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112 第15章 トドマの港町 15ー19 続・山での警邏任務1

 臨時のギングリッチ隊長と粘土採集場での仕事が始まる。

 今日も黙々と剣の鍛錬を行っていたが、マリーネの二刀剣を見て、スラン隊長はけいこを付けてくれることになった。

 そして粘土採集場へ向かうのだが、お守りなしで山に入ればマリーネこと大谷は魔物たちの餌である。魔物の出現は必然であった。

 112話 第15章 トドマの港町

 

 15ー19 続・山での警邏任務1

 

 翌日。

 

 目覚めてやるのは、いつものようにストレッチ。

 そして、軽く準備体操をしてから、空手と護身術。

 ダガーを絡めた技は部屋の中では出来ない。

 

 外に行って、暫く空手や護身術の足技も絡めての鍛錬。

 ダガーも振るう。

 

 魔石抜きの警護と警邏になる。何かの為にミドルソードを持っていけるようにしよう。

 

 リュックにミドルソードをつけられるように革の欠片を縫い付けた。

 そこに更に革の紐を縫い付ける。

 綺麗なデザインの美しい縫い目のリュックだったが、私が手を入れてややそれが損なわれてしまった。致し方なし。

 

 ベルトをしてブロードソードとダガーを身につけ、リュックにはミドルソードも鞘を縛って取り付けた。

 私が肩越しに剣を抜けるようにかなり斜めになるように皮の紐を縫い付けてある。

 鞘の位置がかなり後ろになるので、剣の柄は肩の後ろギリギリの位置になる。

 こうしないと抜いて、戻す事が出来ないのだ。

 戻す時は慎重にやらないと鞘に入らないな。

 

 そしていつも持っていく魔石のお守りポーチは置いていく。

 小さいポーチには皮の袋に少額のコイン。トークンも置いていくので革袋に入れて、大きいリュックの中に入れた。

 小さいポーチにはいつものタオルも入れる。

 革袋の水は、井戸に行って交換。

 

 リュックも背負い、首には階級章。

 準備はできた。

 

 扉の鍵を閉めて、出発。

 

 すると他の扉からもあちこちから女性陣が出てきた。

 私は挨拶をして門に向かう。

 

 魔石のお守り無しならば、私は餌だ。色んな魔物が出てくるだろう。

 

 ギングリッチ教官には申し訳ないのだが、おそらくは今までとは打って変わって魔物が出てくるだろう。

 私は、向かってくる魔物たちを斬り伏せるしかないのだ。

 あまりにも強烈なのが出ないように祈るくらいしか出来ないな。

 

 門のところで、いつものように門番の二名に挨拶。

 

 両手でダガーを抜いて振るう。

 イメージトレーニングだ。

 

 一体ではなく、複数が同時に来た時の対処もイメージして、シャドウを続ける。

 脳裏にあったのは、村の外で出会ったあの敵、ステンベレだ。

 連携を崩す事ができずに、相手の必殺技が飛び出すまで追い込まれた。

 

 今なら、対処できるのだろうか。

 いや、それは無いな。彼らのあの動きが全力だったのか、確信出来ない。

 もし、こちらの様子を見る様な、あの動きが余裕で動いていたのなら。

 私の剣をかいくぐって、反撃を喰らうだろう。

 

 そして、もしそうなら、ダガーでは対処できないかもしれない。

 私はダガーを両腰に仕舞った。

 そして、背中のミドルソードを抜いた。左手に持ち直す。

 右手には短めの何時ものブロードソード。

 二刀流である。

 

 右手に短い方を持ったのは、この剣の方が慣れているのと剣先の速度を出せるのも、こっちだからだ。

 

 ミドルソードを牽制に使いながら、ブロードソードをトドメに使う。

 左足を踏み出し、左手に持ったミドルソードを前にして、ブロードソードをかなり引いて右手は右足の膝の上ぐらいである。

 

 この構えで、魔獣を迎え撃つ。

 左手のミドルソードは、刃の長さが六〇センチほどある。

 この剣の方がリーチがあるのだから、これで牽制しながら複数の魔獣を相手する。

 いつも使うブロードソードの刃は四〇センチ。僅か二〇センチしか違わないとはいえ、今の私にはその二〇センチですら大きな違いだ。

 

 目を閉じて、複数の魔獣をイメージする。

 ものすごい速さで襲ってくる、あの動き。左手で払いながら、右足を踏み込んでブロードソードを突き出す。剣を上に跳ね上げて、そこから斜め左下へ。同時に左手のミドルソードを腰にまで引き戻す。

 

 ブロードソードを左下から右へ。

 左手を少し上げて左から右に倒した形で水平に構える。

 左手を十分に引いて敵の攻撃を想定した防御。右手を引いて腰につけ、剣はまっすぐ前。

 結局、こういう我流剣術は、私の場合、空手や護身術の動きが基本になっている。

 攻防一体の剣術になってくれれば、たとえ我流でも魔獣相手に生き延びる事が出来る。それが一番重要だ。

 

 私は黙々とシャドウを続けた。

 

 ……

 

 いつの間にか、鐘が鳴っていた。

 男衆が出てくる。私はブロードソードをまず腰に仕舞い、右に持ち直したミドルソードを慎重に背中の鞘に戻した。

 

 先頭に居たのはギングリッチ教官、もといギングリッチ隊長である。

 

 「おはようございます」

 私は何時ものように挨拶をする。

 

 ギングリッチ隊長とズルシン隊長がほぼ同時に挨拶をしてきた。

 「おお、ヴィンセント殿。おはよう」

 「マリーネ殿、おはよう」

 

 スラン隊長は何時ものように、軽く頷いただけだ。

 あの人は何時もこういう時には最小限の所作しかしない。

 しかし、全く会話しない訳ではない事を私は知っているし、話しかければ、会話に応じてくれる。ああいう態度にはきっとなにか、彼なりの理由があるのだろう。

 

 「ヴィンセント殿は、何時も剣の稽古に余念がないな」

 そう言ったのはズルシン隊長だった。例によって遠くから見ていたらしい。

 「とうとう二刀剣術かね」

 「はい。思う所が、あって、自分なりに、試しています」

 私がそう言うとスラン隊長が剣を抜き、部下の一本を借りて二本を手に持った。

 

 「ヴィンセント殿。少しばかり私と剣を交えてみないか」

 思っても見なかった言葉がスラン隊長の口から出た。

 「願ってもない事、です。宜しくお願いします」

 私はお辞儀してブロードソードを右に。左手にミドルソードを構えた。

 

 スラン隊長の剣術がついに見れる。

 隊長の腕前がどれくらいなのか。

 

 ほとんどなんの前触れもなくスラン隊長の左手の剣が動き、私の前に突き出される。

 無造作に突き出されたかの様に見えるが、勿論そんなはずが在る訳がない。

 左手のミドルソードで捌こうとすると、逆にこちらの剣が弾かれた。

 そしてその瞬間に彼の右手の剣が突き出されている。

 私もブロードソードで受け流す。

 

 受け流した直後に右足を踏み込んで、ブロードソードを彼の腹に向けて突くが、スラン隊長の左手の剣で弾かれた。

 スラン隊長の左手の使い方が、私とは全然違う。受け流すのではなく、手首を使っているのだろう。自分に向けられて来た剣を弾いている。

 

 もう一度だ。右足を引き戻して半身。腰を落とし、左足を踏み込むのと同時に左手のミドルソードで突きに出る。

 だが、スラン隊長の左手の剣で弾かれ、さらに彼の右手の剣がカウンターのようにこちらに向かってきた。ブロードソードでギリギリの受け流し。彼の剣がブロードソードの横の部分を滑って軌道が逸れた。

 

 彼の剣は、明らかに違う。弾くようにして行う左手の防御の剣と右の攻撃の剣が一体化している。

 速度に任せて一気に攻め込んで来ていた、あの黒服の男たちの剣術とも違っていた。

 

 あの左の防御の剣を越えなければ、彼の剣を崩す事は出来ない。

 

 左手のミドルソードを振り上げて、やや左上から中央に打ち込む剣筋。弾かれるのは承知の上だ。その剣にほぼ併せて、向こうの剣が来るよりも早く右の剣を右下から中央へ走らせた。

 しかし、二つとも弾くのではなく、私の右手の剣だけが受け流された。

 私のバランスが崩れる。その刹那。スラン隊長の右手の剣が突き出されてくるのが判った。

 ブロードソードを渾身の力で戻して相手の剣を滑らせて躱す。

 

 しっかり相手の手首をよく見るんだ。

 左手でもう一度剣を突き出す。

 

 ……スラン隊長の左手首と肘の動きを見極める。

 隊長はギリギリの位置でコツンとカウンター気味に剣の刃の腹部分を当てている。

 手首の僅かな動き、肘がほんの少し動いた。

 

 ……見えた。

 

 私の剣は思った以上に左に逸れた。

 

 そこでギングリッチ隊長から、とめが入った。

 「そこまで」

 

 私は両手に剣を持ったまま、両手を腰につけてお辞儀をした。

 「ありがとうございました」

 スラン隊長は、無言で頷いただけだった。

 

 周りの隊員たちから、溜息が漏れていた。

 

 「君のその卓越した剣に私のこの二刀剣術が何か参考になる事があったのなら、幸いだ」

 スラン隊長はそう言って剣を鞘に戻し、借りた剣を部下に返した。

 

 スラン隊長の腕前の一端が垣間見えた試合だった。

 明らかに二刀剣術に関して相当な訓練を積んでいるのが伺えた。

 「弾く事を、防御の、基本に、している、のですね」

 私は感想を述べた。

 

 「できるだけ相手の剣の勢いを殺し、更には態勢も崩せる。弾くだけに見えるだろうが、あれで弾かれた側の手には明らかに隙きが生まれる。君も弾かれた直後に一瞬の隙きが生じていた。最後の一つ前は私が受け流したが、君はそれで剣を一瞬で引き戻している。ほんの僅かな差だが」

 

 「自分で、考えてみます。ありがとうございました」

 たぶん貴重な事を教わったのだ。深いお辞儀。

 仰ぎ見るとスラン隊長がふっと微笑んでいた。

 

 スラン隊長の二刀剣術は、間違いなく対人戦に特化されたものだ。

 魔獣相手に使うものでは無いという事なのだろう。

 

 おそらくはスラン隊長は過去に傭兵か何かをやっていたに違いない。

 そして、対人戦闘であの技は磨かれていったのだろう。

 普通にあんな二刀剣術を身につける事が出来るとは思えないからだ。

 

 そうこうしていると、陶芸ギルドの粘土採集作業の人たちがリヤカーを引いてやって来た。

 ギングリッチ隊長と現場に向かう。殿(しんがり)は副長で顔にニキビ痕だらけのルイン・ロッツォである。


 今日は霧もない。この分だと私の匂いにつられて、魔獣が押し寄せる事もありうる。ギングリッチ隊長はたぶん問題ないだろうが、このルイン・ロッツォはどうなんだろうか。

 

 少しだらだらと続く坂の石畳みの道を登って行く。

 石畳の道は僅かな朝露に濡れていたが、暫くすれば乾いてしまうだろう。

 

 採集場に到着。

 

 先程のスラン隊長の剣を思い出す。

 あの僅かな動きで、相手の剣をどの程度弾いて崩していくかは自在なのだ。

 何方(どちら)かと言えばフェンシングの様に突く事を主体にした剣の使い方なのだろう。

 フェンシングの様に細いニードルのような剣になっていないだけだ。

 ただ、この異世界の剣はあまり刃を研いでいない。トドメに剣を刺す方が多いのに違いない。

 

 私は刀のように斬る事を主体にして考えて訓練して来ているから、ああいう戦い方は考えてもいなかった。

 ただがむしゃらに剣を打ち合わせるよりも、ああして()なした方が、相手の剣に隙きを作れて、こちら側の剣をその隙きに叩き込むだけで倒せるという事だろう。

 

 二刀剣術は奥が深い。

 私がやるとしたら、長い方の剣で相手の剣を往なして、短い剣で私の速度を生かして突きだす。

 元の世界の西洋の二刀剣術は利き手とは反対側の手に持つパリーイングダガーが知られている。

 いくつかの流派があるらしいが、私はその姿を見た事が無いから何とも言えない。

 

 そして元の世界の日本刀の二刀流剣術は、私は殆ど知らない。

 剣豪の物語に出てくるのを少しばかり読んだ事があるのと、時代劇でそういうのを見た程度だ。

 

 

 いずれにしても、だ。これは少し研究の余地がある。

 覚えておこう。重要なのは当てるタイミングと力加減だろう。

 

 採集場に着いた陶芸ギルドの人々は何時ものように、桶を持って粘土の崖に向かっていった。

 

 ギングリッチ隊長は隊員と共に西の森の中に警邏に向かった。

 私は、副長と共に周辺の警護である。

 

 今日の風は、何方から吹いているのか。

 南からか、それとも東からか。

 

 ……

 

 作業員の人たちが粘土の採集を始めて暫くした時である。

 背中に何か、疼くものがあった。いきなりか。

 

 今までの疼く感じとも少し違っている。たぶん、たぶん、出会った事のない魔物だ。

 何故か分からないが、私の頭の中の勘は東の森の方だと叫んでいる。私は反射的に走り出していた。

 

 「どうされました! ヴィンセント殿!」

 後ろからルイン副長が叫ぶ。

 「何かが、います!」

 私はそう叫ぶだけで、精一杯だ。

 

 作業場の横から走って森の樹木にたどり着き森の中を覗き込むと、もう頭の中に警報が鳴り響いている。

 

 森の暗がりに見えたのは、巨大な蟷螂(かまきり)のような生物だった。

 

 三メートル以上ある焦げ茶色の胴体。脚は六本。腕は巨大な鎌。それが左右二本ずつ。

 長い節のある首の先端に大きなブルドッグの様に見える頭。毛の生えたその頭にはご丁寧に耳まで付いている。

 

 その顔の中央に巨大な一つ目。おでこからは大きな触覚。

 頭の目のあるべき左右の場所にまるで角のように突き出した部分があり、それは左右に直角にねじ曲がっていた。そしてそこにはこれまた横に向けられた巨大な目があった。

 目には白目はなく、黒い瞳と黄色い部分で構成されていた。

 体を起こしたその頭の高さは、優に二メートルを越えているだろう。

 

 なんなんだ、これは。

 

 ……あのジャングルの遺跡で出会った奇妙な生物の死骸に似ている……。

 

 その鎌が瞬時に私の方に向けて振られていた。

 

 抜刀!

 恐ろしく細かいギザギザの付いた鎌を切断した。

 

 更に左からもう一つの鎌が迫る。反射的に左手で右の腰のダガーを引き抜いて鎌を受け止める。

 

 相手の左手側の鎌が二本、私に向かってくる。

 ブロードソードをその二本の鎌に当てて、斬ろうとしたその瞬間。

 恐るべき速さで一つ目のブルドッグ頭が迫る。私を食い千切ろうというのだ。

 

 左手のダガーで受け止めていた鎌を力任せに斬り、ダガーを迫る顔に向けて放った。

 ダガーは迫る顔の中央に有る巨大な目に刺さった。

 だらっと開いた口の中にはびっしりと牙の様に見えるギザギザした歯が生えていたが、その顎は痙攣するかのようにガクガクと動いている。

 

 ものすごい速さで左側の鎌二本が動く。私のブロードソードの刃が当たっているのだ。勝手に鎌は切断されて下に落ちた。

 ブロードソードを両手で握って頭を真上から、唐竹割り。

 黄色い血のような体液が辺りに飛び散る。

 

 私は後ろに飛び退いた。

 

 暴れ回る躰が樹木に当たって、大きな音を立てた。

 そこに副長のルイン・ロッツォがやって来た。

 

 「ヴィンセント殿!」

 剣を抜いたルインが飛び込んで来た。

 「まだ、危ない!」

 もう頭は叩き切ったものの、その痛みで暴れまわる魔物が周りの樹木を揺らしていた。

 

 頭の中の警報が鳴り止んでいない。まだいる。

 「作業の人を! 退避させて!」

 それだけ叫ぶのが精一杯だ。

 森の奥から更に、この蟷螂もどきがぞろぞろ現れたのである。

 ルイン・ロッツォの顔色が変わった。

 

 ピンチだ。あの大きな鎌が左右二本づつ。そんな化け物が奥にぞろぞろいるのだ。

 辺りは樹木が等間隔に生えていて、彼奴等(きゃつら)は自由に動き回れないのが不幸中の幸いか。

 

 左手で背中のミドルソードを抜く。躰を折り曲げて、お辞儀に近い姿勢で何とか抜けた。

 両手にソード。

 

 しかし、スラン隊長の腕前のようにはいかない。

 まだあのレベルで私はこのミドルソードを操れていないのだ。

 

 しかし、()るしか無い。

 突っ込んでくる化け物の鎌をミドルソードを当てて、弾く。

 しかし、なかなかうまく行かない。弾くというよりはただ当てているに近い。

 

 私はそこで大きく踏み込んで、ブロードソードを相手の胴体と首の付け根の部分に突き刺した。

 まだ死んでいないその化け物の左手側の鎌が迫る。それを止めたのはルイン・ロッツォだった。

 鬼気迫る表情で彼は二本の鎌を剣で受け止めた。

 

 私は突き刺したブロードソードを力任せに上に跳ね上げる。首の付け根部分から裂けて大量に黄色い体液が飛び散った。二人とも後ろに飛び退いた。

 その化け物が恐ろしい勢いで暴れ、周りの樹木に激突している。

 

 彼は不意に小さな笛のような物を取り出して口に咥え、大きな音を出した。耳を(つんざ)くような音だった。

 三回、その大きな音が鳴った。

 

 「いまのは?」

 「非常事態を報せるものです。ヴィンセント殿。作業の人たちは、この音を聞いたらあの大きな退避小屋に逃げる事になっています」

 「分りました。取り敢えず、まだ、奥にいる、あの化け物が、こっちに、来るかどうかです」

 「あれはレハンドッジという魔蟲です。ヴィンセント殿」

 魔蟲か。それにしても大きい。

 

 「何か、毒の攻撃とか、ありますか?」

 「あの鎌を縦横無尽に振るう魔蟲なので毒は持っていません」

 「分りました」

 

 魔蟲はどんどんこちらに迫ってくる。

 

 私が餌なのだ。彼奴等は脇目もふらずにここに殺到するだろう。

 

 とにかく今倒した二体のこの魔蟲の躰を避けて、木々の間に進む。場所を選べるほど、余裕はない。

 レハンドッジはこちらに迫ってくる。

 

 私の血の匂いが、彼らを狂わんばかりに喜ばせているのだろうか。

 彼らの頭が上下に激しく揺れていた。

 

 彼奴等の脚はやや細く、そして長い。多少下に何があろうと、障害にはならないだろう。後ろに長い胴体が有るせいでこんな樹々の中では小回りがきかない。

 だからか、彼奴等は森の中を一直線に向かってくる。同時に相手するのは二体か。

 しかしそれでも、あの鎌が八本という事になる。

 

 もう、魔蟲は目の前だった。私は相手の振り上げてくる右手側の鎌をミドルソードを使って二本とも食い止めて、相手の左手側の鎌が来る前に、一気に踏み込む。

 右手のブロードソードで相手の長い首の根本を横に払った。

 切断された首から黄色い体液が飛び散り、魔蟲の躰が激しく痙攣した。

 腕も脚も、切り飛ばされた首の先にある口も。

 

 そこにもう一体が飛び込んでくる。その魔蟲の攻撃は流石に、今度は四本の鎌が全てバラバラな位置から、バラバラなタイミングで振りかざされている。

 

 しかし、そこに飛び込んできたのはギングリッチ隊長だった。

 彼は抜いた剣で魔蟲の左手鎌を二つとも瞬時に斬り払った。

 私もそれに合わせて、反対側の鎌を二つとも二本の剣で受け止めて斬り払う。

 

 「マリーネ殿、ルイン。無事だったか」

 そう言いながら、ギングリッチ隊長は自分の剣を腰に引いてから一気に突き出す、あの剣術で魔蟲の首を貫いて長い首が千切れ飛んだ。

 

 真っ黄色の体液が飛び散り、辺りを濡らす。残った胴体は腹が激しく脈打ち、脚が痙攣している。

 

 奥に居た魔蟲の勢いはまだ衰えない。

 どんどん向かってくる。

 

 

 つづく

 

 お守りの無い状態ならば、必然。

 大量に出現した魔物。

 マリーネの前に現れたのは、巨大な蟷螂のような魔物である。

 副長が飛び込んできて、二人で巨大な蟷螂のような魔物との激戦が始まった。

 

 そして、そこにギングリッチ隊長もやってくる。

 

 次回 続・山での警邏任務2

 

 巨大蟷螂もどきとの激戦。

 やっとのことで蹴散らす3人だった。

 

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