コントロール③
「……その癒し魔法の効果は絶大だ。ただ……」
今日もクリスはダンの家で魔法の訓練を行っていた。
「さて……と」
ダンはフーッと深い息を吐いた。
「……?」
「これから、君のお母さんに頼まれたことを今から行うけど、いいかい?」
「あっ……はい」
今日のダン先生は少し変だった。なんだか緊張しているようだった。
「いつも通りにこの場の精霊に感応してくれ」
先生の言われるまま、クリスは目を閉じ、意識を集中させて場のエネルギーの高まりを感じていた。
しばらくして何かに包まれているような感覚に気づいた。
(なんだろう。すごく心地良くて……クラクラする)
何の気なしにうっすら目を開けて驚いた。
いつもはクリスに近づくことをためらっていたダン先生がすぐ目の前に立っていた。
(これ、先生の気?)
ダンから発せられているエネルギーはクリスが作り出したエネルギーと交感するようにうねり出した。
(どうしよう。引き込まれる……!)
フッと意識が遠のいてクリスはダンの腕の中に倒れ込んだ。
その瞬間、強烈な高揚感に体が反応した。
(怖い……!)
自分が自分でなくなりそうな恐れを感じていた。
(気分が悪い)
ダン先生は淡々とクリスを抱きかかえ、家の中のベッドへと連れて行った。
クリスをそこへ寝かせると、束の間ダンは辛そうな表情を見せたが、唇をキュッと噛んでそばから離れた。
クリスは少しボーっとしていたが、しだいに意識が戻ってきた。
「ダン先生……どうなって……」
ダンは水の入ったコップを手にして戻ってきて、それをクリスに渡した。
「さっきのがいわゆる例のエネルギー。人を酔わせる」
「……」
「コントロールが効かなくなるんだ」
心地よさと自分でなくなる恐怖を同時に感じた。
「マイナスとプラスのエネルギーが引かれ合うように体も一つになりたがるんだ。君が出したエネルギーに僕が応えた」
クリスは意味を理解して顔を赤らめた。
「まったく、君のお母さんは。僕に君を襲わせたいのかな。我慢するのがやっとだった」
「……」
「荒治療だけどね。一度、恐怖として覚えると抑制が効く。君はまだまだ子供だから」