宿
宿はすぐに見つかった。
馬は共同の厩舎に預けてきた。
「一部屋ですね」
そう言われてキースはためらいながら頷いた。
「新婚さんですか?」
宿の女主人の言葉にキースとクリスはドキリとした。
借りたマギーの服が落ち着いていたので大人っぽく見えたのかもしれない。
「いや……」
キースが否定しかけたとき、クリスが「はい」と返事をした。
「……!!……」
「なんでクリス……」
部屋に入ってからキースが聞いた。
「だって、その方が都合がいいかと」
「……」
確かに、夫婦で泊まる方が自然だった。
未成年の男女で宿に泊まると色々とうるさい大人たちもいる。
家出人と間違われる場合もあった。
(クリスってそういうの平気なんだな……)
キースは「ご主人」やら「奥さん」という言葉にいちいちドキドキした。
(クリスが俺の奥さん……)
そう思うだけで天にも昇る気持ちになった。
「お風呂どうぞ」
宿の人がそう声をかけてきた。
「キース、先に入りなよ」
「あっ、いいのか」
「うん」
会話だけでドキドキが止まらないキースと、それに気づかないクリス。
しかも、お風呂上りにマギーの室内着に着替えてきたクリスを見てキースは気を失いそうになった。
(色っぽい……)
頬がほんのり赤みを帯びて、少し濡れて乱れたクリスの金髪、鎖骨が見えるくらいゆったりとした女性らしい可愛いデザインの服……すべて完璧だった。
(うわっ……可愛い……)
そんなことを思いながらも、平静を装った。
(正視できない……)
(ってかクリスってあんなに胸あったっけ?)
正視できないと言いつつ、脳内にしっかり風呂上がりのクリスの画が焼きついているキース。
彼はふだんクリスが胸のふくらみを隠すためにつけている布のことや、今は逆に超可愛い下着をつけていることを知らない。
知ったら彼のダメージは底知れなかっただろう。
とにかくキースは今、全身の力が抜けるような腑抜けの状態と化していた。
「どうしたの、キース?」そう言ってクリスが近づいてくる気配を感じた。
(ヤ・バ・イ)
今、クリスに近づかれると理性を保てるか自信がなかった。
なので、彼はその場から離脱することにした。
「ちょっと外の空気を吸ってくる……」
「あっ、うん……」
が、夕食が終わってクリスと入れ替わりに歯を磨きに行って戻ってきたキースは、またまた難局に遭遇する。
「クリス……」
床に倒れるようにスヤスヤと気持ちよさそうに眠っていた。
よほど疲れているようだった。
(神はどんだけ俺を試すんだ)
キースは泣きそうになった。
「ハァ……」
(クリスの俺に対する信頼感がキツイ……)
(なんでこんなに無防備かつ絶対的安心感全開で寝れるんだろう……)
(俺だって男なのに……)
頭を抱えた。
(だけど……ここまで信用されたらこっちの負け)
(アホだな俺も……)
キースは意を決して、クリスを起こさないようそっと抱きかかえた。
クリスが着用している柔らかい布地を通して、肌の体温が感じられた。
「……」
キースはなるべくクリスの方を見ないようにした。
そして二つ用意されていたベッドの、窓際ではない方にクリスを寝かせた。
「……ふぅ」
重大ミッションを遂行したかのような汗が出た。
「ん?」
そのとき、キースは気づいた。
「……!!……」
クリスの左手首にうっすら残るアザに。




