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先生、今度は異世界ですか?  作者: 昼熊


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14/19

設定とかの説明シーンって読み飛ばしません?

 俺が猫について語り終えると、二人は大きなため息を吐いた。


「まあ、今更よね。あの頃もあたしみたいな美少女とのデートよりも猫を選んでたし」

「猫にご飯あげないとダメだから。と何度拒絶されたことか」


 二人が一作目の俺に対してダメ出しをしている。

 迫るヒロイン候補たちからの誘いを断る口実として、我が家の猫を理由にしていたのは確かだ。実際、猫が一番大事だったし。


「過去の話はいいだろ。それよりもジェニファーの服をどうにかしないと」


 胸と下半身をボロ切れで覆っているだけなので、下着でいるのと大差ない。

 腕と脚が猫の毛で覆われているので、温かそうなブーツと長手袋を装着しているように見えるが実際は半裸だ。


「それならちょっと待って。確か馬車の中に……」


 ジェニファーが機敏な動作で檻が置いてある荷台に飛び乗る。

 何やらごそごそやっている音が聞こえていたが静かになると、中から飛び出てきた。


「これでいいでしょ」


 ボロ切れを脱ぎ捨て、一見スポブラに見える肩と腹がむき出しのタンクトップと、かなり丈が短いショートパンツを穿いている。

 露出度的にはさっきと大差ない気がするが、そこは突っ込んだら負けなんだろう。あと、モンスターのいる世界で防御力無視の装備はどうかと思う。


「道具とか武器はないのか?」

「ないわよ。獣人の武器は素早さと、この鋭い爪と牙だから」


 猫の手を少し丸めると指先から収納されていた爪が伸びる。

 日光を反射して輝く爪は、俺の持っている鉈よりも切れ味があるように見えた。


「バク様。猫獣人の爪は人によっては鉄さえも斬り裂くと言われていますわ」

「そうよ! この爪は岩も簡単に切り裂けるんだから」


 ジェニファーが足下の石を蹴り上げて、腕を振り下ろす。

 すると石が三枚にスライスされた。


「おー、凄いな。ってことは戦えるのか?」

「もちろん。あたしは守られるだけの女じゃないから! 守られるだけの女じゃないから! 大事なことだから二回言ってみたわ」


 今の発言が誰に向けたものなのかは、キーサラギの顔を見れば一目でわかる。あの、苦虫を十匹ぐらい一気に噛み潰したような顔を見れば。


「あっれー、もしかして、そこの胸筋だけは立派な女は戦えないのかしらー?」

「ぐぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎっ! と、悔しがるとでも思いまして? これをご覧ください」


 さっきまで悔しがっていたのが嘘のように落ち着いた顔で、すっと差し出したのはシワだらけの紙。

 あれは投げ渡した奴隷契約書か!?


「あんた、それ始末したんじゃ!」

「わたくしはバク様より預かっただけですので。これをどうするのも自由ですわ」

「ふうううっ! それ、よこしなさいよ! あ痛っ!」


 契約書に手を伸ばしたジェニファーが慌てて手を引っ込める。


「奴隷に落ちた者は自分の契約書に触れることはできないのですよ。契約者に逆らえないのもそうですが、そういった禁止事項がこの契約書に書かれています」


 キーサラギが手にした契約書をこれ見よがしにひらひらさせて、ジェニファーを挑発している。


「ぬがああっ! それがあったら手出しできないじゃないの。この卑怯者!」

「ああっ、悔しがって涙目のジェニファーさんを見ているとゾクゾクしますわ。……まあ、からかうのはここまでにしておきますか」


 苦笑したキーサラギの指に火が灯ると、手にしていた契約書に引火する。

 すると、見る見るうちに灰となった。


「あ、え、どうして?」

「これ以上やるとバク様に怒られそうですし、あなたを屈服させるにしても、わたくしの実力でやらなければ意味がありませんわ」


 こういうところだよな、キーサラギのいいところは。

 狡いことも卑怯なことも平然とやるのに、困った相手を無視できない。正義感は強い方なのだろう。


「ふんっ、屈服なんてさせられないけどね」


 こっちはこっちで、感謝しているのが透けて見えているのに無理して強がっている。

 互いに調子が戻ったようで、いつものように罵倒合戦が始まる前に動くとしますか。


「じゃれ合うのはそこまでにしてくれ」


 また睨み合っている二人の間に入って、引き離す。


「なんで頭を掴んでんのよ」

「そうですわ。手をペロペロしますわよ」


 二人の頭を鷲づかみにしたのがお気に召さないようだ。


「だって、体を押したら偶然胸に手が当たって、きゃっ、とか言いながら殴られるパターンだろ。そういう古いノリはもういいから」


 ラブコメ時代に散々やってきた展開なので事前に回避しておく。

 それにジェニファーに殴られたら爪で大怪我しそうだし。


「せっかくのラッキースケベチャンスを逃すなんて、それでも主人公ですか!」

「なんで、スケベ行為を回避して怒られるんだ!」


 腰に手を当てて、本気で説教するキーサラギに納得がいかない。

 いつものぐだぐだな流れになりそうだったので、無言で馬車を調べ始める。

 この馬車は使えそうだな。中の檻は邪魔だから降ろすか。


「馬車が落ちていたから使わせてもらおう。この檻は必要ないから降ろすの手伝ってくれ」

「落ちていたって。……そうね。持ち主もいないみたいだし」


 地面に転がっている奴隷商人たちの存在は無視して、俺とジェニファーが馬車に乗って檻を降ろそうとしたが、重い!

 二人がかりで降ろそうとしたが無理みたいだ。


「これはきっついな」

「この檻、すごく頑丈だから、あたしの爪も通じなかったのよ」


 馬車をいただいて旅が楽なるかと思ったのにな。このままは……無茶か。檻つきの馬車は悪目立ちしてしまう。


「仕方ない、馬だけでも」

「バク様。檻が邪魔ならどうにかしましょうか?」


 このメンバーで一番力のないキーサラギが檻に触れ「収納」と言うと檻が手のひらに吸い込まれるようにして消える。


「あっ、アイテムボックスがあったな」

「はい。とっても便利でしょ。では、この馬車で旅を続けるとしましょう」


 地面に転がっていた奴隷商人たちは、邪魔にならないように道の端に移動させておく。

 とどめを刺した方が後腐れがないが、気絶している相手を殺すのには抵抗がある。そもそも人殺しはできるだけ避けたい。

 身ぐるみ剥いで裸にして、手を後ろで縛っておくぐらいにしておこう。

 そもそも、彼らの奴隷売買が本当に合法だった場合は俺が犯罪者になる。勝手に商品を奪って暴行した無法者だ。

 …………アイテムボックスから檻を一つ出してもらって、中に放り込んで放置でいいか。鍵はコイツらが持っているだろう。

 先生のことだから深く考えていないに決まっているから、法的にアウトみたいな流れにはならないはず。

 檻のなくなった荷台はかなり広く、他にも木箱が二つほどあったので中を確認すると、この世界の保存食が入っていたので、アイテムボックスに放り込んでおいてもらった。


「ちなみに馬車の御者をやれる自信がある人」


 問い掛けると自信満々にキーサラギが手を上げる。


「野蛮な戦闘では役に立たないかもしれませんが、誰かさんより使える女だと自負してますわ」


 その言葉は俺ではなく、戦闘力アピールをしていたジェニファーに向けられている。当人は聞こえない振りをして荷台の隅で猫っぽく丸まっていた。

 キーサラギが御者席に座って手綱を握る。

 そんな面倒な役を一人でさせるのは気が引けるので隣に腰を下ろした。敵の接近をいち早く発見する見張りも必要だから。

 キーサラギが手綱を振るうと馬車がゆっくりと走り始める。


「大自然を眺めながら馬車の旅か……悪くないな」

「ですね。今までの作品ではあり得ない光景ですし」


 隣で手綱を操りながら俺の太ももを撫でようとするセクハラ女の手を払いつつ、俺たちは街道を進んでいく。


「次はどんなイベントに遭遇するんだろうな」

「わたくしは異世界系と聞いてもピンとこなくて。四作目の作中で本棚にそういった本が並んでいたのは知ってますが」

「異世界系といっても全部が似たような内容、というわけじゃないんだ。先生はアニメ化もした売り上げトップテンは全部読んだみたいだから、そこら辺の知識で書いているんだと思う」


 こういった知識は主人公である俺だけが共有している。

 仕事中の記憶のすべてではないのだが、ある程度は俺にも伝わっていて、異世界について熱心に学んでいたのも知っていた。


「先生が書き出した異世界系のポイントが……主人公は初めから強い、もしくは急激に成長する。日本人が異世界に転生か転移。女にモテまくる。奴隷を助けて仲間にする。冒険者になる。とかだったかな」


 他にもまだあった気がするが記憶が曖昧だ。


「そうなると、序盤でやってないのは冒険者になることぐらいですね」

「キーサラギは冒険者についての知識はあるのか?」

「この世界の住民ですからね、ある程度は。冒険者とは人々からの依頼を受けてクエストをこなすか、モンスターを狩り素材を売る、というのが主な収入源のようです。冒険者を取りまとめている組織が冒険者ギルド、といった感じでしょうか」


 先生が事前に考えていた設定と同じか。

 この冒険者とギルドのシステムも他の多くの作品で共通していて、異世界系テンプレの一つらしい。


「ちなみに冒険者の強さによってランクがあってE、D、C、B、A、Sとランクが上がっていくそうです」

「あーそれさ、前々から疑問に思っていたんだよ。E~Aまではアルファベットの順番だというのは理解できる、だけどSランクってなんだ? どういう意味があるんだ?」

「言われてみれば確かに……。Sランクとは何の略なのでしょうか?」


 コンサートとかで最上級の席をS席といい、漫画でもA級の上はS級なんて表現は頻繁に目にする。なので、Aの上がSというのに違和感はない。先生もバトル漫画時代に強敵をS級と読んでいた。

 だが、その意味となると思いつかない。

 二人で腕を組んでうーんうーんと唸っていると、こういうのに詳しい人物に思い当たり荷台へ振り返る。

 御者席の近くまで忍び寄って聞き耳を立てていたジェニファーと目が合う。

 慌てて荷台の奥に逃げようとしてので、首根っこを掴んで引き留めた。


「話聞いてたんだろ。SランクのSって何かわかるか?」

「さあね、スペシャルとかスターって意味じゃないの。ちなみにそれって日本独特のものだからね。海外ではAの上がSなんてことはないから」

「「嘘っ」」


 えっ、これって世界共通じゃないのか。勉強になった。

 なんて漫画では一切使われそうもない話をしながら、馬車は順調に街へと向かっていた。

 今度こそ街に着いてくれるはずだ。

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