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春風戦華  作者: 地球儀
17/35

其の壱拾漆:初見

三ヶ月前、一月一日――――



「ったく、元旦のお参りってなんであんなに人多いのよ〜」

「はぐれなかっただけでも奇跡ですね……」

学校や最寄駅からだいぶ離れているとはいえ、歩いて行けなくはない距離にある神社からの帰り道。

濃藍とも紺青とも判別し難い、白い星が散りばめられた夜空を仰ぎながら茉穂がぼやき、その横で辟易を顔に滲ませた伶子が苦笑混じりに呟いた。

有名処ではないにしろ、元日とあってか訪れていた参拝客は二人の想像を軽く凌駕していた。押され、ぶつかられ、揉みくちゃにされ……あまりの人ごみに小柄な女子高生が音を上げるのは実に早かった。

窮屈な思いをしながら列に並び、漸く賽銭を投げて手を合わすことができたかと思えば「後が支えてるから早くしろ!」と酔っ払いに怒鳴られ、名残惜しみながら階段を下りて甘酒を手にしたことに安堵すれば、狭い人だかりの中を無謀にも走り抜けようとする子どもに衝突され、その拍子に中身をぶちまけてしまい、おかげでほんの一口含んだだけで強制終了とさせられた。一人一杯限りの無料配布だった為に二人揃って零したのはかなりの痛手で、原因となった子どもは謝りもせず逃げる始末。

「甘酒、せめてもうちょっと飲みたかったです」

手袋の上から息を吹きかけ掌を擦っているが、指先は一向に温まらないらしい。薄い色の口紅を刷いた伶子の唇から漏れる吐息は儚く宙へと舞い上がり、白から無色へと姿を変えて霧散してゆく。

冷えた体を持て余しているのは茉穂も同じで、胸の前で両腕を交差させてしきりに肩口を擦るものの、微弱の温もりさえ得られない。

「ったく、あのガキ!親と学校に何教わってんのよ。つーか大人達はどんな教育受けさせてんだっての!」

大量の白い息を出して激昂するものの、冬場起つ怒りというのは体温上昇と直結し難いらしい。夏なら嫌でも発汗して体内に熱が滾るというのに、今は汗どころか寒さで歯根が噛み合わず、口の中でガチガチと不協和音を奏でてしまう。

「そういや伶子、どんなお願いしたの?」

「とりあえず家内安全と……あと、宇佐美先生からの風当たりが少しでも減りますようにって」

「あはは、確かにそりゃ切実にお願いしとかないとね〜」

「そういう茉穂ちゃんこそ、どんなお願いしたんですか?」

「え〜……あれ?酔っ払いのオヤジにせっつかれた所為で忘れちゃった」

「何やってるんですか」と呆れる親友に「本当、何しにきたんだろう」とわざとらしく頭を抱えながら嘆く振りをする。

そんなとき伶子の鞄の中から携帯電話の着信音が鳴り響いた。今時の若者としては珍しく、着うたや着メロといった設定などしていない、元々機器に取り込まれている無機質な効果音だ。

「もしもし。……はい、参拝して、今帰ってる途中です。多分三十分もかからないかと……大丈夫ですよ、そこまで心配しなくても。……そうですね。……はい、それでは」

電源ボタンを押して通話を切った伶子は、若干肩を落として怖ず怖ずと茉穂を仰ぎ見た。

「お父さんか広江さんからでしょ?夜道は危ないから、早く帰ってきなさいって」

「……すみません、朝日、一緒に拝みたかったんですけど」

腰に手を当ててワザとらしく嘆息し、仕方ないなというポーズをつくりながら、ついでに肩も竦めてみたりする。

「ま、しゃーないわよ。こんな時間に出歩いてんだし。血の繋がりがあろうがなかろうが、自分の子どもを可愛がる親っていうのは神経質で、過敏な習性らしいしね」

丁度二手に別れる道に差し掛かったところだ。ここを右に進んで暫く歩けば、伶子の住むマンションに辿り着く。

「んじゃ、ここでお別れだね」

「はい。今年もよろしくお願いします」

「うん、こちらこそ」

微笑んで去り行く親友の背に手を振っていたのだが、その姿が完全になくなったのを見届けて腕を下ろす。弧を描いていた薄い唇はその効力を失い、代わりに重い溜息が零れ落ちる。

(これからどうやって時間を潰しゃいいものか……)

コートのポケットから取り出されたのは最新型の携帯電話。画面を覗いてみるものの、映っているのは黒一色のみ。別に電池切れというわけではなく、伶子と合流してから、自身の意思で電源を落としていたのだ。

もう白旗を揚げて、電源を入れてしまおうかと諦念染みた気持ちが湧き上がるが、そうすると忽ち後悔するのは目に見えているので敢えてそれは堪えた。

再び携帯機器をポケットに収めて、伶子が消え去った方向とは逆の道を歩き出す。日の出の時刻まで時間もあることだし、ファミレスで暖をとって時間を潰すかと思案しながらテクテクと進んでいたのだが………気が付けば、石動学園高等部の校舎前に佇んでいた。

「……何で?」

勝手にこのような場所に向かっていた己の足に疑念を抱き、暫し逡巡したものの、今更動くのも面倒だという思いの方が強くなってくる。

(まぁ学校で日の出拝むってのも悪くないかも)

固く閉ざされた鉄門を攀じ登りグラウンドを抜けた先は、図書室の窓。その一つに手を掛けて音が激しくなるほど揺らしてみれば、いとも簡単に鍵は解除され、すんなり窓はスライドできた。

鍵が掛かっていたはずの窓に振動を与えることでロックが外れるというのは、ほんの一握りの生徒の間で知られているが、それを発見をしたのは他でもない、髪をオレンジという賑やかな色に染め上げた、一見図書室と縁薄そうなこの少女だったりする。

入学式後の委員決めでいつの間にやら図書委員に抜擢されてしまい、不承不承ながらも当番や委員会にはちゃんと出席していたのだが、面倒臭がりな傾向のある彼女よりも先に同じクラスの男子委員が音を上げ、ある日当番をサボタージュした。その矛先が茉穂に向けられたわけで――――

『何であたしがあいつの代わりに当番やんなきゃなんないのよー!』

胸倉を掴み上げる代わりに窓ガラスの枠を掴み八つ当たりした結果、揺するという衝撃を与えればロックなど関係なく窓が開くようになってしまったわけだ。

サッシに手を乗せて上腕に体重を掛ける。そのままスルリと窓枠を越えて床に降り立ったはいいものの、土足は宜しくないとロングブーツを脱ぎ捨てる。しかしタイツを纏った足裏を着いた途端に頭の天辺まで冷たさが突き抜けた。

「寒っ!冷たっ!つか、痛い!」

すぐさま図書室を後にして爪先立ちで玄関に急いだものの、肝心の履物は見当たらない。

(そうだった。今って冬休みじゃん)

当然生徒は全員、上履きを持って帰って洗濯している。それでも藁にも縋る思いで他の下駄箱を覗き回るが、案の定もぬけの殻。仕方なく職員玄関まで移動して、来客用のスリッパを勝手ながら拝借することで漸く足裏の悲鳴は収束した。

(二時四十五分。日の出までまだまだ時間あるなぁ)

壁時計の指す時刻に、胸中で嘆息を漏らす。

とりあえず日の出の時刻になったら四階に上がればいいと考え、それまではどこかで待機していようと一先ず宿直室へと足を運ぶ。ここなら暖を取る為のストーブと毛布があるはずだと思い至ったのだが、残念なことに鍵が掛かっていた。鍵が収納されている職員室には防犯装置が作動中。通報覚悟でそんな場所に忍び寄るわけにもいかない。

仕方なく、通い慣れた教室で時が来るのを待つことにした。一年四組。茉穂、それに伶子の所属するクラスだ。

「寒い……」

(家に帰りたくないからって、元旦の日にこんなところにいる馬鹿、きっとあたしくらいだろうなぁ)

いっそ日の出まででいいから桜原家の厄介になるべきだったかと図々しい考えも浮かぶが、家族水入らずの団欒の中に入っていくのはさすがに心苦しい。お年玉目当てで来たなどと思われるかもしれない。そんな顔をされたら、羞恥で顔から火が出るだろう。

自分の両親より好いている人達に悪い印象など見せたくなかった。

親友と一握りの教員、そして幼等部から石動学園に通っている生徒しか知らないことではあるが、茉穂は財界でも特に有名な近江財閥の直系の血を引いている。そんな家系に身を置いているのだから、当然今日みたいな日には祝賀パーティーなるものが開催されているわけで、ほんの数時間前まで煌びやかな衣装を纏い、誰かも分からない相手に愛想良く笑顔を振り撒きながら談笑に応じていた。

元々財閥の娘という認識は低く、庶民的な嗜好を持つ茉穂にとってそのような会合など、反吐が出るほど苦手なもの。日を跨ぐ前に隙を見計らってパーティーを抜け出し、予め駅のロッカーに保管していた服に着替え、初詣の約束を取り付けていた伶子と難なく合流したのだ。

(まぁあたしの脱走なんて毎度のことだし、血眼になって捜そうなんて誰も思わないでしょ)

その証拠に、携帯電話の電源を切っている茉穂には当然だが、親友である伶子の元にさえ茉穂の行方を安否する報せなど一切掛かってこなかった。

世間体を気にする両親の関心は第一子である茉穂よりも、いずれ近江家当主の座に着くだろう三歳下の弟に向けられている。取り巻く環境を窮屈に思うのか、そんな弟は年を重ねるごとに口ばかり悪くなってくるが、口喧嘩をするとはいえ姉弟仲は良好だと自負していた。そして運悪く言い争いの場に両親が立ち会えば、小言は大概茉穂へ向けられ、ついでとばかりに娘の身嗜みにも言いがかりをつける。

そんな両親に茉穂も見切りを付け、桜原家のような修復は不可能と既に断念していた。寧ろその気が起きない。

『とりあえず家内安全と――――』

(伶子は偉いよなぁ。あたし、そんなこと考えもしなかった)

『茉穂ちゃんこそ、どんなお願いしたんですか?』

社頭の鈴を鳴らして手を合わせた自分が願ったことを思い出し、机に突っ伏す。

……そのときだった。

――――ブォン!

「ぅきゃあ!」

唐突に虫の羽音が耳元を突き、悲鳴を上げて体を起こす。首を巡らして音の元凶を見つけ出そうと躍起になるものの、辺りは静寂に満ちている。机も床も黒板も、何一つ変わった様子はない。携帯電話のバイブレーターでも、勿論なかった。

(気のせい?こんな真冬に虫なんて……)

けれども心臓は驚愕を留めたままで、未だに速い鼓動を刻んでいる。

(……そうだ、何か飲み物買ってこよ。購買部前の自販機にホットのストロベリー・オレがあったはず)

厚く着込んだ衣服の内側で粟立った肌を宥めようと、二の腕を擦りながら立ち上がり、覚束無い足取りで扉へと向かう。磨りガラスの奥に眠るのはこの教室を包む空間と同じ、夜色。何の違和感も抱くことなく教室後方の扉を開けたわけだが――――

「えぇっ?!」

まさに目を剥く光景だった。

つい一瞬前まで外と同化して建物全体を暗い色で覆っていたにも係わらず、今彼女の眼前には天井から降り注がれた蛍光灯の光、そしてそれを浴びて滑らかな輝きを手にしたリノリウムの廊下が広がっている。あまりの明るさに、いつの間に日が昇ったのだと窓を見遣るが、屋外は未だ闇に閉ざされたままだ。いや、この場に光が宿った所為だろうか、先程以上に濃厚な闇が外界では広がっているように感じられる。

おかげで窓ガラスに照らし出された、あんぐりと口を開いた己の滑稽な姿にすぐさま正気を取り戻した。

自分以外の何者かが電気を付けたのだろうかと、左右の突き当たりに視線を飛ばすが……無人。人の気配はない。

あまりの気味の悪さにゾッと背筋が凍える。よくホラー映画の一幕で見かけられる、突如電気が消える恐怖心を擽る演出があるが、逆のパターンも充分心臓に悪い。

「ねぇ、誰かいるの?!」

誰何しても返事はない。

ぺたぺたとスリッパを鳴らしながら廊下の中央に立ち、再度通路の両端を眺め遣るが、やはり誰もいない。眉間に皺を寄せながら階段近くまで近寄り電気のスイッチに手を掛けたが、どうもおかしい。

「あれ?何で?」

何度も切換ボタンを上下してみるものの、反応がない。頭上から落ちる人工の光は素知らぬ顔のまま周囲を照らしている。

(どうなってんのよ、これ?!)

踵を返して足早に階下に下れば、そこもまた明かりが点いていた。その下も、更には一階まで。

あまりの異常な事態に気が動転しそうになる。

とにかく一度外に出て誰かに報せようと図書室のドアの窪みに手を掛けるのだが……開かない。

「?!」

ガタガタと音は鳴るものの、扉は鍵が掛かっている。

「何なのよ、一体!」

苛立ちをぶつけるように戸を蹴り上げるが、爪先にはしったあまりの痛みに悶絶した。しゃがみ込んで暫し、痛覚が治まるのを待つ。そのおかげで血が昇って短絡思考となっていた頭を冷やすことができた。

「そうよ、別に出口は一つじゃない。つーか、下駄箱にブーツ置いたまま帰ろうとしてた」

しかし茉穂の予想を裏切って生徒用玄関、教員用玄関、更には窓ガラスさえ頑なに口を閉ざしていた。まるで茉穂が逃げないよう、籠の中の鳥に仕立て上げるみたいに。

「っざけんしゃないわよ!どうなってんのよ、一体?!」

もはや意地など張っていられないと、携帯電話を取り出して電源ボタンの長押しを試みるが……何秒経っても、繰り返し指圧をかけても、反応がない。

最早お手上げだ。いっそのこと、消火器を窓に叩きつけてやろうかと、野蛮な考えに耽ったときだった。

ズル……ズル……

重い荷物を引きずるような音が近付いてきている。戦々恐々と振り返れば、突き当たりを曲がった角から、得体の知れない影が伸びていた。

率直に、その影が校舎内に電気を点けて鍵が全く回らないよう悪戯を施し、更には不可解な電波障害まで起こした原因だと推測したのだけれど……。

(何かあれ、おかしくない……?!)

険しかった茉穂の顔が次第に青褪めてくる。

徐々に大きくなる影の、人の頭と思われし部分が分からない。寧ろ、あれを人の影と思う方がどうかしている。蛇の髪を持つメデューサの頭部の如く、ひたすらぐにゃぐにゃうねっている塊など見たことがない。

ズル……ズズ……ズル……ズ……

姿を現したそれを目にした瞬間、茉穂は張り裂けんばかりの悲鳴を上げて一目散に逃げ出した。

(何あれ!何あれ!何あれ?!)

毛穴という毛穴が広がり、そこから冷や汗なのか脂汗なのか区別つかないものが汗腺から分泌される。出来ることならすぐにでも蹲り、胃の中のもの全て吐き出してしまいたい。生理的嫌悪が最高潮に達するほどに、彼女が目にしたものは現実から逸脱していた。

それはまさに、蚯蚓の塊としか言いようがなかった。うねうねと体をくねらせ、肌色やら褐色といった細い軟体が何十、何百と身を寄せ合って一つの個体と化していたのだ。

どこに目が、耳があるのかその姿態から知り得ないが、鈍い動きながらも、それは間違いなく茉穂に向かってきていた。

(ちょっと!ホントに、マジで、何なのよ、あれ!)

衣服の裾を翻し、腿を上げ、腕を必死に振って、我武者羅に逃げ惑う。あれに捕まるという想像だけで涙が滲んでくる。

角を曲がって二階へと上った後は、とにかくひたすら走り続けた。渡り廊下で別校舎に移り、そこの一階にある鍵の掛かる教室、外に出られるはずのドアなど力の限り押し引きするのだが、一向に口を緩めてはくれない。消火栓や公衆電話の非常ボタンを押しても反応はない。

「夢なら勘弁してよぉ……」

階段下の影に身を縮めながら声を殺して嘆くものの、これが夢でないことは疲弊した身体が、未だ目に焼き付いている異形の姿が、恐怖に締め付けられた胸が、証明していた。

弾む息を押し止めて耳を澄ますが、あの肥大した体を引きずる音は聞こえてこない。怪物の進む速度を考えれば、奴がここに辿り着くまでまだ時間はありそうだ。

(一体全体、何がどうなってこんなことに……?)

立てた両膝に額を擦り付けて唇を噛み締める。化け物から逃れる為の算段を組もうとするが、それよりも先に頭を過ぎる言葉があった。

『茉穂ちゃんこそ、どんなお願いしたんですか?』

「……あたし、こんなこと望んでないよ」

ただただ単調に流れる時間に不満を覚え、それが塒を巻きながら燻り始めたのはいつからだったか。

家でも、学校でも、街でも、一人でいるときも、一人でないときも、他の作業に没頭しながら常に充足感を得ることばかり考えるようになっていた。けれども刺激を求める割に実際行動を起こすことはなく、単に指を咥えて待ち望んでいたのが現状だ。

本音を言えば、自分の手で波紋を創ることにより悪い状況に陥る、そんな世界を認識するのが怖かったのかもしれない。もしくは何らかのアクションを起こしても何一つ変わらない事態に絶望するのが嫌だったのか。

だから、神頼みをした。

“無情に流される日々に変化をください”と。

(まさに自業自得ってやつ?でもこんな非現実的なことが起こるなんて、誰が予想できんのよ!)

出入口を封鎖され、携帯電話は使えない。公衆電話も使用不可。あの生理的嫌悪を催す異形に捕まるより先に、精神的に力尽きそうだ。

「自分の命かけてまで、変化なんて望んでなかったわよ……!」

そう悪態を吐いたときだった。

(………!)

折り曲げた膝に額を当て俯いた状態のまま、小さく息を呑む。袖の下では一斉に産毛が逆立ち、瞠った双眸は渇きを訴えつつも肌で感じ取った驚愕と恐怖を前に、瞬き一つ満足にできない。

物音など一切なかった。重くて融通の利かなさそうな体を引き摺る音も、ましてや人の足音など一切耳に捉えていない。

卒然として影が茉穂の頭上に覆い被さったのだ。

「………」

黙って自分を見下ろしているのが分かる。あの蚯蚓の塊の仲間だろうか。都合良く考えて、自分以外の、正真正銘の人間か。

しかし後者の場合、蹲る少女に疑念を抱かないはずもなく、声を掛けてこないのはおかしい。

けれども前者なら、獲物に手を伸ばさないわけがない。

(ええい、儘よ!)

勢いよく顔を仰ぎ両眼を開いた瞬間……脳内は真っ白と化した。思考が停止したと表現する方が正しいかもしれない。

物に、景色に、一目見ただけで心を奪われるという経験は何度か覚えがある。けれども……その対象が人というのは、さすがに初めてだった。

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