其の弐拾伍:逡巡
人一人通るのがやっとというスペースしかない地下へと続く階段。その真横にある煉瓦壁の建物一階が喫茶店だとは聞き及んでいたのだが、まだ十八時が過ぎて間もないというのに既にCLOSEの看板がぶら下がっている。代わりに下り通路突き当たりに“World cross”の文字と右矢印のLED照明が暖色の点滅を放ち、開店と場所を示唆していた。
数秒、宇佐美は逡巡していたのだが、結局コンクリートの段差に足を踏み入れた。
L字型に曲がった先には重苦しさ漂う中世ヨーロッパの古城を連想させる門扉が待ち構える。見た目どおり重たいその開き戸を馬蹄形のノッカーで引いてみれば、四畳ほどの四隅に灯篭が点された空間に迎えられた。外の人工照明よりもずっと目に優しい明るさだ。
「……変わってねぇな、この造り」
(未だにこの間取りの意味は分かんねぇけど)
浅く深呼吸を一回。吸い込んだ空気を鼻から漏らしつつ肩の力を抜いて、狭い部屋を横切り正面のドアハンドルに指を掛ける。
地下階段。ノッカーで開く門扉。そして無人の灯篭部屋。これら全て、記憶に残っているものとてんで変わり映えしていない。だがここが宇佐美の知る“World cross”だと確信する決定打は他にあった。
エキゾチックな香を焚いているわけでもないのにミステリアスな空間に迷い込んだような心地に陥る、不可思議な雰囲気。花の蜜に導かれる蝶、或いは絢爛な光に惑わされた蛾にでもなったような心地。ノーマルとアブノーマルを明確に分ける境界線が存在するなら、ここはまさにその狭間だ。
大学時代に通い詰めていた頃と立地は異なるが、この場所が当時お気に入りだったバーであることは間違いない。緊張と不安と高揚感……それらが綯い交ぜとなった心境の中、扉を押す手に力を込めた。
ブルーライトの薄闇に浮かび上がる中央のテーブル席。そこに三組の男性客ばかりが腰掛けているが、どれも見知らぬ顔ばかり。何人か、現れた新客に一瞥を向けたものの宇佐美の整った容貌に圧倒されたらしく、嫉妬や動揺を誤魔化すように視線を彷徨わせ、やがてそ知らぬ顔を繕い各々の会話に興じ出した。
宇佐美もそんな彼らに興味など湧かず、左手のこじんまりとしたカジノスペースに目を配らせる。ディーラー不在のそこに人影はなかった。
「久しぶりだな、宇佐美」
右手前方から投げかけられたバリトン。若干聞き取り辛さの残る男声ではあるが、その掠れ具合が渋味ある大人の演出に磨きがかかり、一層魅力的に捉えられる。
眦の吊り上がった三白眼は射抜くような鋭い眼光を滾らせており、過去に骨折したという鼻筋は少し左側に傾いている。男らしさを感じさせるくっきりとした喉仏や短く整えられた顎鬚。厚みのある胸板。厳つさを感じさせる雰囲気を持つ反面、煙草を咥えた肉厚の唇は同性でも思わず目を惹いてしまうワイルドな色気を漂わせている。
憧憬を抱いていた男との再会に、思わず口元が緩んだ。
「お久しぶりッス、南雲さん」
スツールの一番奥を陣取る客から席を一つ空けたところに手を伸ばしかけたのだが、既視感を覚えて改めてその一人客をジッと凝視し……目を剥いた。
「ま、魔女さん?!」
「どうも。また逢えると思ってたよ、宇佐美君」
黒の長袖シャツとジーンズというラフな恰好をした眼鏡の女性が、軽く手を振りながら唇に弧を描く。
ノーフレームの眼鏡を掛けた、奥二重の小さな目。口紅が映えるプックリとした少し厚めの唇。色白で滑らかな頬には薄っすらファンデーションを施しているが、散らばる雀斑は隠し切れていない。中肉中背の地味な顔立ち。これといって挙げられそうなチャームポイントは見受けられず、大衆の中に紛れても目立たず埋もれてしまいそうだ。
しかし髪型こそ初めて出会った頃と異なれど、肌の張りや目尻、頬の弛みなど、五年の月日が経過したと思えないほど全く変化がなかった。
(いや、出会った頃から三十路前くらいの見た目だったわけだし、五年経っても老けねぇ人間もいる……よな?)
不躾にじろじろと眺める宇佐美を、魔女と呼ばれた女性は愉しげに眦を細めて見つめ返す。そんな二人の様子にやれやれといった感じで肩を竦めながら、マスターがカウンターに身を乗り出す。心なしかその面差しは憮然としていた。
「宇佐美、何飲む?最初の一杯奢ってやるよ」
「マジで?それじゃあ――――」
「烏龍茶」
嬉々としてカクテルを注文しようとした言葉を魔女に遮られる。
「ちょ……魔女さん。俺とっくに成人してるんスけど」
「まぁいいじゃん。ほら、乾杯しよう。再会を祝って」
氷と茶色の液体が入ったグラスを南雲から手渡されて唇を尖らせてみたものの、再会を喜ぶ魔女の気持ちを無碍にできないと、互いのグラスをぶつけ合えば、透明な器の中で揺れる飲料は縁のギリギリまで揺れ上がる。まるで、再びこの場所に立ち入れたことを胸中で鼓舞している宇佐美の気持ちを表現したかのように。
「……そうだ。五年前、いつの間に引っ越したんスか?俺ずっと探してたんスよ。移転の話なんて全然聞いてねぇし、知ってそうな奴捕まえようとしたけど、どういうわけかここに出入りしてた顔見知り、誰も店の周辺通んねぇし」
烏龍茶をやけ酒のように煽り、管を巻く酔っ払いの真似をして恨みがましく目を光らせる宇佐美に、バーの店主はどうしたものかと首を捻る。その逡巡を含んだ視線は魔女へと向けられるが、面倒事は避けて通りたいと言わんばかりにサッと顔を背けられた。
南雲とは長年の付き合いがあるだけに、勿論彼女は宇佐美の知りたい事情も存じているのだろうが、わざわざ第三者に語ってもらわずとも目の前に店の経営を請け負う者がいるのだ。
さあ吐けと、言外に南雲を睨み付ける。
先端を尖らせた鏃を連想させる鋭い眼光を湛えた双眸に、“World cross”のマスターは諦念混じりの嘆息を吐いた。
「……そもそもこの店は――――」
ワックスで整えられたオールラウンドショートの黒髪をくしゃりと掻き乱しながら南雲が語り始めたそのとき、店内にアッパー系のヒップホップが流れ出し、ステージに照明が点された。
床から天井へと真っ直ぐに伸びた一本のポール。赤、オレンジ、青、黄、紫、緑……多種多様に閃光をはしらせるライト。一斉にステージに注目し始めた男性客達。
(そうだ、この店のメインはカジノとポールダンスだったな)
しかし舞台袖から飛び出てきた見覚えのない金髪の女性に首を傾げる。腰まで伸びたストレートの髪を振り乱し、ポールに体を委ね、誘うような視線を客席に流しながらアクロバティックな技を繰り出す彼女を、宇佐美は初めて目にする。
特別大きくもなければ、小さくもない胸。だが括れた腰や縦に線の入った臍、ショートパンツから覗かせた太腿はしなやかな脚線美を描いており、見世物の舞台という所為かエロティックに映った。大人びた雰囲気を醸し出しているのも、その要因の一つかもしれない。
「ポールダンサーってNさんでしたよね?」
額に汗を滲ませて、弾む息遣いから疲労を窺わせながら、それでも妖艶な笑顔を振り撒き続ける女性。
彼女から視点を外せぬまま、南雲に訊ねる。
「今踊ってるBが、Nの跡を継いだショーダンサーだ」
「跡って、Nさん辞めたんスか?」
「生涯を共にできる相手が見つかるまでって条件で雇ってたからな。とはいえ、つい最近まであそこで踊ってたんだぞ。Bに技を仕込ませて、客前で見せられるように育てるまではな」
リズムに合わせて腰を振り、身をくねらせ、ポールにしな垂れる姿勢など、雰囲気の魅せ方には中々そそられるものがある。けれども言われてみれば確かに、繰り出す技のテクニックはどこか端麗さが欠けて野暮ったく、荒々しさが垣間見れる。ポールダンサーとして熟練した技術を持っていたNと比べれば実力は火を見るよりも明らかではあるが、指導を受けて間もないというのにこうしてステージで踊っているのだから、もしかすれば彼を凌ぐパフォーマーとして今後期待できるかもしれない。
「……今だから言える話ですけど、最初ここに来たときは間違えてゲイバーに来ちまったって冷や汗ダラダラだったんスよ」
「まぁ健全な大学生ならそう思っても無理ねぇかもな」
「男性ポールダンサーっていうのも珍しいしね」
相槌を打つ南雲と魔女の言葉を耳にしながら、曲が終わって客に一礼をするダンサーを眺める。髪を掻き上げて露わとなった容貌は先程ステージで醸し出していた妖艶さを払拭させ、代わりに幼さを覗かせている。日頃交流を交わしている教え子達と差ほど変わらぬ年頃だろう。
(大学生……もしかしたらホントに高校生だったりしてな)
未成年のくせに酒を提供する場に出入りするのは如何なものかと考えるが、そもそもそんなことは宇佐美が教職者になる以前からこの店ではあったことだ。何を今更と思うと同時に、未だ姿を見せないディーラーについて疑問が首を擡げる。
「そういえば委員長は?あいつまでこの店辞めてるってことはないでしょ」
無駄のない華麗な手さばきでカードを配り、ルーレットを回し、巧みな話術でゲームの進行役を務めていた少年。
(あいつにはどんだけ辛酸を味わわされたか……!)
勝つことも稀にあれど、殆どが苦杯に喫した。当時学生だったことを踏まえると、摩った金は決して安くない。仕送りを要求する電話を親に掛ける度に「一体何に金を使っているのだ」と小言を食らっていたのが懐かしい。
巧妙な言い回しでゲームへの参加を促されたとはいえど、それに乗せられ金を賭けたのは宇佐美自身の所業だ。傍から見れば逆恨みだという事実には、都合良く目を瞑っている。
「辞めてねぇよ。ま、今日は来ないかもな。大概土曜なら開店時間と同時に来てるし」
胸ポケットからピンクパッケージの箱を取り出した南雲は、そこから一本抜き取って咥える。火を点した煙草の吸い口から唇を離し、白い煙を吐き出せば、仄かにピーチの香りが漂った。双眸を眇めて紫煙の先を追うその表情は静かだが、微かに雄々しさがちらつく。
面差し、仕草、気配……大学時代から抱いていた大人の男の理想像はまさしくこんな感じだったと、苦笑を禁じ得ない。
(年だけとって、俺はあの頃から大して成長しちゃいねぇんだな)
例え三十路を過ぎても、南雲のような落ち着き払った貫禄を醸し出せる自分が想像できない。彼と同じ銘柄の煙草を吸い、目線を遠くに遣る癖を真似ても、苦悩する生徒にフォロー一つ投げかけてやれない不甲斐なさは一体どうだ。
(……もうすぐだってのに、情けねぇ)
大きく溜息を吐き、宇佐美もピアニッシモワン・ペシェに手を付ける。左腕に巻いた腕時計に目を向ければ、離れ難いがそろそろここを後にしなければならない。
「……宇佐美、さっき言いかけてたことだがな、この店は特殊なんだ」
「え?」
「さっき言いかけてたこと」というのが分からず疑問符が飛び交いそうになるが、ポールダンスが始まる前に己が南雲を咎めていたことを思い出す。
「客は店を選べるが、店は客を選べない。これが普通だ。……だがここは違う。この“World cross”は俺や従業員の都合などお構いなしに、店が客を選ぶ」
「え?ちょ……南雲さん、言ってることがよく分かんねぇ」
「信じる信じないは宇佐美君の自由だけど、ここには色んな人が出入りする。一夜の饗宴を求める者、迷える子羊、情報を買いにくる者、逃げ場を探す者……ときには殺人者だって、ね」
魔女の両目が、得意気に謎解きを解説する子どものように茶目っ気な色を放つ。冗談なのか、はたまた真実なのか、どちらとも受け取れる軽快な口ぶり。彼女の紡ぐ言葉は時に不可解で、けれども解決への糸口が吊り下げられている。“殺人者”という言葉が持ち出され、擡げた好奇心に便乗し続きを聞くべきか。それとも物騒な話題には耳を塞いでも構わないという逃げ道を選ぶのか。
「……因みに宇佐美君がここを見つけられなくなったのっていつだったか憶えてる?」
続きを促した宇佐美の目を覗き込む漆黒の瞳は、底の見えない洞穴のように深い闇に覆われている。高鳴る鼓動を誤魔化すように、いつの間にか口の中に溜まっていた唾液を飲み干し、喉を潤した。
「俺が教員免許を取ったって報告した、その次の日です」
「確か初めてここに来たときは進路について悩んでたんだっけ。でもここに通い詰めている間に教師としての道が開けて、悩みが解決した。……多分それが理由じゃない?」
「……つまり俺は、真剣な悩みがないと店に招かれないってことスか?」
「何を非現実的な」と嘆きかけるが、現在冥界と関わり、冥玉という想像力で創り出した武器を用いて災禍という異形と戦ってきた自分が言えた口ではない。
「偶然にも必然にも、“World cross”に足を踏み入れた奴は一度店を見失うとまた新たに入り口を見つけ出すのが難しい。……前のマスターからこの店引き継いで十年以上経つが、未だに俺もこの店を理解できねぇんだ」
指の間に挟んでいた煙草を灰皿で揉み消し、現“World cross”のマスターは厚めの唇に薄く苦笑を刷いた。
(南雲さんも魔女さんも、意味もなく嘘吐く人じゃないのは知ってっけど……)
どうも信憑性が薄い。
「まぁいいッスよ。今日はこれから用事あるんで帰ります。烏龍茶、ご馳走様でした」
予め奢りと聞いていたので財布に手を伸ばすことなくスツールから腰を浮かす。そして二人に背を向けてドアハンドルに手を掛け、扉を潜り抜けたところで声が投げかけられた。
「大変な夜になるだろうけど、頑張ってね」
魔女の言葉に目を剥いて慌てて振り返れば、狭くなる扉の向こう側で左右に揺れる五本の指先が見えた。
パタンと閉じた建具に額を擦り付けて息を吐く。もう一度この向こう側に踏み越えたい気持ちは山々だが、時間が押していた。何より、この扉を開けたら再び先程の空間に繋がっているのか、その可能性を疑っている自分がいるのだ。
「ハハッ……マジで魔女かもな、あの人」
酒を注文しようとしていたのを遮り、横槍を入れソフトドリンクを頼んだのは、もしかすると宇佐美のこれからのことを見越してなのかもしれない。そう考えてしまうのはあまりに都合良すぎるだろうか。
閉じた瞼の裏側に蘇るのは、逢魔時に自らの過去を語った一人の少女。壮絶な中学時代を口にした彼女にかけるべき言葉が見つからず、それを探す為に適当に街の路地裏をうろついていたら、導かれるようにしてここに辿り着いていた。
「……つーか、人の言葉を借りようと模索してた時点で馬鹿だろ、俺」
桜原伶子が過去の過ちを告白したのは、宇佐美甲斐という個人の言葉を欲したからだ。慰め、叱咤、同情、激励……仮に失望だとしても、彼女はそれを宇佐美の本音として素直に受け取っただろう。
だが何も言わないまま学校を後にした。伶子を一人残したままで。
(今まで毛嫌いされることしてきた自覚はあるが……さすがに今回ばかりは呆れられたよな)
安易な嘘や感情で固められた言葉など、紡ぎたくはなかった。しかしそれをこれから告げたところで、所詮安っぽく聞こえるだけだ。せめて「混乱してるから時間をくれ」とでも言えばよかったのだろうが……。
(こういうとき自分のプライドの高さに腹が立つ……!)
小さく舌を鳴らし、宇佐美は地上へと続く階段に足を踏み出した。
「はぁ?!傷心の教え子放っぽって外出なんて最低じゃん!」
腹ごしらえにとファーストフード店でテイクアウトした商品に被り付き、黙って伶子の言葉に耳を傾けていた親友だが、段々と話が進むにつれて眉間の皺が濃くなり、宇佐美が自分を置いてどこかへ行ってしまったという件では、ついにアイブロウで描いた柳眉がきつく吊り上がった。
「でも私自身、結構ヘヴィーな内容だとは思いますし……。動揺して外の空気を吸いたくなるのも分かりますから」
「甘い!『よく喋ってくれた』とか『辛かったな』の一言くらいあってもいいでしょうが。なのに行き先告げずにふらりとどっか行っちゃうなんて……。ウサちゃんがそんなヘタレだと思わなかった!」
ズゴー、と音を立ててストロベリーシェイクを吸い込む茉穂に微苦笑しながら、彼女の周りに散乱したバンズの食べかすを拾い集める。口の中の物を飲み干してから喋ってほしかったが、そんな窘め、今の彼女には火に油を注ぐだけだろう。
「つーか伶子も伶子よ。別に無理して喋んなくてもいいこと言っちゃってさぁ」
溜飲し終えた紙コップをビニール袋の中に仕舞い、取り出した真紅のルージュを鏡の前で塗り手繰る親友を横目に、伶子はポツリと呟いた。
「……私の我儘ですけど、やっぱり先生にも知っててほしかったんです。私が犯した過ちを」
正座した膝の上に置いていた掌を強く握り締める。
脳裏に浮かぶは金茶色の野生じみた瞳。口角を弓形に反り上げて、獲物を狙う肉食獣の雰囲気を纏う金髪の男。……恐怖の象徴。
はたして、かの男を前にして体を竦ませずに応戦できるのか――――
「まぁ、あのレオンって男の口から語られるよりは良かったのかもね。惚れた男の前で他の男から自分の汚点を聞かされるのは、誰だって嫌だろうし」
「え……?!」
「………あ!」
目を瞠る伶子と思わず口に出してしまったという表情の茉穂。部屋の中が一瞬にして凍りつく。
伶子が宇佐美に好意を寄せているという事実を知っているのは不死原紫苑、もといシオンにしか喋っていないはずだ。
「ま……まま茉穂ちゃん、知って……?!」
「あ、うん。まぁ……ほら、あたし伶子の後ろの席だしさ、ウサちゃんの授業のときだけ最近俯く気配ないなぁ、とか、ね?思っちゃったりして」
「あああぁあの!このこと宇佐美先生にだけは絶対にご内密に――――」
「俺がどうかしたか?」
「きゃあっ!」
唐突に開いた数学準備室の扉に、中にいた生徒二人は声を揃えて驚愕の悲鳴を上げる。
「……おい、俺を見て驚くとは何事だ?」
「いや、あまりのタイミングの良さにちょっと……」
憮然とする宇佐美に茉穂は愛想笑いを浮かべ、伶子は早鐘を打つ鼓動を宥めようと胸を擦っている。
「まぁいい。ここにいるってことは覚悟はできてんだな」
「はい」
「勿論」
肯定を示す二人の女生徒に頷きを一つ返し、宇佐美は凭れ掛かっていた扉を全開させた。
「……行くぞ」
黄昏時を通り抜け、夜の帳が下り数時間。
最後のゲームが幕を開けた。