1の6 真実を見る目
本編10話ほどで終わる予定で始めたのに、15話くらいになってしまいそうです。
その時、大扉が開いた
そして、重厚なる大人たちが入場してきた。
「うるさいのは、お前だ」
怒鳴っているわけではないのに、腹の底に響くような迫力のある声が響く。
一部の者を除き、一瞬目を見開くが、すぐさま最上の礼をとる。
「よい、皆、面を上げよ」
この国のトップ国王陛下である。
王子は舞台から転げるように降り、国王陛下の前へ走る。
「父上!この者どもが、私の話を聞こうとしないのです!それだけでも不敬ではありませぬか!この者どもに罰を与えねば!」
ハッと気がついたメノールは駆け足で続き、イリサス、ウズライザー、エンゾラールもフラフラしながらも舞台を降り王子の後ろにつく。
「公の場では、陛下と言えと言うておるのに。まぁ、よい。
うぬの話というのは、うぬら四人が提出したこの報告書のことか?」
それは、アリーシャ嬢、イメルダリア嬢、ヴィオリア嬢、エマローズ嬢が、メノール・ブリアント男爵令嬢に対して行ったとされる虐めなどについて、アナファルト、イリサス、ウズライザー、エンゾラールが連名で告発したものである。
国王陛下が文官から盆に載っていた紙束を受け取り、持ち上げたことで、アナファルト王子はもちろん、側近三人も嬉々として復活した。
「そうです!やつらがメルを虐めた報告書です。我々が調査したのです。やつらは卑劣にもメルを虐めて、殺人未遂まで、やらかしているのです!」
側近三人も、うんうんと頷いている。
「うむ、これについては、しっかりと精査した」
と言って文官に紙束を戻す。
「ところでこれは知っておるか?」
国王陛下の言葉とともに、文官は、紙束と共に盆に載せられていた黒い箱を片手で高々と持ち上げ、会場にいる者に見えるようにした。
その黒い箱は、片手ほどの大きさで、前面に丸い魔石が埋められている。
「まぁ、知る者は少なかろうな。これは、隣国で開発された魔道具でな、少し見ておれ」
文官は隣にいる魔法研究所のローブを羽織っている者に、それを渡す。研究員は、その石に魔力を注いだ。そして、高く持ち上げ、会場中に見えるようにゆっくりとそれを右から左へ動かす。
「みなも良く見えたかの?」
国王陛下が言うと研究員はそれを下ろし、再び魔力を注いだ。
「では、こちらを見よ」
いつの間にか、先ほどまでアナファルト王子たちがいた場所に騎士が二人おり、白いシーツのようなものを広げていた。
そして、研究員は、黒い箱の魔石とは反対側を開け魔力を注ぐ。するとシーツにこの会場の様子が写しだされた。
会場が、ざわつく。初めて見る映像にビックリしている。
しばらくして
「みなも良く見えたかの?」
と先ほど国王陛下が仰った言葉が箱から聞こえ、一同はさらに驚いた。
「このように画も声も残すことができ、それを後から見られるのだ。
この魔道具は使い方は様々だが、まずは実験として、学園の警備に使ってみた。それについては、アナファルトとアリーシャ嬢には王族教育の一環として説明したな?」
「いえ、聞いておりません」
「覚えておらぬのか?アリーシャ嬢はどうだ?」
「御前会議でご説明いただきましたが、実際の画を見るのは初めてですわ」
「うむ、アナファルトを御前会議に参加させた意味はなかったようだの。
これは、学園の様々なところに設置してある。では、今日は特別に警備として使った一部をここで見せよう。」
研究員は別の箱を受け取り、魔石と反対側を開け、魔力を注ぎ、シーツへ向ける。
すると、一人の女生徒がシーツに写し出された。
どうやら、学園の階段の踊り場からの画像で、下の廊下まで見える。その中腹に、立つ女生徒。
「もうすぐ王子たちが通るはずよね。毎週この時間に通るのは調査済みよ。痛いのイヤだから、この辺でいいわよね。」
そして、「きゃー」と言いながら階段を落ちた。
ドタバタと足音が複数して、画面の横からアナファルトたち四人が現れた。
「もうよい。」
国王陛下の声が響く。研究員によって映像が消された。
「これは、まぁ、一部だな。うぬらの報告書通りの時間帯とその前後をすべて確認した。他の画〔え〕も見たいか?」
メノールは座り込み、震えている。それを見る四人の目に力はない。
そう、この黒い箱は《真実をみる目》いや《真実をみる魔石》だったのだ。
「それとなんだったか、悪口だったかの?
そんなものは社交界では当然に起こることだ。それをイチイチ泣いておったら、社交界では生きていけぬわ。
お前たちにはまだわからんであろうが、女性たちもそうやって、時に競い、時に情報収集し、まさに闘っておるのだ。その中に男がノコノコ出ていき庇うなど、不躾にもほどがある。
そういう社交性を学ぶのも、学園の目的のひとつであろう」
国王陛下のこの言葉には、将来の淑女である女子生徒たちも、気持ちを引き締めた。
「それでも、アリーシャ嬢たちがいらぬ悪口を言ったなどとは、信じられぬがな。
おおよそ、アリーシャ嬢たちが、貴族としてのマナーを教授したことを悪口ととって、お前たちに報告したのであろうな」
四人の令嬢は、お互いに無事を確認するかのように微笑みあった。
「はっきり申す。
お前たちが書き連ねた多くのものは、そこにおる令嬢の自作自演であったわ。それは暗部より、以前から報告が来ておったし、今回改めてこの魔道具で確認した。
教科書を破いたり、池に落ちたりするなどの行為は何が狙いなのか、うぬらの報告書を読むまではわからなかったがな。
つまりは、それらも冤罪のための準備だったということなのだろう。
公爵令嬢たちに罪を着せようとしたことは見逃せん。連れていけ」
騎士に両脇を支えられ、引き連られるようにメノールが退場した。
「ま、まさかすべて嘘なのか…」
四人は信じられない気持ちで退場するメノールを目で追った。
「お前たちは騙されていたようだの。とはいえ、婚約者を蔑ろにした上、他の令嬢に現をぬかし、更には、このような場を設け令嬢たちを云われなき罪で断罪しようとしたことは罪として拭えない。
令嬢たちの経歴を汚すわけにはいかんからの。四組の婚約を白紙としよう」
四人の男たちはガバリと振り向き、国王陛下を見た。それから、自分達の元婚約者を見た。
四人の令嬢たちは「よかったわね」と各々労いあい、笑顔で喜びあっていた。
その様子で元に戻れないことを痛感し、項垂れた。
自分達も婚約破棄をしようとしていたにも関わらず、捨てられる側になると政略結婚の婚約が簡単には破棄できるはずがないと思いたいようだ。
もちろん、婚約破棄もしくは婚約白紙は、簡単ではない。令嬢たちが長きに渡り我慢していたことも含め、頑張ったからに他ならない。
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次回の27日19時、投稿予定です。