付き添い
週末の休みの日、お昼ごはんを魔導士の館で済ましたあと、マギーとクリスとエズラの三人は町に買い物に来ていた。
クリスはローブ着用を禁止されたため、マギーの服を借りていた。
着慣れないタイトスカートにクリスは歩きづらそうだったが、年齢より大人っぽく見えて、付き添いのエズラはドキリとした。
「こっちはあんたの!」
店を出るなり、マギーはクリスに一つの袋を渡してきた。
「えっ」
「キースと会うときくらい勝負下着をつけなさいよ。いつなんどき何があるかわからないんだから……ね?」
「……」
館に役人たちが抜き打ちで来て以来、その方が安心だからとクリスの女性ものの衣類などは屋根裏部屋にしまってあった。
しかし「これはダメ!」と言ってクリスが拒否したものの中に、胸のふくらみを隠すための、まるでコルセットのような布があった。
(こんなのをつけてるの……?)
マギーはそのことに胸を痛めていた。
だから今回、自分の買い物のふりをして本当はクリスの下着を購入していた。
「まいったな……」
エズラはマギーたちの買い物の付き添いに行ってかなり気まずい思いをした。
女性ものの下着を買うとは思わず、一緒に店に入り、マギーに「これ可愛い?」と意見を求められたからであった。
「知らねーよ。俺、店の外に出てるからな」
そう言って、外に出たものの、待ってる間もドギマギしていた。
(ジャンもあんなのつけるのかな……。いやいや、そんなこと考えるな)
マギーが意見を求めてきた下着はかなりキュートだった。
(ジャンに似合いそうだな……)
結局そんなことを思ってしまった。
「何かすぐに食べれる物を買って帰ろうか……」
夕闇迫る中、マギーが言った。
買い物後にお茶をして、さんざんマギーが喋ってけっこう遅くなってしまった。
カインに「夕食は適当に食べるから遅くなってもいい」と言われていたが、エズラもクリスもマギーの言葉に同意した。
*
ヘンリーは自室にいるカインにお茶を持っていき、ついでに自分たちの分のお茶を部屋に持ってきた。客用のティーカップやお菓子はマギーが用意してくれていた。
「僕、入れましょうか?」とクライドが言ったが、勝手のわかるヘンリーが用意した。
このごろはすっかりマギーの助手として役立っていた。
そしてゆっくりと自分の部屋でクライドの話を延々と聞いてやった。
天文や神学や文学などクライドが興味のありそうなことに話をふって、聞き役に徹した。
そして帰り際、ヘンリーは言った。
「お前、その知識を世の中に活かせよ」
「……」
「ぜんぜん違ってた。兵士の訓練してるときのお前と」
「……」
夕方、ヘンリーは町に飲みに行くからとクライドの宿舎まで一緒に歩いて行くことになった。
クライドは来たときもそうだが、帰りもきちんとカインに挨拶をした。
ヘンリーはそのときに自分も町に行くことを伝えた。
「僕はヘンリーのように世の中に役立つ人間になりたいんです」
連れ添って歩いてるうちに、クライドがそんなことを話し始めた。
寄宿舎までの並木道は夕日に照らされて幻想的な雰囲気があった。
「あのなぁ……人間には適性ってものがあるんだ。俺は聖職者には向いてない。お前は兵士に向いてない。それだけのことだろうが。ウジウジ悩むなよ」
「……」
「万が一、戦争が起こったら否が応でも巻き込まれるんだ。今はそんな時代じゃないだろ? 人の役に立ちたいなら、お前のその特性を活かせよ」
「……」
「お前にとってこの世の苦手な部分を俺が生きるから、お前は俺ができない生き方をしてくれよ」
「ヘンリーは……僕を元気づけてくれてるんですよね」
「……」
「ありがとうございます。なんか吹っ切れました」
「……」
クライドはヘンリーと一緒にいることで勇気をもらえたと話した。
「もし……兵士を辞めたら、今後どうすれば僕はヘンリーと会えますか?」
「……会わなくてもいいんじゃない?」
「……」
ヘンリーのその言葉に思わず立ち止まりそうになったクライドだが、ヘンリーがそのまま歩いていったので、慌てて追いついた。
「ヘンリーそれって……」
「お前どんだけ俺に甘えるんだよ。俺の気持ち知っててそんなこと簡単に言うなよ」
ヘンリーはクライドの方を見なかった。
その言葉にクライドが黙り、二人の間にしばらく無言が続いた。
「……簡単に言ってるのはヘンリーの方だ……」
「……」
クライドはこっちを見ないで歩き続けるヘンリーに向かって言った。
「……価値観や世界観が違ったら……もうそれでダメなんですか?」
「頼むからお前は安全なとこにいて安心させてくれよ。……俺とは関係のないところで」
「それってどういう意味ですか? 僕とは関わりたくないと?」
「俺のこと知ってるくせに、耐えられなくなるのはお前の方だ」
「ヘンリーの言ってる意味がわかりません! ……つまり、僕のことが嫌いなんですよね? だから……わざと僕を怖がらせて遠ざけてる……」
「またお得意の被害妄想か……」
「僕が唯一ここで心を開いたのがあなたでした」
クライドがそう言って立ち止まったので、ヘンリーも歩を止めた。
「……」
「そんな簡単にフラれちゃうんですか僕は……。あなたにとって価値のない……」
「……」
そのあとも何かゴチャゴチャと言っていたクライドだったが、途中でそれができなくなった。
「……!!……」
急にヘンリーに両腕を掴まれ、抱き寄せられ、彼によって唇をふさがれたからだった。
はじめは力強かったヘンリーの口づけは、しだいに優しさへと変わり、辛そうな表情でしめくくった。
「これ以上……俺の中に入ってくるなよ……」
「……」
「お前がいると死ぬのが怖くなるんだよ!」
そう言ってヘンリーはクライドを離した。
怒鳴りながら泣きそうな顔をしていた。
彼は茫然としたままのクライドを残し、足早に町の方へと去って行った。




