010 第3章 初めての制作 3ー1 村の家をちゃんと観察
村での生活して行くためにマリーネこと大谷は鍛冶場をしっかりと見ることに。
10話 第3章 初めての制作
3ー1 村の家をちゃんと観察
とにかく自分が何ができるのか、自分で自分の事を知らなければならない。
まずこの村の生産職の家を見ていく。
冷静に鍛冶屋とその周りを見る。
工房は大きいが真っ暗で内部はわからない。中は後で見よう。
外は大きい煙突が二つ。小さい煙突が二つ。一つは台所の竈のやつだ
まず、鍛冶屋の裏手の倉庫が二つ。大工の家との間に、屋根だけの吹きさらしの高床の上に薪が積んであり、手斧とかもある。
この吹きさらしの所の裏手が鍛冶屋の二個目の倉庫がある。戸を開けると、中にあったのは大量の炭。あとは石。たぶんこれは銅鉱石とか赤鉄鉱石だろうな。
つまり、ここで焼いていたのか。掘ってきた場所はまだ不明。
炭もここで作ったやつではないな。ここには炭窯がない。
鍛冶屋の工房の裏には引き戸の扉があるが三つとも閉まっていた。
この扉のところから二つの倉庫と村長宅の裏手の井戸、トイレまでは長い通路に全て煉瓦が敷いてあり、通路の両側に柱があって上には三角屋根がついている。
これは渡り廊下という事か。
次。大工の家。家の裏に大きな工房がある。ここでは材料を必要な大きさに切ったり製材して置いておく場所らしい。
大工の家の裏手にある大きい倉庫とその横の大工工房と、家の横の高床の薪置き場の裏との間にも煉瓦敷通路があり、それには屋根がある。
猟師の家は裏手にあるのは燻製小屋で、そこまでの通路はやはり煉瓦敷で屋根が付いている。
猟師の家の横には倉庫兼工房。たぶん革の加工だな。中では皮を鞣していたらしく、ロープで吊るして干してある。
加工済みの革もあれば、これからといった感じの皮もある。
そして、ここにも屋根付き煉瓦敷通路。
この通路同士は鍛冶の倉庫から大工、猟師の倉庫まで継っていて、鍛冶の方が村長宅の裏手の井戸への通路の屋根と継っている。
農家の裏手の倉庫と農家は屋根付きの通路で継っている。農家の倉庫を見てみる。いろんな器具がある。人数分にしては多すぎる。
農業はこの村人全員、とまではいわないが大半の人が手伝っていたか。何かの種らしきものが入った袋が棚に整理されて置かれている。種屋でもないのにこまめな整理整頓か。農家をやっていた人の実直さが伺える。
この通路は横の裁縫屋の裏手を通って井戸まで継っているので、この屋根付き通路で全ての家は継っている作りだ。
なんでこんな作りなんだろうな。建築には相当な手間がかかっている。
表からみたら一軒一軒が独立してるのだが、裏から見れば全ての家と倉庫は一つの屋根付き通路で継った一体化した家である。
鍛冶屋の工房にランプを持って入る。
外から見ても大きいとは思ったが、中は想像以上に広い。奥行きもあるが、横に広いのだ。
ランプで見える範囲は狭いのでどんどん奥に行くとやっと立派な炉が見えた。これだ。大きい炉が二つ。鉄砧もでかいのが三つ。砂場が一つ。
手前の左側に小さい炉が一つ。鉄砧も小ぶりなのが二つ。そして砂の入った樽が四つ。
たぶん簡単なのをやるのはこの手前の小さい炉なのだろう。
左奥に閂のかかった引き戸の扉。閂は外しておく。
この左側の戸を開けて外に出て見ると、ここだけは通路が裏手の通路と鍛冶屋の家の玄関方面に継っていて、ここだけ作りが違う。表から開けられないから玄関に回るのに必要という事か?
奥の炉と炉の間にやはり引き戸があって、閂がかかっている。ここのは倉庫に直通のやつだな。
ここも閂は外して置く。
右奥に行くと、炉の手前の方には砂場が二つ。鉄砧が二つ。
左の炉と右の炉は構造が違う。使い分けていたという事か。
そこの少し手前に大きいテーブルと椅子が二つ。大きい二つの水甕。
テーブルの上には大きい皿に盛り塩と柄杓があった。
右奥の引き戸の閂を外して、開けてみる。右半分にも一気に光が入って工房の中は明るくなった。
ここの引き戸出入り口にも上には屋根が付いていて裏の通路と継っている。
徹底して屋根が付いていた。
全ての引き戸に内側から閂。
なるほどな。これは外から開けて欲しくない。という事だ。
これには何か、理由がある。
……
……
そして思い当たったのは、鍛冶は音が出る。ハンマーでずっとゴンゴン、カンカンやるのだ。
夜にやれば村人が寝れない。だから村からは離れて工房を置くのが普通だ。
しかし離れた場所に工房を置きたくない。ここにもなにか理由がある。たぶん魔物とかだろう。
わざわざ村長宅のある、この村の中でも大きいウエイトを占める場所を確保しているのだから、それ相応の理由がある。
そしてこの扉の最大の理由は昼間だと、たぶん炎が明るくてよく見えないからだろう。
中をほぼ真っ暗にする必要があって、窓もない。扉が内側からしか開かない作り。
壁も分厚い煉瓦造りだ。これは簡易的な防音と断熱も兼ねているのだろうな。
鍛冶屋のために相当な労力を払っている事が伺える。
鉄にせよ、それが青銅にせよ、道具は重要だ。この工房にそれだけの価値があるのだろう。
しかし。村人の人数に対してこの鍛冶場は大きすぎる。
作業員が八人とか、一〇人とか、それくらいはいたのだろうか。
それくらいいても不思議ではない広さだった。
この最初の村に到着して、それこそ最初にやった事は村の大雑把な配置の把握と、村人の埋葬だった。
あの時は不思議な作りだとは思ったが考える暇はなかった。
たぶん、この村がこんな作りなのは、何かそうしないといけない理由があるのだろうな。
そこから考えられるのは、二つか。
一つは普通に思いつくのは雪。積雪するのではないか?
それも屋根付きの通路にして井戸やトイレに行けるようにしようとする程度には、降り積もるという事か。
もう一つは、現状では考えにくいが長期に渡る天候不順が考えられる。
例えば長雨。全ての通路が煉瓦敷というのが、引っかかるのだ。
雨が降って泥濘むからではないか? という漠然とした予想だが。
今の所、全てが謎だ。そういう時に、こういう疑問は重要。
なぜ、全ての家同士をつなぐ通路が屋根付きであるのか?
覚えておこう。もしかしたら蟻のように、全てが継った部屋を作る文化でもあるのかも知れないし、可能性は色々だ。
何しろ、ここは異世界……。
さて、私が何か道具を作ろうとした時に、ここを使う事になる。
しかし、この状態だと鉄はここで鉄鉱石から焼いて叩くか、外部から鋳鉄材料を買ってくるかの二択となる。
私には現状、外の街とかから買ってくるとかいう選択がないので、事実上一択。選べないのだ。
たぶん、鋳鉄材料はどこかにあるはずだが、見当たらない。
…… 叩くしか無いのか?
つづく
マリーネこと、大谷は村の全体把握も終わって、いよいよ制作です。