満月
夜中に風が頬にあたって目を覚ましたクリスは、窓際のベッドで片ヒザを立てて外を見ているキースに気づいた。
(ドキン……)
そのキースの姿になぜかドキドキした。
(キースってこんなにカッコ良かったっけ?)
すると彼がこちらを向いたので、さらに心臓が高鳴った。
「あっ、クリス!? ごめん、起こしちゃった?」
「……」
「月がキレイだなぁと思って見てたんだ」
キースは言いながら少し開けてた窓を閉めた。
その言葉にクリスは思わず微笑んで言った。
「意外とロマンチックだね」
「なんだよ」
クリスは起き上がってキースのいるベッドに移った。
「ごめんね……ベッドに運んでくれたの? いつの間にか眠ってた」
「……」
クリスはキースの何か言いたげな表情に気づいた。
「なに?」
「……いや……疲れてるんだろうなぁって」
キースは自分にアザのことを黙ったままのクリスの気持ちを汲むことにした。
「……うん」
(身代わりを置いていったせいかな……?)クリスはそんな風に思った。
「うわーほんと、キレイな満月……クシュン!」
「寒い?」
クリスがくしゃみをしたので、キースはシーツをショール代わりにクリスに被せた。
「……ありがと」
キースのベッドの上で二人は窓の方を向いて並んで座っていた。
「何がおかしいの?」
キースがクリスをとても優しげな笑顔で見ていたので聞いた。
「……幸せそうな顔して寝てたから」
「……」
「どんな夢見てんのかな、と思った」
*
「……でね、思い出してもすごく幸せな気持ちになる夢……キース?」
クリスは身代わり黒魔法のせいか、不思議な夢を見ていた。
太古の大木の夢や、森の中の動物の夢だ。とてもリアルだった。
そんな夢の話をベッドに横になって聞いているキースに語っていたが、見ると彼はいつの間にか眠っていた。
クリスはきちんとベッドの真ん中にキースを寝かせてあげようと思って彼に触れた。
(……クリス……)
そのとき名前を呼ばれたような気がした。
何か言いたいことがあるのかと思い、顔を近づけたときキースの気持ちが伝わった。
(……好きだ……)
ドキリとした。
キースはスヤスヤと寝ていて気のせいかとも思った。
しかし、次の瞬間、クリスはキースの両腕に引き寄せられた。
「キース!」
彼は仰向けのまま眠っていて、その胸にクリスをがっちりと抱きしめていた。
(寝ぼけてるの? キース……)
見るとやはり彼は熟睡していた。
「……もう」
(でも、なんでだろ……)
クリスは不思議とキースの胸の中で安心していた。
(なんでこんなにホッとするんだろ)
そのときキースがつぶやいた。
「……幸せ……」
「……」
(……しょうがないなぁ)
クリスは観念して、しばらくこのままでいることにした。
そのうち抜け出ることができるだろうと思って。
そしてその間にいろいろと考えた。
(このままずっと元に戻らなかったらどうしよう……)
(でもいつか元に戻るときのために、女の子のクリスの不利にならないようにしなくちゃ)
(だけど……キースを受け入れる?)
(キースのことは人として好き。一番安心できる。でも……)
(女の人みたいに受け入れるなんてことできるんだろうか)
(友情だけでキースの傍にいられるんだろうか)
女性からの友情だけで男性が満足できるとは、クリスも非現実的な気がしている。
でも、少しずつならキースを受け入れることができるかもしれない。
いろんな思いが逡巡してなかなかまとまらなかった。




