3の3 恋の転 1
それからの私は本当に忙しかった。卒業式まで残り半年ほどしかないのだ。
まず、タニャード王国の両親や兄上である王太子に手紙を書いた。アリーシャ嬢の素晴らしさを書いたら手紙が10枚になってしまったが、それは仕方がないことだろう。
ヨアンシェル殿には、早速次の休日に付き合ってもらい、レンバーグ公爵家が懇意にする仕立て屋に向かった。ヨアンシェル殿は、仕立て屋のマダムに、「僕の友人なので心配ない。願う通りにしてやってくれ。」と言って帰ってしまった。まあ、その言葉がないと、アリーシャ嬢のサイズを知りたがる変態になってしまうので、これは大いに助かった。
アリーシャ嬢は今まで可愛らしいフワフワとしたドレスを仕立てることが多かったらしい。
私が大人っぽいドレスを贈りたいと言うと、
「わたくしも、アリーシャ様にはスタイルを強調する大人のドレスがお似合いになると思っておりましたのよっ!」
と、とても興奮していた。奥から呼んだ別のデザイナーとマダムと私の三人でアリーシャ嬢のドレスについて話し合ったのだが、盛り上がりすぎて夕方になってしまった。お昼前に来たはずなのに、おかしい。
とにかく、1つのデザインに絞り込み、他のデザインは無駄にならないようまたこの店を利用すると約束した。その際、私のタキシードを注文することも忘れなかった。
婚約どころか、交際の申し込みもしてないのに贈り物のドレスを仕立てているが、これは『私は絶対にアリーシャ嬢の婚約者になるぞ!』という私の気合いの表現だと思ってほしい。けっして、重たい男なわけてはない、たぶん。
タニャード王国の家族からの返信はすぐであった。祝いの言葉であったことに安堵する。『とにかく、一度戻ってこい』とのことだが、私もそのつもりであった。
上司であるシャーワント宰相殿に、タニャード王国へ一時帰国したい、2ヶ月ほど休みたい旨を伝えたら、仕事を山ほど積まれた挙げ句、アリーシャ嬢の政務相談は他の者に回されることもあり、この人は鬼だと本当に思った。
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シャーワント宰相殿からの鬼仕事を片付けた私は、卒業式から 3ヶ月前年末の例の茶会で、『仕事の都合(もちろん嘘だが)で、来週から2ヶ月ほどいなくなる』と、アリーシャ嬢に伝えた。私の目から見ても(私の目から見たからなのかもしれないが)アリーシャ嬢が淋しそうにしてくれて、私のやる気炎は尚更燃え上がった。
次の公爵邸での茶会お断りの贈り物はしっかり手配したし、年明けの贈り物も用意をして、茶会代理を知っているメイドに頼んだ。ちゃんとアナファルト王子にも大丈夫だと伝えた。今までいろいろ考えて贈り物をしてきたのに、アナファルト王子にメチャクチャにされたくなかっただけだが。
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馬車で国境まで1週間、そこから王宮まで1週間。2週間かけてタニャード王国の王宮に戻ると、家族が歓迎して迎えてくれた。そして、私に好きな人ができたことを大変喜んでくれた。
しかし、まだ口説いていないことを伝えると一気に場が冷え込んだことに、少し慌てた。メイド長や執事長までが、私を可哀想な者を見るような視線だった。
『だって相手にはまだ婚約者がいるし、私の相手となると王族になるんだぞ、気楽に口説いたりできるものかっ』と、心の中で叫んだ。
私からの手紙を読んだあと、外交官を呼び、アリーシャ嬢のことを詳しく聞いたそうだ。とてもいい令嬢だと聞いていたらしい。私の手紙ほど詳しいわけはないけど、ね。
家族は、早く口説くように、是非とも連れて帰ってくるように、と後押ししてくれた。
私にとってはアリーシャ嬢の利点とは言わないのだが、アリーシャ嬢が王妃教育を受けていることは、王家にとって、大変ありがたいことだそうだ。
もし、王妃教育を受けておらず、他の手段でもいいので、教養を身につけてもいない、つまりは、普通に学園を卒業したご令嬢だった場合、婚姻後外交に困らない程度には、勉強させなければならないそうだ。他国に行かなくとも、王族として他国の要人を迎えることがあるというのは、当然のことだ。
その点、アリーシャ嬢なら、私と外交として他国へ赴くこともできるだろうということだ。そんなもんだろうか?
そうそう、タニャード王国の外交官の一人である公爵子息ロベルト・モンタレールから、「俺が、代わりに口説きに行くから、お前はここにこのままいろっ!俺の嫁にしたいっ!」と本気で言われた。おもいっきり、笑い飛ばしてやった。ロベルトは、幼なじみで学生時代の悪友で、気のおけないいいやつだ。きっと私の家族は、こいつにアリーシャ嬢のことを聞いたんだろうなと想像できた。
そういえば、こいつ、去年、ガーリウム王国へ視察に来て、私と朝まで飲んだな。確か、素敵なご令嬢を見つけたが、婚約者がいたと泣いていて、朝まで飲むことになったんだ。まさかっ!それがアリーシャ嬢なのかっ??
なっ!アリーシャ嬢が婚約白紙なんてことになったら、野獣が現れるだろう。あー、危ない危ない。
一月の間に、新年のお祝いパーティーとか、ガーリウム王国での滞在期間の相談とか、タニャード王国に戻ったら公爵を賜るので王都の公爵家屋敷の準備とか、アリーシャ嬢へのお土産だとか、慌ただしくできるだけのことをして、タニャード王国を後にした。
だって、今日出発しないと例の茶会代理に間に合わないからさっ。
父上はガーリウム王国国王に親書まで書いてくれた。まあ、これは、アリーシャ嬢の婚約がなくなった後でないと見せられないけどね。
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次話明日9時、投稿です。




