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無双シーンは必須です

 村の入り口へと向かうと粗末な門はボロボロに破壊されていて、門番や男の村人たちが十人近く地面に転がっている。

 全員傷を負っているが息はあるようだ。気配は徐々に薄くなっているが、今手当をすれば助かるはず。

 そんな淡い希望を打ち砕くように、モンスターたちが手にした武器を村人たちへ振り下ろそうとしていた。

 見える範囲にモンスターは十二体。ゴブリン七体に、一回りデカいホブゴブリンが残りの五体か。

 今から飛び込んでも助けられるのは一人か、せいぜい二人。

 俺はポケットに忍ばせていた折りたたみ式の警棒を取り出し、フラッシュライトのスイッチに指を添えた。

 朝だが空は曇り。それに周囲を森で囲まれているので薄暗い。相手に直視させたら効果は期待できる。


「おい、化け物ども!」


 大声で叫ぶ声に気を乗せて放つ。

 モンスターたちが一斉に手を止めてこっちを見た。

 絶好のチャンスに俺は目を閉じてスイッチを押す。

 視界を塗り潰す圧倒的な光量。


「グギュラアアア!」


 薄暗さに慣れた目にフラッシュの光は強烈だったようで、モンスターたちは武器を手放して目を押さえるのに必死だ。

 その隙を見逃す理由はないので、うずくまっている敵の首を踏み折り、立っている連中は喉元に渾身の蹴りを叩き込む。

 執拗に首を狙うのは一撃で倒す目的と、相手に声を上げさせないためだ。

 視界を封じているというのに、わざわざ自分の居場所を教える必要はない。

 ゴブリンをすべて始末して、次にホブゴブリンへと向かう。アイツらは後方から指示を出しているだけだったので、ここからだと少し距離がある。


「ギリギリか?」


 目眩ましの持続時間と相手の回復力。どっちが勝つのか、微妙なところだ。

 相手の目の前に滑り込み、その勢いを拳に乗せて喉元へ全力の突きを放つ直前に、薄く開いた目蓋から覗き見る視線と視線が絡み合う。

 相手は咄嗟に喉元をかばう防御を見せたので、下腹部の急所に狙いを代える。

 適度な弾力がある二つの何かを潰した感触。


「…………っ!?」


 声にならない声を漏らし、ホブゴブリンが前屈みに崩れ落ちる。

 手でアレを攻撃するのはこっちもリスクがあるんだよな。あの生々しいモノの感触が嫌でも伝わってくるから。

 他のホブゴブリンも視力が徐々に回復しているようで、やたらと自分の下半身をかばおうとしている。

 ならばと、あえて正面から突っ込み視線を下へと向ける。両手でアレをガードしたので掌底を喉へ伸ばす。

 呼吸を一時的にとめられればいいな、程度の感覚で打ち込んだのだが、ゴキリと鈍い音が響き、首が曲がってはいけない方向へと折れた。

 耐久力も人間と大差ないようだ。


 モンスターも無謀なバカではないようで、残りの三匹が劣勢に気づき一斉に踵を返して逃げ出す。

 無防備な背中を晒した、一番近い個体へ跳び蹴りを入れて倒す。

 もう一体は少し距離があるが力強く地面を蹴りつけると、まるで足裏が爆発したかのような土煙が噴き上がり、体が前へと跳ぶ。

 数メートルもの距離を一瞬で縮めるとホブゴブリンの背中に蹴り込む直前、もう一体との距離を測る。

 ここから十二、三メートル先。森の中に逃げ込む直前。木々が多すぎて位置を見失う可能性も高い。奥には別の敵が待ち受けている可能性もある。

 瞬時に計算すると、蹴る寸前のホブゴブリンと逃げるホブゴブリンが一直線上に並ぶように位置をずらす。


 そして、背中に足が触れると同時に力を解放する。


 ホブゴブリンの背中がくの字に折れ曲がり、弾丸のように飛び出した体が地面と平行に滑空した。

 進路方向には、あと一歩で森に逃げ込むホブゴブリン。

 逃げ延びれたと安堵の表情を浮かべた直前に仲間と激突、団子になって目の前の大木に激突した。

 気配を探り、二体の気が完全に消えたのを確認する。どうやら撃退できたようだ。異世界系の主人公らしく無双できたかな。


「お見事ですわ、バク様! 私あまりの感動と興奮に少し濡れてしまいました」

「すげえぜ、あんた!」

「この村の救世主ね!」


 頬の赤い痴女は無視するとして、他の村人たちは喜んでくれているようだ。

 圧倒的な力で相手を殺したとなると、その力に怯える人が出てきてもおかしくないのだが村人にそんな様子はない。

 二作目のバトル漫画では助けた連中が悲鳴を上げて逃げる、なんてシーンが何度かあったんだが。……あの時は相手を殺しはしなかったけど。


「あの地面を飛ぶような動きと、吹き飛ばした力。もしや、身体強化系の魔法が使えるのですか?」

「身体強化系?」


 聞き慣れない言葉に思わず聞き返す。


「この世界の魔法にはいくつか系統がありまして、火、水、土、風、雷、聖、闇、そして無です。身体能力を強化する魔法は無に属します」


 あっ、思い出した。それ知ってる。先生……読んでいた漫画にあった設定をまた真似ましたね。

 魔法に属性があるというのはファンタジーでは一般的で、無属性が身体強化系というのもよくある設定、というか定番の一つなので物珍しさはない。


「いや、俺は魔法使えないから」

「では、何もない状態であれほどの力を……さすがです、バク様」

「こんなに強い人、初めて見たわ!」

「くうううっ、俺もあんな風になりたいぜ!」


 過剰にもてはやすキーサラギと村人たち。

 ここまで手放しで褒められると嬉しいというより気持ち悪い。純粋な称賛も含まれている、とは思うがここでいい気にさせて守ってもらおう、という下心と打算が見え隠れしている。

 ……というのは考えすぎか? 先生がそんな複雑な心理描写をするか?

 俺や自我の目覚めたキャラは自分で考えて行動できるが、それ以外のキャラは基本、先生の操り人形だ。

 単純に主人公を気持ちよく褒め称えるシーンが描きたかっただけのような気もする。


「ともかく、これで一件落着かな」

「はい。もう数日様子を見る必要はあるかもしれませんが、これほどのモンスターの群れを倒したのです。残りがいるとしてもわずかでしょう」

「そうだと、いいのだけど」


 って、なんで俺がフラグを立てるような発言をしているんだ?

 今考えずに無意識で出たってことは、先生が言わせたいセリフだ。

 わかりやすいフラグを立ててきたぞ。これは追加で厄介事がある流れか。


「バク様の活躍と無事を祝ってぱーっとやりましょうか!」

「「「おーっ!」」」


 騒ぐ村人を見てまず思ったのが、お前ら村人のマッジーマが死んで一日も経ってないんだぞ?

 そんなことより葬式とかやってやろうよ。一作目はクズキャラだったけど、死んだときにスーズッキが悲しんでいただろ。ということは、今作はそんなに嫌なキャラじゃなかった設定のはずだ。

 漫画としてここは盛大に喜ぶ演出が欲しいのはわかるけど、こういう矛盾というか流れのおかしさが引っかかり、感想やレビューで叩かれる要因になるのに。

 ……と先生の演出に対する疑問はあるが主人公らしく振る舞わないと。

 先の展開への不安と内心の不満は隠し、村人の歓声に応えるように拳を突き上げる。


「「「うおおおおーっ!?」」」


 喜びの雄叫び……にしては違和感覚える村人の叫び。

 全員が驚愕の表情でこっちに注目しているようだが、その視線は俺を素通りして背後に向けられている。

 嫌な予感しかしない……。

 振り向かないと話が進まないとわかっているが、振り向きたくない。

 地鳴りのような声と全身が浮かび上がるような振動が徐々に大きくなっているが、振り向きたくない。

 目の前にいる村人たちの顔から血の気が完全に引いて、腰が抜けて後退っているが……振り返りたくない!


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