魅力的なライバルキャラって必要ですよね
さて、困った。
佇まい、言動、そして隣で紙のように白い顔で小刻みに震えているマーブダッチを見る限り、この男はたぶん高ランク冒険者だ。
ギルド内の他の連中に視線を向けると、羨望と尊敬の眼差しを注がれているのが一目見てわかる。
「もしかして、あのお方は冒険者の……」
「嘘っ、私初めて見た! 感激ー!」
男よりも女に絶大な人気があるようだ。あの顔なら当然か。
嫌われ者のキザ野郎なら、不意打ちや卑怯な手段で倒す手も使えるが、敵に回すとこっちの立場が悪くなるタイプのキャラか。
まずは穏便にいこう。
「あんたが誰かは知らないが、その乱暴者の知り合いなら躾はちゃんとしてくれ」
「それはすまない。彼は元、ボクの所属する《雷光》の一員だったんだけど、素行の悪さで脱退してもらったんだよ。ボクはそこのリーダーをやらせてもらっている、シュナイダーっていう冒険者さ」
でた、日本人がカッコイイと感じる響きが多いドイツ語の名前。ここで使ってきたか。
その名前を聞いたキーサラギが何か言いたげな不満顔をしている。自分の名前と比べたら、先生に文句の一つも言いたくなるよな。
雷光ってのは冒険者が集まって出来たグループみたいなものだと解釈しておく。
「なら、もう部外者なんだなそいつとは」
「そうだね。脱退した際に他人に迷惑を掛けたら、雷光の名において始末する、って警告しておいたのに」
肩をすくめて苦笑すると、腰からぶら下げていた細身の剣を抜き、倒れている男の背に切っ先を当てた。
瞬間、光が弾け大男が大きく一度痙攣すると、体中から薄く煙が立ち上る。
大男の気がかなり弱く小さくなっているが、死んではないようだ。
「あれが、シュナイダーの雷か」
冒険者の一人が呟く声が耳に届いた。
雷光という名はリーダーの能力に基づいたネーミングか。困ったな……攻撃手段が被っている。警棒とほぼ同じ能力じゃないか。
「イケメン雷使い……間違いなく強敵でモブじゃない。準レギュラーかそれとも」
「ライバルポジションでしょうか?」
「きっとそうよ。女性受けしそうなシュッとした顔してるし。初めは軽く敵対しておいて、あとから仲間になりそう」
「準レギュラー? ライバルポジション? 女性受け?」
俺たち三人が小声で交わす言葉が聞こえたマーブダッチが首を傾げている。前作の記憶がないと意味がわからなくて当然だ。いつまでもピュアなキミでいてくれ。
メタ発言はこれぐらいにして、次に俺が取るべき行動が問題になってくる。
少年誌の主人公としての発言なら、
「動けない相手に、それはやりすぎだろ!」
と怒ってみせるのがベストか。だけど、この作品はおそらく青年誌。
青年漫画にありがちな、ちょっと生意気ですれた感じを演出してみるのもありか。となると、
「始末してくれて手間が省けたよ」
こんなのはどうだろう。口にしてみたら意外としっくりきた。
「後始末は飼い主の責任だからね」
「そうか、それじゃあな」
コイツとのやり取りを長引かせたくなかったので、話を切り上げてギルドから出ようと背を向ける。
と、同時にその場に屈む。
シュッと風を斬る音と風圧が頭の上を通り過ぎた。
シュナイダーを睨み付けると、抜刀した状態で目を見開いていた。
「これは驚いた。ボクの不意打ちを躱すなんて」
「なんのつもりだ?」
「ちょっとキミの腕を試したくなってね。安心してくれ、当たっても大丈夫のように峰打ちだから」
よく見るとその剣は少し湾曲していて片刃だった。日本刀を薄く細くしたようなデザインをしている。
「どこに安心する要素があるんだよ。そのスピードで殴ったら、峰打ちでも大怪我するだろうが」
某サムライ漫画や昔の時代劇で峰打ちで相手を倒すシーンが頻繁にあったが、刃で斬ってはないが鉄の棒だぞアレ。本気で殴られたら骨は折れるし、下手したら死ぬ。
「でも、キミなら大丈夫だろ?」
このイケメン悪びれる様子もなく笑ってやがる。戦闘狂ってヤツか?
現代日本でこんなヤツがいたらサイコパス扱いされるぞ。何を考えているのかがわからないが、油断していい相手じゃないのは確かだ。
腕をすっと上げていつもの構えを取る。
「俺はあんたと戦う理由はないんだけどな」
「強い相手を見ると、腕試しをしたくなるんだよ」
「知ってるか、そういうのを通り魔って言うんだぜ?」
似たようなやり取りをバトル漫画時代もやった覚えがある。
バトル漫画の世界も日本とは思えない物騒な思考をしている住民だらけだったが、異世界の人間のモラルも同レベルかそれ以上だと覚悟しておこう。
周りの冒険者やギルド職員に期待して視線を向けるが、誰も止めに入る気はないみたいだ。モートアーネだけはこっちに向かおうとしているが、他の職員にとめられている。
仲間のキーサラギとジェニファーに至っては、
「ボッコボコにしてやってくださいませ。調子に乗っているイケメンがあっさり倒されるのって滑稽ですよね」
「それわかるー。強いヤツの鼻っ柱が折れる瞬間って最高よね」
こういうときは意見が一致している。
手伝う気すらなく、完全に観戦ムードだ。そんな呑気な二人を見てマーブダッチがドン引きしているな。
さーて、どう対処するか。こっちも警棒を出してもいいが、ここは素手でいこう。
相手は電撃を剣に這わせて戦えるようだから、触れたら即アウト。全部躱さなければならない。
「おや、武器は出さないのかい? それぐらいは待ってあげるよ」
「面倒だから素手でいい」
「もしかして、なめられているのかな? ボクはこれでもAランクなんだけどな。それにキミにはこの鎧が見えないのかい」
剣の柄で自分の着ている白銀の鎧を叩き、笑顔で首を傾げる。
首から上を除いてすべてを覆う金属の鎧。素手でダメージを与えるなら、普通は頭を狙うしか術はない。
強そうだとは思っていたがAランクか。この男と戦えば冒険者ランクの力量が測れそうだ。
「おいおい、シュナイダーさん相手に大口を叩くんじゃねえぞ!」
「初心者が調子に乗りやがって。身の程を知りやがれ!」
「シュナイダー様。そんなヤツ切り刻んじゃって!」
俺を罵倒して騒ぎ立てる他の冒険者たち。完全にアウェー状態だ。
この場に居る冒険者で味方はキーサラギとジェニファー、それにマーブダッチぐらいか。
「バク様! たぶん、この話が巻末です。なので見栄えのいい戦いをお願いします!」
「〆と二巻への引きを考えてよ!」
「巻末とか〆って何だ?」
その内の二人は漫画のアドバイス、唯一の良心は困惑している。
仲間の発言を黙って聞いていたイケメンがぷるぷる震えている。もしかして、苛立っているのか?
「ボクって結構プライドが高くてね、そうやって甘く見られるとそれなりに不快なん、だっ!」
俺の予想を肯定するように叫ぶと、鋭い突きが繰り出される。
峰打ちはどこいった! 小物感を出すのが早すぎるだろ!
剣の腹や峰を弾くという手もあるのだが、光を放つ刀身に触れる気にはなれない。
ためらいなく喉を狙う突きを、右前方に一歩踏み込みながら屈むようにして躱す。そのまま伸び上がるように体を戻しながら相手の顎を打ち抜こうとしたが、突き出されたはずの刃がそこにあった。
なんていう戻しの速さだ。このまま手を伸ばせば、拳が真っ二つになる。
攻撃を変更して、そのまま相手の横をすり抜けていく。
ヒュッと風切り音がしたので、床に這いつくばるように姿勢を更に低くした。
そして、床に弧を描くように足を滑らせて体を半回転させて素早く立ち上がる。
「この連撃まで躱すとは面白い!」
声は強がって悔しがっているというよりは歓喜の色が濃い。
本物のバトルジャンキーか。
「シュナイダー様の攻撃を避けるなんて、何考えてんのよ!」
「そうだそうだ。大人しく斬られろ!」
外野がうるさい。
そんな冒険者達をキーサラギとジェニファーが睨み付けている。
さっさと勝負を付けないと場外乱闘が始まりそうだ。そろそろ、様子見はやめるか。
「お世辞抜きで強いなあんた」
「それは嫌みかい? 素手相手にここまで手こずるなんて思いもしなかったよ」
シュナイダーが左半身を引いて右半身を前に出し、切っ先を上に向ける独特の構えへと変更した。
いかにも必殺の一撃を放つ前、といった雰囲気だな。
俺は軽く後ろに跳び、足下に転がっていた香ばしい匂いを漂わせている男を跳び越えた。
「戦いの邪魔だね、すまない。掃除させようかい?」
「いいよ、俺がやっておくか、らっ!」
全力で大男を蹴り上げる瞬間に《弾》を発動させる。
サッカーボールのように軽々と男の体が宙に浮き、巨体がシュナイダー目がけて突っ込んでいく。
「この巨体を軽々とっ!?」
不意を突いた攻撃のはずだったが、シュナイダーはあっさりと躱す。
だが、巨体が当たって勝利なんて甘い未来を期待していない。本来の目的は目隠しだ。
「おや、逃げちゃったのかな?」
視界が妨げられた一瞬の隙に俺の姿が消えたので、そう判断したのか。それも考えたが、ここで逃げたら読者からの批判が殺到しそうだ。
それにこの戦いはキーサラギの言っていた通り、一巻の終わりに近いシーンのはず。ここで逃げたら……売り上げと人気に響く!
俺は巨体の空中浮遊に気を取られている間に、野次馬冒険者たちの背後に回り込んでいた。
そして、目の前にいる冒険者の背中に手を触れると「弾ッ!」発射した。
「なにいいいいっ!」
更に横に跳び「弾ッ!」
「ぬああああっ!」
「弾ッ!」
「きゃああああっ!」
「弾」「弾」「弾」
「うごっ!」「ぐへっ!」「ぎゅあっ!」
シュナイダーへ降り注ぐ、男女入り交じった冒険者の雨。
描くのが面倒そうですが、先生このシーンは気合を入れてください!
「な、なんだとっ! バカなああああああっ!?」
一人なら避けられたようだが、十人以上の冒険者は避けられまい。
鈍い音が何度も響き、その音が静まると冒険者が山のように重なっていた。その山の麓から白銀の腕と細身の剣が見える。うまい具合に下敷きになったようだ。
「お見事ですわ、バク様! ……という場面なのでしょうけど、これはちょっと」
「あんたにしてはやるじゃない! ……女も巻き込むなんて外道」
「昨今は男女平等が叫ばれているからね。差別すると様々な問題になる! コンプライアンスとか大事にしないと!」
褒めた後に貶す彼女たちに説明しておく。
それを聞いた彼女たちの顔は渋面だ。少しも納得していない。
「バクが強いのは理解したが、これだけはハッキリ言える。お前……この街の冒険者の多くを敵に回したぞ」
頭を抱え大きくため息を吐くマーブダッチ。
心配性の親友の肩に手を添えると、俺は力強く断言した。
「あとは、先生がなんとかしてくれる!」
「先生って誰!?」
イケメンキャラを片付けたことだし、後始末はモトアーネに任せてとっととギルドから逃げ出すか。
俺が目配せをするとキサラーギとジェニファーも直ぐに理解したようで、こっちに駆け寄ってきた。
長いプロローグがようやく終了したか。ここから本格的な冒険譚の始まりだ。
「ちょっと待て、そこの新人」
背中に掛けられた声に嫌な予感しかしなかったので、無視してギルドを出ようとしたが…………体が動かない。
これは、強制力かっ!?
振り向きたくないのに俺の意思に反して体が勝手に動く。
ギルドの奥から派手な格好をした男女が数名が迫ってくる。
「そいつは、Aランクの中で最弱。Aランクがすべてその程度だと思われては困る」
「情けない男、ね」
「はんっ、Aランクの面汚しがっ!」
眼鏡をしたロングコートの男が手にした杖を掲げると、シュナイダーの上に覆い被さっていた冒険者たちが重力に逆らって浮かび、ギルドの壁に向かって吹き飛ばされる。
続いてモデルのような歩き方をするキーサラギにも負けないスタイルの美女が、ウインクをするとシュナイダーの体が水球に包まれ、目を覚ましたシュナイダーが必死にもがきだした。
それを眺めていた上半身裸の筋肉だるまが豪快に笑っている。
「ヤバいな……」
「あの三人はかなりの強者に見受けられますわ」
「うん。髪の毛と体毛が逆立ってる」
二人は緊張に顔を引き締め、マーブダッチはその場に膝を突きガタガタと震えている。
「いや、実力よりも……この展開がヤバい。個性が強烈な強敵が一気に現れ、その能力を惜しみなく発揮するパターン。以前にも経験がないか?」
俺の問いかけの意味を察した二人の表情が一変する。
驚愕から今にも泣き出しそうな顔に。
「これは……打ち切りの流れだ!」
漫画が予定通りの終わりを迎えられた場合は最終回への流れも美しく、俺たちも満足して役割を終えられる。
だが、人気がなく打ち切られたときの最終回は酷いものだ。
今後出番があるはずだったキャラクターを一気に出し、急展開で話を進ませる。
先生としても頑張って考えた設定をこのまま埋もれさせるぐらいならと、キャラと設定の大盤振る舞いを始めるのだ。
その結果、本当なら中盤や終盤当たりで出てくるキャラがこうやって出場する。
そして、これが本当に最終回なら、あのセリフと編集者の煽り文が……。
「さあ、かかってこい。新人冒険者よ」
相手のセリフに合わせて俺の口が勝手に動こうとするのを必死になって耐えるが、その強制力に俺は抗えない!
「俺たちの冒険はまだ始まったばかりだ。邪魔されてたまるかよ、いくぞ!」
「「うん!」」
俺たち三人はAランクの猛者たちに飛び掛かっていった。
《ご愛読 ありがとうございました! 〇〇先生の次回作にご期待ください!》




