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【完結】婚約破棄されそうな令嬢は知らないことだらけ  作者: 宇水涼麻
第四章 公爵令息の作戦 準備編
32/71

4の8 作戦8 緊急事態に対応する

 週末に徹夜で見張りをしたので、まだダルい。そんな月曜日のお昼前の授業。こんなときに限って、歴史だ。眠い。


 そんなとき、ガタンッ!大きな音を立てて、窓際の席のロンが立ち上がった。


「ユラベル君、どうしました?」


「せ、先生、発案者の名前のスペルが間違えているみたいです」


「ん??あ、本当だ。これはすまない」

 ロンは着席した。


 ロンの2つ後ろに座るディークが外を見て、ニヤニヤしている。あれは、ダメな笑いだ。

 つまり、ロンはスペルを指摘したかったわけではない。何かがあったんだ。

 それなのに先生は、素直に直し、事なきを得た。さすが学年トップ!ロンの天才の部分が見えた。



〰️ 〰️ 〰️



 僕たち3人は何も言わずとも、食堂でサンドイッチ入りの箱を購入して、あの芝生へ向かった。


「ロン、何があったのさっ!」

僕はたまらず聞く。


「校舎の裏倉庫から、出てきたんだよ」


「???」


「あの女とウズライザーさんがっ」


「だから、何??」


 ずっと、クスクス笑ってるディークに交代。

「二人とも顔を赤くして、女のブラウスは、スカートのウエストからはみ出ていたし、ウズライザーさんの胸元ははだけてた」

 ワーハッハッハ!ディークが失神しそうなほど、笑ってる。


「あの中で、ウズライザーさんが一番お花畑かもなっ」

 呟いてまた笑う。ロンは、片手を顔に当ててなんともなんともな顔をしている。


 僕は、教室では真ん中の列なので、何も見えなかったけど、想像はできた。


 そうこうしていると、イメルダリアさんが僕たちの前に来た。

 ディークをディーク君と呼ぶことになったとき、僕たちも彼女たちを『さん』をつけて呼ぶようになった。


「大変なことが、ありましたの」


「あ、もしかして、さっきの授業の校舎裏ですか?」

と聞いたディークはまた笑いだす。


「ご覧になったの?」


「3階から見たのは、ロンとディークだけです」


「そうでしたの。では、話は早いですわね。今日の放課後、生徒会室にお願いしますわ」


〰️ 〰️ 〰️


「なんなの!なんなの!なんなのぉ!」

ソファーに座ってクッションをポスポスと叩きながら、ヴィオリアさんが呟いていた。イメルダリアさんが、背を擦って慰めている。


「あれをご覧になったのですよね?わたくしどもの2階からも、もちろん、見えましたわ。

自習でしたのでクラスには半分ほしかおりませんでしたが、そこにいた者はみんな見ましたの。アリーシャ様がいらっしゃったので、『醜聞は家にも響きますわ。確実でない情報は流さないようにお願いしますわね』と釘を刺してくださって、騒ぎにはならずに済みましたわ」

エマローズさんが、僕たちに説明してくれた。


「それにしても!婚約が白紙になった後でこんなに恥をかかされるなんてっ!」

ヴィオリアさんの声が聞こえた。


ん?今なんて?

「こ、婚約白紙になったんですか?」

エマローズさんに小さな声できく。


「そのようですわ。でも、わたくしたちが、ハッキリするまで、発表は待ってくれるらしいのです」


ディークがソファーまで歩き、まだポスポスやっているヴィオリアさんの向かいに座る。

「婚約白紙、おめでとうございます!」


「あ、ありがとう。でも、こうやって恥をかかされてるわ。

誰も婿に来たがらないからって、あれと婚約したのは、本当に失敗だったわ」


「誰も婿に来たがらないということはないでしょう」

ディークが慰める。


「とても辺境なのよ。馬車で1週間もかかるんだからっ」


「貴女の魅力だけで、婿などいくらでも来ますよ」


「ほんとに、貴方はお上手なのねっ!」


「僕が言っているのではありませんよ。僕は子爵家ですからね、CクラスにもDクラスにもEクラスにも友人がいます。そんな友人たちは、騎士や兵士になるため、鍛練場に通っています。

そんな彼らにとって、貴方は『戦乙女』だそうですよ」


「私は強くはないわっ!」


「そのようですね。でも、強さには色んな形があります。辺境伯様の一人娘であることを受け止め、鍛練に励む姿は大変凛々しいと聞いています」


「ヴィオリアさん、鍛練場に通っているのですか?型ですか?」

僕は思わず聞いてしまった。


「いえ、実演よ」

 鍛練場では、基礎→型→実演と訓練が進んでいく。型とは、対人でゆっくりと剣をぶつけ合う動きの基礎である。


「すごいなっ!僕はまだ基礎なんです」

 ヴィオリアさんは、僕よりずっと強いのだろう。


「辺境伯になるには、まだだめだわ」

 

「辺境伯領地に住む以上、女性も武力があるに越したことはないでしょう。でも、それだけ強ければ充分なのでは?」

ディークが言う。


「だからっ、婿がいなければ、私が辺境伯になって、親戚から子供をもらうようになるのよ」


「先ほど、僕の友人たちに、モテているって話しましたよね」


「強くなるかわからない人を待てないわ」


「ですよね。でも、彼らには兄弟がいます。長男はさすがに領地を継ぎますが、彼らが四男五男なら、その兄は、騎士や兵士にすでになっている者も多いのです。隊長副隊長なら、間違いなくいます。

そして、彼らは兄たちに凛々しい『戦乙女』の話をしているでしょう」


「え?」


「断言します。

『かの凛々しい戦乙女の辺境伯の婿』。

その座が空いた、という話が回ったら、貴女は釣書の多さに辟易するでしょう。直接口説きに来る強者もいるかもしれませんね」

 ディークの自信満々な言葉にヴィオリアはたじろぐ。


「だから、自信を持ってその時を待っていて大丈夫ですよ」


「な、な………。

変な噂は流さないでよね。婚約白紙はまだ内緒よっ」

 赤い顔したヴィオリアさんは可愛いらしかった。


ご意見ご感想いただけますと嬉しいです。

次話明日9時、投稿です。

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