其の壱拾捌:経緯
黒曜石と見紛うほど、艶めいて指通りの良さそうな黒髪。同色の切れ長の瞳。睫は頬に陰影を作るほど長さがあり、象牙の如き肌はニキビどころか毛穴さえ見つけにくいほどに肌理が細かい。筋の通った高い鼻梁に、口角の高さが左右均等に揃った薄い唇……。
石動学園一の美形と謳われる宇佐美甲斐を筆頭に、茉穂はこれまで数多くの美男子、美青年と噂される男性を目にしてきたが、眼前にいる男は彼等を上回る美貌を持ち備えていた。
精巧なビスク・ドール並の見目美しい顔の持ち主は、窮屈そうに長い足を屈めて茉穂を覗き込んでいる。しかしその表情は驚愕に目を瞠った様子だった。
そして彼の瞳に映る茉穂もまた、彼と同じように驚きの面持ちをしている。
互いの瞳孔に互いの姿が投射され、このまま時が動き出さないのではないか……茫洋と、そんなとめどない思考が茉穂の中で波紋を描くように拡がってゆく。
瞬きすることさえ忘れていたそんな二人の間に水を注したのは、肥大した肉体を引きずるあの音だった。
ズル……ズル……ズズズ……
「こっち!」
咄嗟に茉穂は男の手を取り、そのまま駆け出していた。
闇雲に走るのは得策ではないと頭の中では分かっているのだが、この慣れ親しんだ学び舎も、今となっては逃げ道のないただの箱庭だ。そうなると化け物がいた場所から遠い位置に移動するしかない。
廊下を突っ走り二階まで上がると再び隣接する校舎に戻り、今度は一階ではなく、逆に最上階まで上り詰めることにした。
「はぁ……はぁ……」
肩で大きく深呼吸して息を整える。ここまで激しい運動は冬休み前の球技大会以来で、日頃体育の授業でしか体を動かさない所為か、ほんの数十秒全力疾走しただけで息が上がってしまう。
ふと隣りに視線をはしらせるが、男は涼しい顔のまま、息も乱さず茉穂を眺めていた。
「……ところであんた、この学校の関係者?見たことないんだけど」
この類い稀な容姿だ。生徒や教師なら噂にならないはずがない。妥当な線を突くならOB辺りだが、閉まった門を乗り越えて校舎に侵入するようには見えなかった。それとも誠実そうな外見に反し、実は大胆且つ豪快に何かをやらかすアグレッシブな性格をしているのだろうか。
怪訝に男を見遣っていれば、相手はゴソゴソとポケットから何かを取り出し、それを茉穂の掌に乗せた。
「ガラス玉?」
指先で簡単に摘める程度の透明な球体。ツルツルした滑らかさがあり、このまま持ち続けていたら他人の物ということを忘れ、弄んでしまいそうだ。
「それは冥玉。君があの災禍を倒す為に必要な武器だ」
(うわ……っ)
視界に映る容貌がより一層際立つほどに、甘く腰に響くバリトン。意識が軽く霞んで聞き惚れてしまいそうになるが、紡がれた言葉に引っ掛かりを覚えた。
「災禍……?」
何を言われたのか理解できないといった面持ちで、小首を傾げ逡巡したのも束の間。すぐさま険しい顔を取り繕い、男との間に距離をつくる。
「あんた、あれの仲間?あたしをどうする気よ?」
「あいつを倒してほしいんだ。今日だけじゃない。今日から毎夜、ああして冥界の異形が召喚される。そいつらを倒し、君には強くなってもらわなきゃならない」
「はぁ?!ふざけんじゃないわよ!何であたしが?!そもそもあんた何なの?!」
眉尻を吊り上げ、食ってかかる勢いで罵声を浴びせてくる少女を痛ましげに見下ろしながらも、彼は素直に問い質されたことに答えた。
「俺はシオン。信じられないだろうけど、冥界というこことは違う世界の住人だ。君が必死になって逃げてた異形……災禍を倒す佐保姫を君に仰せたく参上した」
真剣な表情で述べる男の言葉を茉穂は目を剥いて聞き入っていたのだが、その表情は当然、信じられないと言わんばかりだ。
非現実的な話だと鼻で笑い飛ばしたいのは山々。しかしそれができないのは、今冒されている状況があまりにもリアルな所為だ。もはや夢、幻想という現実逃避では片付けられないのだと、疲労した四肢や早鐘を打つ鼓動が訴えている。
「このゲームは災禍を倒さないと外には出られない」
断言するシオンの言葉に嘘はないだろう。真摯な眼差しを向けてくるこの男が虚偽を口にしているとは正直、思い難い。もしもこの台詞が偽りならば大した役者だ。
(………っ)
それでも絶望に平伏そうとする思考に歯止めをかけ、なけなしの記憶力で頭の中に校内地図を広げる。
ドアや窓の鍵、非常口、携帯電話……思いつく限りの外と繋がる方法をやってのけたが、既に失敗に終わっていた。どれだけ脳内で模索してもここから逃げる術が見付からない。
自信喪失しかける己に鞭を打つ代わりに両頬を掌で叩き、先程できなかった消火器を窓に投げつけるという方法を実践する。だが強化ガラスさながら、窓には皹一つ入らなかった。消火器が落ちた衝撃で派手な音を散らした床もまた、小さな凹みさえ作らない。
「……その珠を握り締めながら武器を思い浮かべるんだ。そうすれば――――」
憐憫の眼差しを向けながらも、悪足掻きする自分に意に反さない様子で身勝手な要望を押し付けてくる、そんな男を甘受するなど、負けん気の強い茉穂にとって堪ったものではなかった。
だから彼が突き付けようとする事態を回避したいが為に、想像もし得なかっただろう行動に出ることにした。
これ以上、馬鹿げたことを言わせたくないという反抗心故に。
「なっ?!」
シオンが絶句するのも無理はない。
茉穂は右手の中にあった冥玉を口に入れると、そのまま飲み下したのだ。
「ゴホッ!ゲホゲホゲホ……ッ!」
さすがにすんなり飲み干すのは難しかったらしい。しかしどうにか食道を越えて胃に収束させることはできた。
「ちょ……君!自分が何をしたのか分かってるのか?!」
力任せに掴まれた両肩に乗った手を払い落とし、咽びながらも挑戦的な笑みを刷いて、目線が高い位置にある相手を睥睨する。
「うっさい!これであたしはあのグロくてキモい蚯蚓を倒す術がなくなった」
さぁどうする?と、半ばヤケクソになりながら哄笑する。
いいかげん堪忍袋の限界だった。内面に詰め込まれていた不満が一気に爆発した気分だ。暴発と表現する方が正しいのかもしれない。
両親、生活、怠惰、惰性、失望、校舎の閉塞、異界の怪物、異界の住人、そして変化を望んだ自分自身――――
腹の中が不完全燃焼を起こしているかのように熱く渦巻いている。胸がきりきり痛む。……苛立ちが消化できず苦しい。
……ズズ……ズルル……ズル……
階段下から災禍と称されるあの生き物が再び近付いてきている。
先程放った消火器を拾って三階と四階の間にある踊り場まで下ってみれば、敵はすぐそこまで来ていた。三階へと辿り着いた災禍に向かって消火器を思い切り投げてみる。ほんの僅かな間だけ動きを止めたものの大してダメージは受けなかったようで、再び茉穂を目指し歩み始めた。
(こいつに捕まるのも嫌だけど、逃げ回った挙句に力尽きて死ぬなんてのも、絶対ヤダ!)
とにかく今は猛烈に怒りをぶちまけたかった。傍にいる美顔の男に癇癪を炸裂させたい気持ちも勿論大きいが、どちらかといえば生理的嫌悪感しか及ぼさない蚯蚓の塊の方に、ムカつきの天秤は傾いている。
大きく息を吸い込み、勢いそのままに茉穂は喚いた。
「あたしが望んでたのは日常の些細な変化だったんだから!神様の馬鹿ーっ!」
声を張り上げて叫んだ瞬間、大きく上下の唇を割った茉穂の口腔内から白光が生まれ、それは瞬く間に災禍の肉塊を貫通した。
「……ええぇ?!」
唖然と口を開いたままの少女の横で、シオンが驚愕の声を上げる。
――――ブォン!
化け物の体がリノリウムの上に横たわる前に、羽虫が羽ばたいたような不快な音が脳を揺さぶる。そしてそれと同時に蛍光灯が一斉に消えた。
「……な、んだったの、あれ?」
災禍が消えたことで気が緩んだのか、はたまた自分の口から光線が放たれた事実が信じ難いのか、足元がよろめいた拍子に腰も抜けてしまった。
そこから記憶がぷつりと途切れている。
……気が付けば自室のベッドで横たわっていた。上半身を起こして顔を仰げば、カーテン越しに太陽の光を感じ、既に日が昇っていることを悟る。
(夢……なはずないわよね)
ベッドの中にいるにも係わらず、肌に纏っているのは私服。ご丁寧に羽織っていたコートはハンガーに掛けられ、フックに吊されていた。
「佐保姫候補が災禍を倒しに現れなきゃ、街に災禍が召喚されることになる」
「それ、明らかに脅迫じゃない」
半眼を閉じてジト目で向かいに座る相手を睨み付けながら、忌ま忌ましいと言わんばかりにストローの吸い口を噛み締める。
一月二日の夕方、ファーストフード店に訪れた茉穂の前に再びシオンが現れた。公衆の面前で騒ぎ立てるわけにもいかないので無視していたのだが、手首を掴まれ「話を聞いてくれるまで逃がさない」と告げられてしまい、さすがに人目に触れられるのは憚れると、とりあえず話し合いに応じる譲歩だけしたのだ。
冥界の情勢。災禍はどのようにして生まれたものなのか。シオンの立場が冥界の皇太子であること。冥玉とは想像通りの武器を創れる代物であること。佐保姫の役割……冥界に関する様々な情報が脳に蓄積されていく。
「他に候補が見つかれば、あたしはお役御免ってことよね?」
「そう簡単にはいかないと思う。冥界としては何よりも実力を重視したいんだ。昨日の君の攻撃力、歴代の佐保姫と比べても群を抜いてる」
「……因みにさ、いつまでゲームを続ける気?そもそもどうやってあたしを冥界に連れてくつもりよ?」
(行く気なんて更々ないけど)
悪態吐く茉穂の胸中を感じ取ったのか、シオンは顔を曇らせる。柔和な面差しをしているが為にそういった表情をされると、まるでこちらが虐めているような気分になってしまう。
しかし次の瞬間にはそんな罪悪感めいた心情など一気に払拭させられた。
「力量を見極めたいから、少なくとも三ヶ月は災禍と戦ってもらおうと思ってる。但しそれは災禍に殺されなければの話で、殺されれば当然、君も冥界の住人だから」
「ちょっ!それどういうことよ?!」
「さっきも言ったけど、災禍っていうのは人が死ぬ前に抱いた感情が具現化したもの。だから追い詰められた末に死んだなら、自分を狙ってくる者から死ぬ物狂いで逃げようとするし、空腹故に餓死したなら、生き物全てを餌として認識するのだっている。……で、佐保姫候補が災禍に殺された場合だけど、最後に抱く感情は十中八九、怨恨。それが消化し切れるまで、ひたすら冥界で災禍を倒し続けるんだ」
何十年も、何百年も。死した身に絡む鎖はもはや死者の国でも断ち切れず、己の内に膨れ上がった怨みを完全に費やすまで、永遠に解かれはしない。
「……そんなのをあたしに負わせようっての?冗談じゃないわよ!」
歯を剥き出して怒りを直情的に表わす茉穂の目を静かに見つめ返して、シオンは言う。
「災禍を冥界に留めておこうにも、前の佐保姫が死してもう三百年近く経つ。正直、限界なんだ。このままじゃこっちの世界にも影響を及ぼす」
それでもいいのか?
両手の中に収まっているストロベリーシェイクの入った紙コップは冷たいが、背中に滲む汗の所為でやたら店内が暑く感じてしまう。
(引き受けなきゃ、ここが化け物だらけの混沌な世界になる。でも引き受けたら、あたしはいずれ殺されて、わけの分かんないところでずっと戦い続けることになる……)
この世の為に犠牲になるか。はたまた自分の可愛さを取るか。
「………」
きつく瞼を塞いで唇を噛み締める。
苦渋の選択の末に選んだのは……後者だった。
「……三ヶ月だけなら引き受ける。その間に他の候補を捜して」
元人間だった死者の為などに自分を犠牲にできない。それが茉穂の下した判断だった。
三月中旬――――その頃には、過去例になかった冥玉の能力を茉穂は存分に使いこなせるようになっていた。
しかしその代償も払わされていた。寝不足で昼夜暗転しがちとなり、授業中に寝てしまうことが増え、おかげで成績も下降を辿っていた。また隈を隠す為に化粧が濃くなり、肌荒れも酷くなってきていた。
「茉穂ちゃん、顔色悪いですよ。保健室で休んだ方が……」
「へーき、へーき!心配ナッシング」
疲労を押し隠して平気な顔を取り繕うのが、その頃には当たり前となりつつあった。
己の状況を嘆き、怒鳴り散らし、全てを拒否してかなぐり捨てたい気持ちは勿論ある。しかしそんなことなどを露知らずの他人に話してどうなるというのか。キチガイだと揶揄されるか、仮に信じてもらえたとしても、同情や憐憫など何の役にも立たない。
三ヶ月間堪えると宣言のは他ならぬ自分。それまで泣き言をほざくのは茉穂自身が許さなかった。
「君の他に佐保姫候補が見つかったよ」
警備員不在の暗く静謐な校舎の中で、突如現れたシオンの声が空気を揺るがした。物音のしない時間帯だからこそ彼のバリトンは一段と清冽さを増し、艶やかな余韻を耳の奥に残す。
言葉を脳で理解するよりも先に声の響きに意識を取られてしまった為、反応が遅れた。
「……じゃあ私はお役御免よ」
漸く肩の荷が下りると、わざとらしく胸を撫で下ろす仕草をして見せるのだが、やはり胸中で微かな罪悪感が湧き起こり鋭利な棘と化して良心を刺激する。
(だって仕方ないじゃない。このまま戦って、この世界と冥界の為に犠牲になれって?)
どうしてあたしが……!
「……宇佐美甲斐」
「え?」
雑談に乗じてシオンとはこれまで色々な会話を交わしてきた。世界の有様についてといった小難しい話題から、些細な小話に至るまで。その中に副担任について喋った記憶もあった。
「彼が佐保姫候補だ」
「――――!」
瞳孔と鼻腔が大きく膨らみ、唇が慄いた。反射で息を呑み込んだ為に肺が窮屈を訴える。
ショックのあまり絶句する茉穂から背を向けて、異界の皇太子は告げた。
「……今日のゲームに勝ったら、また改めて君がどうするか訊くよ」
――――ブォン……!
シオンが音もなく姿を晦ましたのと同時に、ゲーム開始を宣言する不快な音が脳を揺るがした。
照明が点いた僅か数秒後、背後に佇む気配を察して振り返るものの、それより早く敵が茉穂の背中を真一文字に裂いた。はしる熱と痛みに思わず顔を顰めるが、壮絶に血が噴き出したわけでもないので傷は浅いと自身に言い聞かし、右足を軸に身を捩って災禍の方に振り向くと、そのまま大きく口を開き光線を吐き出した。
傷を負ったことで闘争心が失われたのか、その後災禍は逃げ続けた。運動の苦手な茉穂でも充分追いつけるほどの鈍足で、見る見るうちに災禍の肉体は白光の攻撃によって抉り落とされてゆく。人が体内に巡らせているのと同じ、赤色の液体で汚れるリノリウムの上を駆けながら徐々に敵を追い詰めていった。
……そしてついに災禍が膝を崩す。左腕を無くし、脇腹と右太腿を貫通させられ大量の血を流すその姿に勝ち目などなかった。
殺さないでくれと命ごいする敵を嘲笑い、その体を踏み付けたときだ。
「どうして私は死ななければならない?!お前が私を殺そうとしたから、私は刃向かったまでだ。災禍とてお前達と同じく知能がある、感情がある!」
無慈悲にもそうした生き物に手を掛けるというのかと、言外に訴えたいのだろう。
「食物連鎖って冥界にもあるんじゃない?ヒエラルキーの頂点に君臨する人間は、生きる為に牛や豚を殺すし、その牛や豚だって肥糧に加えられてる何らかの生物を口にしてる。ま、あたしが言いたいのは食物連鎖っていうより弱肉強食ってことだけど」
真っ赤なルージュを塗った上下の唇を開いて目の前にある敵を殺す手筈を整える。あとは唾の代わりに発光を吐き出すだけだった。
「では仮にお前の知り合いが災禍ならどうなんだ?」
「……え?」
咽頭まで膨れ上がってきていたプログラムが停止し、災禍の言葉に聞き入ってしまった。
「今後お前の家族が、友が、恩師が、知人が災禍となりうる可能性だって有り得るだろう?そいつらまでお前は手に掛けようというのか?」
『……宇佐美甲斐。彼が佐保姫候補だ』
茉穂の代わりに犠牲となるやもしれない男性教師の姿が脳裏を掠める。自分が佐保姫になることを拒否した結果、彼が戦うことになるだろう。
……そして行く末は?
考えに没頭して集中力散漫となった少女の拘束を振り切って、災禍が天井まで跳び上がる。
自分に向かって振り下ろされる斧を視界に認め、茉穂は咄嗟に光線を放っていた。
赤い飛沫が茉穂の小さな体を染めてゆく。まさしくそれは血の雨と称するに相応しい。
自分が知っているそのままの容姿に手を下すわけではなく、その者が最後に抱いた感情が形勢した姿を殺す。けれどもそうして生まれ変わった外見でも、まさしく人と変わらない感情を持ち得るのだ。もしかしたらその人だった名残が残っているのかもしれない。
そして佐保姫……。佐保姫と呼ばれる役目ではあるが、それもまた、災禍を殺す為の災禍。一月から行ってきていた行動は、まさしく冥界が望む災禍になる為のアクセス。
――――今になって、漸く気付いた。改めて自覚した。
佐保姫になることは最初から拒んでいたが、これほど強く思ったことはない。
「もういやあああああぁ!」
側頭部に両手を当てて髪を掻き毟り、茉穂は張り裂けんばかりの悲鳴を迸った。
いつゲームが終了したのかは分からない。しかし両目から止まない涙を零しながら顎を上げれば、灰暗い通路を背景にシオンが茉穂の顔を覗き込んでいた。
「終わりにしよう、茉穂。君に冥界の明暗を委ねようとしていた俺が悪かった」
「………」
「俺はもう、君の傷付く姿を見たくない」
男の腕が少女の背中に回される。少女もまた、震える指で男の胸に縋り付いて慟哭した。
「ごめんなさい!ごめんなさい。ごめん、なさ……ご、めん……っ!」
結局、茉穂は自分の身代わりを立てる方を選択をした。
(最低だ……あたし……)
その日以来、茉穂の胸には罪悪感という傷が癒えることなく膿み続けている。