に剣を当てたら、剣がかなり痛む事も予想されたが、やるしかない。

 物凄い速さで突起が伸びてくる。

 それをブロードソードの居合刀で斬り飛ばす。

 斬り飛ばしたそれの先端は尖っていて赤かった。毒針でも出てきそうな様相だ。

 雨の中、百足のような足を持つその魔物は動きが早く、こちらの剣が致命傷を与えられない。

 相手は囲まれるや否や、ぱっと殻の中に閉じこもり、殻から僅かに露出した部分から棘攻撃を出してくる。他の魔物もいるので、殻に引っ込んだ魔物だけを攻撃するのも難しい。

 

 あのぬめぬめは強酸ではないので、すぐに剣の金属を侵すような事はなさそうだ。もし酸ならば、もう周りの雑草が強烈に溶けていてもおかしくない。

 

 もう一度踏み込んで目を斬り飛ばす。

 その瞬間だった。ものすごい数の突起が、目の下の胴体部分から形成されてこちらに向かってくる。

 私が躱して後ろに下がった所を、ギングリッチ隊長が斬り飛ばしていた。

 そこにカロー副長が踏み込み、やや持ち上がっている魔物の頭部分であろう場所の下に剣を入れて上に向けて斬った。

 物凄い暴れている魔物。全員が後ろに下がる。暫く暴れていた体は動かなくなった。

 この魔物はもう、新しい突起を形成する事はなかった。

 

 なんとか警邏のメンバーで奮闘していると、不思議な魔物は森の奥に去っていった。

 

 私は剣を雨に晒した後に二度、三度振って、ぬめぬめを拭い飛ばした。

 そして剣を仕舞った。

 

 「皆、追うなよ」

 ギングリッチ隊長が声を上げた。

 

 雨に打たれるその場所で、動かなくなった蝸牛と百足の合わさったような魔物の死骸が徐々に溶けていくように小さくなっていく。全員それを無言で見守った。

 自分の粘液で溶けていくのなら、何という因果な事だろう。

 強い雨のおかげで匂いもなく、この不思議な魔物は溶けていき、頭のあった場所に灰色の小さな魔石が残った。

 

 ギングリッチ隊長は剣の先で(つつ)いて、その魔石を水溜りの中に入れた。

 暫くして、彼はその魔石を拾い上げた。魔石は大きくはなく、中心にやや明るい灰白色の渦巻き模様があった。

 

 そして、その場所には魔物が背負っていた丸い殻が残っただけである。

 「これは、何という、魔物、ですか」

 「ああ、マリーネ殿は知らないのだな。これはゴルグナイというのだ。常に湿気のある場所や沼、湖畔の薄暗い場所にしか住まないはずなのだがな」

 「分かりました。普通は、こんな、場所に、出るはずが、ないと、そういう事、ですね」

 「うむ。この森に明らかに異変が起きているのだ」

 ギングリッチ隊長がそう言って、剣を振って鞘に仕舞った。

 

 雨は激しくなり、ここで撤収が決まった。

 「戻るぞ。皆、足元に気をつけろ」

 かなり泥濘んだ森の中を急ぎ足で戻る。

 他の工場近辺警邏の人たちも、戻ってきていた。

 皆、足元は泥だらけだった。

 

 全員、二列縦隊で宿営地に戻る。

 

 大雨の中、並ぶのも嫌なのは皆同じなのだろう。娯楽棟が混んでいる。

 女性陣の使う共同食堂と共同浴場だけは渡り廊下の先がそれぞれの入り口にまで繋がっていた。

 私は女性用共同食堂へ行く渡り廊下の途中で座り込んだ。

 

 鐘が二回鳴って男衆の時間になる間、女性たちが私の横を通る度に不思議そうな顔を向けていく。

 「こんばんは」

 私は彼女たちに通り一遍等の挨拶しかできない。

 

 やっと入れそうなほどには空いたので、雨の中を突っ切り共同食堂の一つに入る。

 

 今日の夕食はいつもの燻製肉と濃い味の赤茶色のシチュー。赤い葉っぱと黄色の葉っぱのサラダ。固いパン。

 

 手を合わせる。

 「いただきます」

 

 赤茶色をしたシチューを頬張った。

 複雑な旨味と塩分。そう、塩分。

 恐ろしく固いパンをいくつか千切って、シチューに入れてふやけるまで待つ。

 

 やっと食べられそうな程度にふやけたパンを食べつつ考えた。

 

 あの蝸牛のような魔物。

 普段は沼や湖の近くで薄暗い湿気の有る場所にしか棲まないという。

 それが、この鉱山の森にいた。

 確かに、何かの異変が起きている。それはレハンドッジをかなり始末した事だけでは済まないような気がする。

 何かが起きている。間違いなく。

 

 アジェンデルカは、私に去れと言ったが、その事と今回の魔物や、先日のラグナセラゼンたちは、何か関係があるのか。

 色んな変化が起きていて、私の血のせいだけではないようだった。

 

 ぼんやり考え事をしていると冷えてしまう。

 急いでパンを全部千切って一欠片だけ残して、全てシチューに入れてかき回し、ふやけるのを待つ間に燻製肉を頬張りつつ、サラダを食べた。

 

 ふやけたパンを全部食べて、残ったシチューも平らげる。

 最後の一欠片のパンで深いお皿を拭って、固いままのパンを飲み込んだ。

 

 手を合わせる。

 「ごちそうさまでした」

 

 今日は雨で服はぐしょ濡れ。、濡れてないのは腰の所から少し上だけだ。

 背中は汗で濡れているし、ズボン部分はいうまでもない。

 とにかく部屋に戻って、革製のマントを干す。

 下着も濡れているので着替える。

 シャツとパンツは部屋の中にロープを張って干す。

 

 上着はいつもの服に着替えて、ツナギ服は井戸端で洗った。

 固く絞ってから青いツナギ服は部屋の外の廊下に干した。

 それから、お風呂だ。

 

 周りから女性たちが出てこないのを確かめる。

 風呂場でばったり合わないように、共同浴場の方に行き人がいないのを確かめ、そっと中に入って、服を脱ぐ。

 頭からお湯をかぶってとにかく洗う。

 

 それが終わったら湯船に。

 湯船の中で立ったまま湯船の縁に手を載せて、そこに顎を乗せる。

 

 もはや、魔物は毎日出るようになった。

 あの時の村の外と同じだ。

 どこに行っても出るのだろう。

 幸いなのは、雨でこれからの出動回数は減る事だろうか。

 必然的に魔獣との遭遇も減るだろう。

 雨の中の警邏は正直言ってしんどいものが有るが。

 

 そこでお湯を出て、再び軽く体を洗い流して、体を拭いて服を着て外に出る。

 その間に、女性たちは来なかった。

 渡り廊下にランプが二つ。頼りない灯りで見える外の景色は雨で滲んでいた。

 

 

 翌日。

 続く五日目も雨だった。

 本当ならば伐採場の警護だ。

 

 朝の男衆向けの鐘で、全員が一度、娯楽棟に集まってきた。

 魚醤工場の近辺警邏は、雨でも休まないから、彼らはマントを羽織って、剣を点検して、程なくして出ていった。

 

 伐採場の見回り担当者を決めるくじ引きを見守る。

 粘土採集場担当者たちもくじ引きをしていた。

 

 ……

 

 隊長は必ず行くので、ズルシン隊長は確定である。

 他に四人。見て回るルートは決まっているらしい。

 私は今回だけは、くじに関係なく雨の時に行われる見回りについて行く事になっ

た。どの様な作業を行うのか、見ておく必要がある。

 

 革のマントを羽織って、伐採場に向かう。

 雨脚は強くなってきた。その雨の中、足場が悪い。

 

 ……

 

 激しい雨の中では、魔獣も昆虫も出ないようだった。

 最初に抜根中の場所を確認する。酷い事になっていないか、確かめる必要があるのだ。

 抜根で出来た穴はもう、完全に水たまりになっていて、やや掘った地面の土は少し流れ出していた。

 その後で、巡回路を巡って行き、川になっているような場所や抉れた場所、あるいは土砂崩れがあるか、見て回る。

 巡回の順路が分からず、私はただズルシン隊長に付いていくだけだが、そのペースが異様に早い。

 

 彼らは、数字の彫ってある杭の所に行っては、その数字を確かめている。

 薄暗い中、確認も容易ではない。いくつかの杭は腐りかけていて、新しいものへ交換が必要という事だった。

 

 やっとでこの日も終わる。

 夜になると、ようやく雨も上がった。

 

 私は夕食前に、もう何時もの服に着替えておいた。

 下着も濡れているので着替える。

 まだ、昨日のが乾いてはいない。パンツとシャツ、足りなくなりそうだな。

 これも干すしかない。ロープを片方外して、昨日の下着の横に並べた。

 

 食事の後の打ち合わせは、腐りかけた杭の交換をする為に、準備をする打ち合わせだった。

 

 ……

 

 この日も雨で濡れたつなぎ服を洗い干してから、共同浴場に向かう。

 

 お風呂場で女性たちに合わない様に、まずは共同浴場に行く人がいないか確かめて、女性用風呂場に行く渡り廊下で暫く監視。

 女性陣の部屋から出てくる人はいない。共同浴場の中にも人はいない。

 

 そそくさと、服を脱いで、風呂場に向かい、体を洗う。

 

 激しい雨のお陰で、魔獣たちや巨大な昆虫たちも出なかった。

 湯船に入って、少し溜息が出た。

 座る事が出来ない深さなので、相変わらず立ったまま、湯船の縁に両手を置いて、そこに顎を乗せるだけだ。

 余りゆっくりして人が来たら困る。さっさと風呂から出て、体を拭いて服を着る。

 

 しかし、今回は女性陣とまたしてもニアミスである。

 私が服を着て出る所に三人の女声が入ってきたからだった。

 「こんばんは」

 挨拶したが、彼女たちはなぜか微笑しているだけだった。

 

 ……

 

 これで一週間は終わった。

 

 この日は月の終わりの週末の前日だった。

 第三節、下後節の月、最後の週は一日多い。週末の休みとその一日は休みになるので連休なのだった。

 

 

 つづく

 

 雨の中、蝸牛のような魔物が出たのだが、これも普通なら出るような場所ではないという。

 もはや、山の中の状態は大きくバランスが崩れていた。

 しかし、それがなぜなのかは分からなかった。

 

 次回 セントスタッツの店

 マリーネこと大谷は、いよいよ村で散々狩り取った魔獣達の魔石や牙、角を持って、街に売りに行くことにした。そして折れた剣の代わりも買うつもりだった。

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