4の10 作戦10 敵を知る
もうすぐ夏休み。イメルダリアさんに会える日も少なくなってきた。
そんなある日の放課後、約束はないが、生徒会室へ向かう。
ノックをして、中に入るとイメルダリアさんがいた。
「あら、ヨアン君。今日は特にはお仕事はないわよ」
「……知ってます。でも、会いたくて!」
「え?誰かとお約束?」
「違います!あ、あ、あの イメルダリアさんがいるんじゃないかと思って来たんです!」
「え??」
イメルダリアさんの顔が赤くなった。
「イリサスさんとのこと、白紙にできたら、僕とお付き合いしてほしい!」
僕は緊張と勢いのせいで、言うつもりじゃないことまで言ってしまった。
でも、本気なんだっ!後悔はないっ!
「あ、ヨアン君。その、わたくしには、婚約者がいて……」
「知ってます!」
「それで……」
うん!理由は聞いたけど、断られてない。婚約者がいなければ、どうなるかはわからないってことだ。今はこれで充分!
「僕、お茶淹れますね」
イメルダリアさんは、まだ執務机の前で立っていた。
「お茶入りましたよ」
ヴィオリアさんに教わっておいてよかった!
視点の定まらない状態でイメルダリアさんがソファーに来た。
「どうぞ」
もう一度、促す。イメルダリアさんがソファーに腰を降ろす。
僕も向かい側に座った。
「急ですみませんでした」
「え?あ?そ、それはいいの」
「イメルダリアさんは、イリサスさんを好きだったのですか?」
「え?あ?そ、そうですわね。そういう時期もあったと思います」
「お茶、飲みませんか?」
「そうですわね。いただきますわ」
イメルダリアさんが一口飲んで、ふぅと息を吐く。僕も一口いただく。
「宰相様になられるのだと、目をキラキラさせて夢を語ってらしたときには、お支えしたいと思いましたわ。
ですから、わたくしは、こちらに入学前に頑張ってAクラスを目指しましたし、イリサス様と同じクラスになれたことは、本当に嬉しかったですわ」
「支えたいのと、好きというのは同じなの?」
「どうなんでしょうね。わたくしも、エマローズ様と同じで、そういう気持ちがわからないのかも知れませんわ」
「イリサスさんと、メノールさんのことを見て、どう思ったの?」
「んー、もう1年以上前ですから、よく覚えてないのですが、メノール様とどうなのかというよりは、将来宰相様になられる方は、生徒の見本にならなければならないのでは、と注意したことがありますわ」
「イリサスさんが宰相を目指してなかったら、どう思うの?」
「わかりませんわ。だって、イリサス様と宰相を目指すことは、別のものではないですもの」
「イリサス様に、好きって言ったことある?」
「な、な、そんなのあるわけありませんわっ」
「えーー!どうして?」
「どうして? それっていつ言うものですの?」
「え、逢瀬の時とか?」
「逢瀬の時……ですかぁ……?」
イメルダリアさんには、想像がつかないらしい。
「イリサスさんに好きって、言われたことある?」
「ありませんわよっ!恥ずかしいですわ」
「そうかなぁ?」
「ヨアン君は、そういったことありますの?」
「僕?僕はないよ。婚約者もお付き合いした人もいないし。
でも、イメルダリアさんには、いっぱい好きって言いたいなって思ってるよ」
「な、な、」
顔を赤くして、可愛いなぁ。
「逢瀬って、もう一年もしてないんでしょ?どう思っていたの?」
「初めの頃は、とにかくカッときて、次の日にイリサス様に文句を言ったりしてましたわね。
『婚約者の義務をどう思ってらっしゃるの?』って怒鳴ってしまったこともありましたわ」
「え?義務をしなかったから怒ったの?会えなかったことに怒るのではなくて?」
「……。まあ!そうですわね。そうは考えませんでしたわ。
そのうち、怒るのも疲れてしまって。
最近では、我が邸の番でも、準備もしませんのよ」
クスクス笑ってる、そして、目に涙が溜まった。
「どうして、こうなってしまったのかしら?」
「相手に不誠実なことをされたら、心は死んでしまって当たり前だよ。
イメルダリアさんは、イリサスさんが宰相になるのを応援したかったのでしょ?あんなことされてたら、応援する気持ちもなくなっちゃうよね」
ポロリと、涙が流れた。僕はハンカチをイメルダリアさんに渡した。
「ありがとうございます」
ゆっくりとした時間が流れる。
「わたくし、逢瀬にいらっしゃらないことよりも、今年、イリサス様がCクラスになったことの方がショックでしたの。
やればできるのにやらない方は尊敬できませんわ」
うん、イメルダリアさんは、尊敬と好きを一緒にしてるな。お支えしたいのも、同じクラスに、なりたかったのも、尊敬だと思うんだ。
僕は尊敬されたいんじゃなく、好きになってほしい。
「あ、もう、夕食の時間だ。食堂へ行こう」
僕の口調が変わったことに気がついてないみたい。
「まあ、本当だわ。長く付き合わせてごめんなさいね」
「いや、僕がお話したかったんだよ。
でも、そうやって、相手を思いやれるイメルダリアさんが好きだな」
「えっ!!」
僕は好きをたくさん伝えていこう。
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