出発準備
「ジャン、翡翠は?」
カインに呼ばれて彼の部屋に入るとそう聞かれた。
「あっ、ここにあります」
クリスはポケットからそれを取り出した。
「見せてくれるか?」
そう言われて、翡翠をカインに渡した。
「……」
カインはしばらくそれを手にして黙ったままだった。
(……充分、クリスの気が移ってるな……)
そう思ったカインは言った。
「旅の間、これを預かってもいいか?」
「あっ……はい」
クリスは(なんだろう?)と思った。
その疑問に答えるかのようにカインが言った。
「この翡翠を身代わりにする」
「……?」
「アクセルはジャンが魔導士の館を離れることや、一人になることを狙ってる。だから、この翡翠を分身にして目くらましを行う。君のエネルギーを分散させるので少し疲れやすくなるかもしれないが」
クリスは驚きで声が出なかった。
(そんなことできるんだ……)
カインは言わなかったが、身代わり魔法はかなり闇に近い黒魔法だった。
なぜギリギリかというと、本当の闇魔法の身代わりは生身の人間を使うからである。
旅にあたって、ふだん着用している衣類はローブも含めて館に置いていくことになった。
そして代わりにマギーの衣類を借りることになった。
「私のだとジャンには少し大きいけど、ウエストを紐で縛ればいけるわ」
長袖の地味な色のワンピースに、深めの帽子を被ることになった。
着替えの服も地味めだった。あまり目立たない物を、とカインから言われていた。
靴は新しく買ったものだ。
「下着も新品だもんね」マギーは小声でクリスにささやいた。
クリスは旅の出発前にキースと一緒に一度、実家に帰った。
送り迎えにはダンが同行してくれた。
キースは家族に少し旅に出ることを伝えた。一緒に行くのは魔導士だと言ったが、クリスであることは黙っていた。
クリスの方もまた、両親に魔導士の仕事として少し旅に出ることを伝えた。
「公にしないでね」と父マークに念を押した。
「クリス、相手を眠らせる魔法は使えるわよね?」なぜか母マリアはそんなことを言ってきた。
「う、うん。なんで?」
「いざという時に使うのよ」
「う……ん……?」
クリスは盗賊に遭ったときの対処かとそのとき思った。




