ラブコメに男キャラは必要か否か
ハーレム系のラブコメにおける問題として、そもそも主人公以外の男性キャラが必要か否かというものがある。
主人公がヒロインたちにモテるのはいいが、ヒロインたちが他の男に惚れたり気持ちが揺らいだ描写を毛嫌いする読者は意外と多い。
そういった場合、重要になってくるのは友人キャラというポジション。
主人公と仲がよく話に絡んでくるが、ヒロインたちには手を出さない。それが友人キャラにおける理想的な立ち位置。
全作品において俺の親友は明るく外交的で情報通。ヒロインたちを魅力的だと評価はするが一切手を出そうとしない。尚且つ、ずっと一途に想っている相思相愛の彼女がいる、という設定まである。
そして友情を何より大切にしていて、友人がモテることに軽く嫉妬はするが幸せを心から祈る、という読者に心配させない安心設計。
俺にとってもありがたい存在で、一作目では親友と話している時間が一番癒やされた。
「ところで、ダッチだったか。俺と友達にならないか?」
「な、何勝手に名前を呼んでんだよ! お前にダッチなんて呼ばれる筋合いはねえ。俺はお前に文句をだな」
唐突すぎる俺の申し出に戸惑っているな。
親友は今作では初対面に加えて、自我に目覚めていない。驚いて当然だ。
「そういうのはいいから。飯でも食いながらじっくり話そうぜ。もちろん、全部俺の奢りでいい」
「奢りか、ならいいぜ。なんだ、話がわかるじゃねえか。案外悪いやつじゃないのかもな」
あっさりと機嫌がよくなると、俺と一緒に近くの席に座る。
こういう単純で切り替えが早いのも親友の美点だ。
「ちょっと、話を勝手に進めないでくださいませ。わたくしも一緒に」
「じゃあ、あたしも」
丸いテーブルを囲んで対面にマーブダッチ、俺を挟むようにしてキーサラギとジェニファーが腰を下ろす。
「まずは俺から名乗らせてもらう。俺の名前はマーブダッチだ。ここで三年前から冒険者をやっている」
三年か、結構先輩だ。俺と同じく駆け出し冒険者じゃないのか。
「俺はバク、こっちがキーサラギとジェニファーだ」
「初めまして、マーブダッチ様」
「よろしく」
キーサラギは優雅に微笑み、ジェニファーはぶっきらぼうにあいさつをした。
そんな二人を難しい顔でじっと見つめていたマーブダッチだったが、急に相好を崩す。
「なんだ、いらぬ心配だったようだな。買った獣人を奴隷にして粗末に扱う輩が結構いてよ、お前もその類いかと思ったんだが」
だから初対面からあんな態度だったのか。
これまでと違いちょっとワイルド系のキャラに変更したのかと心配していた。
「ふん、余計なお世話よ。あたしは好きでここにいるんだから」
「そりゃ悪かったな、お嬢ちゃん」
ジェニファーのぶっきらぼうな態度にも嫌な顔一つしない。今作も中身は変わってないようでほっとするよ。
「疑った詫びに、ここの金は俺が持つよ。遠慮なく飲み食いしてくれ」
「じゃあ、遠慮なく。あと、ここに来たばかりだから街の情報や冒険者ギルドのルールなんてのがあるなら教えて欲しい。マーブダッチさん」
「ダッチでいいって。こう見えても情報通でな。何でも教えてやるぜ」
情報通なのはよーく知ってるよ。
心から安心できる相手との再会に心が弾む。
それからは雑談を交えながら、この冒険者ギルドの掟について学ばせてもらった。
「冒険者ってのは荒くれ者のイメージがあるからこそ、規則がしっかりしていてな。目に余る違反や迷惑行為をやっちまうと、冒険者カードを永久に剝奪もありうるぜ」
「ちなみに違反や迷惑行為ってどんなのだ?」
こういうのは大事なことなので俺は真剣に訊いているのだが、キーサラギもジェニファーもあまり興味がないようで我関せずと料理を口にしている。
「んーあれだ、クエストを何度も失敗する。冒険者同士の喧嘩……なら注意ぐらいですむんだが、殺しになるとアウトだな」
「その問題行動をした冒険者が凄腕だったらどうやって取り押さえるんだ? ここの職員が実は腕利きとか?」
モートアーネや他の職員も武闘派といった感じではない。実際、気の大きさも一般人と大差なかった。
「それはだな、抵抗する相手には賞金が出るんだよ。で、他の冒険者たちが捕まえたり、状況によっては始末する。あと、高ランク冒険者になる条件の一つに、問題を起こさないってのもあるからな。ランクが高いヤツほどルールに厳しかったりするんだぜ」
「もしかしてだけど、そういった連中をとっちめると高ランクに上がりやすくなったり?」
「正解」
マーブダッチが「察しがいいじゃねえか」と笑う。
悪くないシステムだよな。冒険者同士で取り締まってくれたら、ギルド側も楽できるし。
「だがな、ここだけの話なんだが……。高ランクの連中だって、ギルドにいつもいるわけじゃねえし、上の連中は何かと忙しいからな。なまじ権力があるから少々のことはもみ消せるしよ。それに隠れてヤバいことをやっている連中だって……いるかもな」
声を潜めているってことは、この場に居る冒険者にそういった輩がいるのかもしれない。
「辛気くせえ話はここまでにして。そんでよ、この二人どっちがお前さんの本命なんだ?」
コイツ、一番口にして欲しくないことをぶち込んできやがった。
いつものことだが、余計な一言が多いんだよな。あと空気を読めていない発言も多々ある。……そこから話が広がっていくパターンもあるから、ある意味空気が読めているのかもしれないけれど。
「バク様。どちらが本命なのかとっても気になりますわ」
「あたしはどうでもいいけど、まあ聞いてあげてもいいわよ。答えはわかっているけど」
「あらあら、さえずるではないですか。一度もメインヒロインの座を射止めたことがないくせに」
「それは、あんたもでしょ!」
俺を挟んで怒鳴るのはやめて欲しいんだが。
いつもの小競り合いが始まったので、すっと気配を消してマーブダッチの隣に移動する。
こうなると二人は周りが見えなくなるので俺は眼中にない。
「あっと、放っておいていいのか?」
「いつものことだから」
「そ、そうか、悪かったな。余計なところ突いちまったようだ」
即座に頭を下げて謝る、マーブダッチ。
間違いを認めて謝罪する、というのは簡単のようで意外と難しい。それが出来るだけでも彼は偉いと思う。
罵り合う二人を無視して、俺はマーブダッチと酒を酌み交わし交流を深めた。
……といっても、俺は酒を口にしなかったが。異世界では飲酒の年齢制限もあるかどうか怪しいが、日本人としてはそこは厳守しておこう。
最近は漫画内とはいえ法律違反をやると、うるさい人たちがいるから。
次の日、打ち解けた先輩冒険者のマーブダッチと一緒にクエストを受ける約束をしていたのでギルドに向かう。
中に入ると掲示板の前で大きく手を振るマーブダッチ。
「あの、裏表がない笑顔いいよなぁ」
「バク様、何が仰りたいので?」
「皮肉なんでしょ」
左右に並ぶ二人の鋭い視線が突き刺さるが気にしない。
「おう、来たか。今日はビッグラットの討伐だったよな」
「それなんだが、ビッグラットについて詳しく教えてもらってもいいか?」
「もち、構わねえぜ。といってもただの白くてデカいネズミなんだけどな。大きさは俺の指先から肘ぐらいか」
四~五十センチってところだな。
結構デカいがモンスターというのだから、もっと巨大なのを想像していた。
「討伐数は二十で、討伐数が増えれば増えるほど追加報酬あり。場所は下水って依頼だったな」
「下水ですか……」
「うわぁ、臭そう……」
露骨に顔をしかめるキーサラギとジェニファー。
女の子が喜んで行く場所でないのは確かだな。
「二人とも嫌なら付いてこなくていいぞ。俺とダッチの二人で行くから……その方が気楽だし」
「行きます! 絶対に付いていきます」
「暇だから、いやいや付いていってあげるわよ」
まあ、こうなるよな。
漫画的にも野郎二人の冒険じゃ見栄え悪いし。
「おいおい、見せつけてくれるじゃねえかガキ共。そこの姉ちゃん、そんな冴えない優男なんか捨ててうちのパーティーに入んねえか?」
「じゃあ、そろそろ行こうか」
酒焼けしてそうな汚い声が聞こえたがスルーをしてみた。
隣のマーブダッチはその声の主を見て顔面が蒼白になっている。
「しかとしてんじぇねえぞ! おいっ!」
肩に手を置かれて強引に振り返らされると、頬に×の傷がある大男がいた。
ボサボサの髪に「私は悪役ですよー」と主張するかのような人相。前に会った馬車を追っていた連中よりも厳つい顔をしている。
鉛色の金属の鎧を着込み、背中には大剣を背負った見るからにパワータイプの冒険者だ。
「初心者が、このCランク冒険者のアークトウを無視するとはいい度胸だ」
「お褒めにあずかり光栄です」
「褒めてねえよ!」
こういう場面では慇懃無礼な態度で煽るのが効果的で、相手も思惑通り乗ってきた。
しかし、Cランクとは微妙だな。A……せめてBランクぐらいが相手じゃないと、読者に爽快感を与える強さアピールが出来ない。
「バク、アイツはヤベえって。素行の悪さでCランク止まりだけど、実力はBランク上位って噂だぜ」
ビビりながらも俺を心配してくれるマーブダッチ。やっぱ、いいやつだ。
実力はBだけど、今はCランクか。この冒険者ランクの説明は昨日聞いたので、今はその設定のおさらいだな。
「あのぅ、バク様。そのような熱い視線はわたくしに注いでいただけませんか?」
「もしかして女性票集めようとしてない?」
「お前、どっちもいける口なのか? 俺は性別で差別はしないが、悩みがあるなら相談に乗るぜ?」
三人もいるとツッコミがうるさい。あと、マーブダッチは優しい。
「おい、いい加減にしろよお前ら……俺を無視するんじゃねえ!」
大男は堪忍袋の緒がかなり切れやすい材質らしく、ギルドの中だというのに大剣を鞘から抜いた。
「ギルド内で暴れたらルール違反って話だったよな?」
「ああ、でもコイツはいつもこんな感じだからランクが上がらねえんだよ」
でも、こんな場所で剣を抜いて斬りつけたら相手を殺さなくてもアウトだろ。ランクの問題程度で済むのは甘いなんてもんじゃない。
「おら、ビビっちまったの、ごべぎゃ!」
すごんでむさ苦しい顔を近づけてきたので、下から掌底で顎を打ち抜いた。
あっさりと仰向けに倒れる大男。
これだけ目撃者がいれば俺が罪に問われることも、冒険者カードを没収ってことにもならないよな。それに、モートアーネがギルド職員だから、いざとなったらうまいこと取り繕ってくれるはずだ。
「じゃあ、今度こそ行こうか」
「すまないが、ちょっと待ってくれるか。ボクの知り合いが迷惑を掛けたみたいだね」
再出発しようとしたら、また邪魔者が入った。
今度のはさっきのと違い理性も知能もありそうな顔をしている。
金髪で短髪。顔は街を歩けば十人中、九人は振り返るような爽やかイケメン。メタ発言をするなら俺やマーブダッチより輪郭の線が細い。
白銀の全身鎧を着込んでいる姿は、冒険者というより騎士にしか見えない。
「バク様、どうしましょう」
「こいつは難敵じゃないの、バク」
「そう、だな」
俺たちは相手を一目見て警戒レベルを最大まで上げた。
今までは相手の顔を見ればある程度の実力やキャラの性格を予想できた。だけど、今回は違う。
「オリジナルキャラだっ!」




