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解けない魔法  作者: ともるん
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翌朝

「クリス……」


 キースの声で目覚めたクリスは驚いた。


 キースの胸の中のままだった。


(そうか……あのまま寝ちゃったんだ)


 ふいにキースの吐息を額に感じた。


「あっ……待って、キース」


 彼が顔を近づけてきた。


 キースの興奮が伝わり、クリスは彼のエネルギーに包まれた。


「キース……ごめん……まだ怖い」


 涙目になっているクリスに気づいて、キースはハッとした。


「……うん」


 キースはなんとか衝動に耐えた。


「キース……?」


「大丈夫……」


「……?……」


「大丈夫……なんとか抑えた」


「……」


 顔を真っ赤にしてそう言ったキースに思わずクリスは笑ってしまった。


「笑いごとじゃないんだぞ。こっちは必死なんだ」


「……ごめん」


 クリスは胸がキュンとなるのを感じた。


 少し怖かったけど、同時にキースのことを可愛いと思ってしまった。


「顔洗ってくる」


 そう言って部屋を出て行ったキースを見て、クリスは自分の気持ちの変化に驚いた。


(なんだろ……この気持ち……)



          *



 エズラは町で一泊して魔導士の館に帰ってきた。


 食堂にはカインとマギーとヘンリーがちょうど昼ご飯を食べていた。


「お帰りなさい!」元気よくマギーが駆け寄ってきた。


「疲れたんじゃない? 話は後で聞くからまぁ座って。食事の用意をするわ」


「ありがとう」


 エズラは荷物をおろして、食卓に座った。


「カイン先生、ありがとうございました。無事にエリザベスの日誌を家族に渡すことができました」


「そうか」


「やーん、ちょっと待って! 私も聞きたーい!」 エズラとカインの会話に気づいたマギーが奥から叫んだ。


「……えっと、じゃあ待ちますか」エズラが言った。



「はーい、お待たせ。どうぞエズラ」


 エズラの前に昼食が用意され、中断していた他の者の食事も再開した。


「それで、どうだったの?」マギーが興味津々で聞いてきた。


「うん……」 エズラは喉が渇いていたので、水をゴクリと飲んだ。


「日誌を書いたエリザベスは10年前に亡くなってたよ」


「……そうなんだ。残念ね」


「でも、家族はそこに住んでて、別のエリザベスがいたんだ」


「えっ?」


「孫娘に同じ名前をつけたんだって」


 エズラはそう言いながら若いエリザベスの姿を思い浮かべた。


 金髪巻き毛の活発そうな女性だった。


 はからずもエズラと同じ22歳だった。


(日誌のエリザベスと同い年ってのが不思議だよなぁ)そうエズラは思った。


「とても喜んでたよ、おばあちゃんの日誌」


「良かったわね。でも、びっくりしたでしょうね」


「まぁ……ね」


 エズラには言えないこともあった。


『まさか本当にこんなことあるなんて』 そうエリザベスは言った。


『おばあちゃんね、いつかお前のお婿さんになる人が私の日誌を届けに来るだろうって予言してたの。信じてなかったけどね』


 初対面の女性にそんな途方もないことを言われてエズラは戸惑った。


 しかし、エリザベスとしゃべっていて、どこかで会ったことがあるような、そんな気がしたのも確かだった。


 しばらくしてその理由がわかった。


(そうか、ジャンとマギーに似てるんだ)


 容姿はクリスを彷彿とさせたし、性格は少し大人しめのマギーのようだった。


 びっくりしたのは、エリザベスの方もまた同じことを思っていたことだ。


『あなたのこと初めて会った気がしないなって、さっきから思っての。今まで好きになった人にちょっと似てるからかも』そんな風に言われた。


 エリザベスはこれから会う人を予兆してたのかも、というようなことも言った。


 それで思わずエズラは彼女に聞いた。


『えっ、ちょっと待って。君と俺を会わせるために出会う人も用意されてたってわけ?』


 エリザベスはキョトンとしていた。


『一つ言っていい? 君のおばあちゃん……怖い』と言ってしまった。


 しかし、それについてはエリザベスは否定した。


『やだ、おばあちゃんは予言はできたけど、他のことは違うわ。この世にはあらゆるメッセージが隠されてるって聞いたことない?』


 エズラは首をかしげた。


『人生には暗号のようなものが散りばめられていて、それを読み解けるのは本人しかいない、っておばあちゃん言ってたわ』


 そのエリザベスの言葉をエズラはカインに伝えた。


「それは精霊の種と言われてるもののことかもしれないな」そうカインは言った。


「精霊の種?」


「王宮の占い師がよくそういう言葉を使っていたように思う」


「どういう意味ですか?」


 カインも詳しくはわからないが、と言いながら話はじめた。


「人にはそれぞれ生まれつき精霊の種が宿っていて、それを育てることが幸せに至る道だと教えられるらしい。才能とか適性とかそういったことではないかと思うんだが。その内に宿る精霊が導く道は、暗号のように本人の前に現れると。だから注意深くその印を見つけることが大事だとかなんとか」


「……はぁ」


 そのときヘンリーが口を開いた。


「そういえば、屋根裏部屋の望遠鏡はどうするんだ? あれ高いらしいぞ」


「あっ……」ヘンリーのその言葉でエズラは思い出した。


「望遠鏡のことも聞いてみたんです。そしたら、移動するときに壊れてしまうかもしれないから要らないって言ってました」


 エリザベスは『おばあちゃん、あそこは何もなくてひまだから後に住む人のために置いてきた、って』とも言っていた。


「俺の友人がすごく保存状態がいいって褒めてたぞ」ヘンリーの言葉にカインが反応して、


「それは、一緒にあった歴代の魔導士の持ち物に守られてたせいかもしれない」そう言った。


「えー、なんかそういうこと言われると怖くなっちゃう」マギーが口をはさんだ。


「だって、念がこもってるってことでしょ? 考えたら天界の人の荷物の方が多そうだもん」


「……」その場の男衆は(今ごろ気づいたか)と思った。




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