エピローグ
最終回を描き終わり一息吐く。
今回は担当編集の提案に従い、始めて異世界系に手を出してみた。
事前に人気のある異世界系小説や、コミカライズされた漫画にも目を通した。更にここ数年でアニメ化された異世界系は最後まで視聴済み。
それを参考にして漫画を描いてみたんだが、結果は散々だった。
「基本は抑えているよな。トラックにはねられて異世界に行く。困った人を助けて惚れられる。冒険者ギルドに行く。ギルドで絡まれる。うん、予定通りだ」
自分が読んだ上位作品のほとんどがこの展開だったので、これで間違いなかった……と思う。
もちろん異世界作品のすべてがそうではない。まったく別の驚くような展開の作品や王道ファンタジーもあったけど、自分の読んだ上位作品の平均を取ると、この流れが圧倒的に多かった。
これが異世界系におけるテンプレで間違いないと思う。ちなみに、作家としてこのテンプレを非難する気はない。
学園ラブコメで主人公が急にモテ始める、幼馴染みが焦りだして積極的になる、転校生がやって来て新たなライバルとなる。
……みたいな流れと同じ。作家としてそこを否定するのは、ブーメランを投げるのと同じだ。投げた言葉が過去の自分に突き刺さるだけ。
初めて連載を勝ち取った《ラブとコメの比率は》なんて、流れはド定番の王道だったからな。
「主人公の設定が間違いだったのか……。強さはこれぐらいでよかったはず」
異世界作品で最も大事なのは主人公が強いこと。
基本は普通の人の設定で、死んだら都合のいい強くなる能力を神様や他の存在から与えられる。まだ設定が固まってないから能力をもらうシーンは描いてないけど。
戦闘シーンは以前描いた《ラッシュ3》のおかげで結構うまく描けたと自負している。経験って大切だよな、うんうん。
「誰にも負けない最強に近い主人公が人気っぽいけど、そういうのは苦手なんだよな。ある程度は強くてもいいけど、やっぱり成長要素や戦いに頭を使わないと。そこは譲れない」
多くを妥協して描いてきたが、そこだけは自分の個性を出していきたい。
少年漫画で連載していた経験上、初めから最強だけは受け入れられない。主人公が壁にぶつかって努力するシーンは欠かせない。
主人公の使う技を《ラッシュ3》から引用して描いてみたが、担当編集には好評だった。
初めはあの技を使う気なんてなかったのに、勝手に手が動いていたんだよな。……とか言っても信じてもらえないよな。
昔はそんなことなかったけど、今はネームを描いていると脳内で勝手にキャラが動き出すことがある。自分が予想もしなかった物語を登場人物達が紡ぎ出してくれるんだ。
「前にこの話を担当さんにしたら、『お疲れみたいですね。締め切り延ばしましょうか』って、数日めっちゃ優しくなったな……」
あんなに優しい編集を見たのは最初で最後だ。
「異世界系で一番困るのはやっぱ、あれだよな」
今までずっと人間ばかりを描いてきたので人は問題ないのだけど、モンスターがね……。
人型のモンスターはそんなに苦じゃない。でも動物型や虫型のモンスターが苦手すぎる。猫は今までちょくちょく描いてきたから、それなりには自信があるけど他のは勘弁して欲しい。
今のところ動物型のモンスターを描いてないけど、読者にはバレてないよな? 実はかなり真面目に練習していて、これからその成果を披露するはずだったのに。
「お色気とグロも頑張ってみたけど」
初の青年誌なのでどこまでやっていいのか、探り探りでやるしかなかった。
グロ描写も担当からはOKがでた。
エロの方は当初は主人公が性欲に負けて、ガッツリやっちゃうタイプにする予定だったけど腰が引けてしまい結局やらずじまい。
それを主人公が望んでいない気がしてしまったんだ。自分の生み出したキャラに感情移入しすぎだと言われたら、それまでだけど。
「なんだかんだ言って、こいつとも付き合い長いもんな」
自分の描く漫画には一つ大きな特徴がある。歴代の主人公やメインキャラが同じなのだ。といっても、キャラの見た目が同じだけで毎回役割は違う。
ようは、様々なドラマで同じ役者を起用しているが役柄は別、といった感じだ。
これは別に、キャラのかき分けが苦手とか使い回しとかじゃない! ネットではその設定をからかい、罵る連中がうじゃうじゃいるが、違うと断言したい!
この手法はスターシステムと呼ばれている、昔からある表現方法の一つ。あの偉大なる漫画の神様もおやりになっていた。バカにされるいわれはない!
……落ち着こう。ネットの書き込みを思い出しただけでイラついてしまった。反省、反省。
「国とかの設定も固まったところだったのに」
連載中に設定を考える方法でやってきて、ようやく国の名前や世界観も完成したのに無駄になってしまった。
今回は今までで最速の打ち切り。
異世界系を書けば受けるだろうと、安易に考えてプロットも書かなかった罰が当たったのかもしれない。
まさか、メインヒロインに再会する場面にすら到達しなかったとは。
この世界はポイント主義。人気がなくポイントが低ければ容赦なく切られる。後半から面白くなるはずなのに! という言い訳は通用しない。
「この失敗をバネに、更なる跳躍をしよう! 次回作ではもっと活躍させてやるからな!」
自分の描いた漫画のキャラたちに向かって声を掛ける。
すると、背を向けていたはずの主人公たちが振り返り、親指を立てた拳を突きつけた。
「えっ?」
信じられない光景に目を擦り、もう一度原稿を見ると……強敵に飛び掛かっていく主人公たちの背が見えるだけだった。
ということで打ち切りENDです!
この作品のスタンスとしてはありなENDな気もします。
感想、評価、よろしくお願いします。
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!
昼熊の次回作にご期待ください。




