掘り出し物
魔導士の館のある夕食時のことだ。
皿洗いをしてるクリスを見てマギーが言った。
「そのアザ、なかなか消えないわね」
その瞬間、クリスの手は止まった。
まだ食堂に残っていたエズラとヘンリーも台所の二人に注視した。
カインはすでに自室に戻っていた。
「あっ……」
クリスは何て言えばいいかわからなかった。
「この前、水色のドレスを着たときにアレって思ったの」
そう言われてクリスはハッとした。
(キースにも気づかれた? アザがまだ残っていること……)
しかし、記憶に残っているキースにはそんなそぶりは感じなかった。
自分もキースもドレスに集中していたのかもしれない。
気をつけなければ、とクリスは思った。
「マギー」
エズラが呼んだ。
「何よ、忙しいのに」
マギーは手招きしているエズラに近づいた。
「ジャン、アザのこと気にしてるからあんまり言わない方がいいよ。特にキースの前では」
「……」
マギーはうなずいた。
(後宮時代には気づかなかったけど、もしかして生まれつきなのかしら?)
そんな風に思った。
「そういえばさ、屋根裏部屋の荷物に名前が書いてあるんだな」
ヘンリーが話題を変えるためにそんな話を振った。
「えっ、そうなの?」
マギーが食いついた。
「マギーの引っ越しのときに気づいてさ、カイン先生に聞いてみたんだ。でも先生も知らなくて。この前、ダン先生に会ったときに聞いてくれたんだ」
そう言うヘンリーの横に、マギーは興味津々で座った。
「なになに、どういうこと?」
「館を去るときに何か置いていく風習があるんだって。引き継ぎのときに言うの忘れてたらしい」
「えっ……。じゃあ、あれ全部、昔ここにいた魔導士がわざと置いていった荷物なの?」
「そうみたいだよ」
「ふ~ん」
*
「掘り出し物があるかしら?」
「マギー、勝手に触っていいのかな」
「あらジャン、使わない方が可哀そうじゃない?」
マギーはさっそく屋根裏部屋にクリスを誘って、歴代の魔導士のものだという荷物を漁っていた。
「これ何かしら?」
マギーがまずはじめに取り出したのは一冊のノートだった。
「日誌みたいね」
パラパラとめくると、その日にあった出来事が書かれていた。
「うわっ、50年以上前の日誌よ」
読んでみると、どうやらエリザベスという女性が書いたものだった。
彼女は魔導士ではなく、占い師だった。
「なかなか面白そう。ねぇ、ジャンこれ下でじっくり読もう」
マギーはお茶を飲みながら読もうと思い、その日誌を持って降りていった。
食堂にはまだエズラとヘンリーがいて、彼らは演習の話をしていた。
「ねぇねぇ、これ屋根裏部屋でジャンと見つけたの!」
マギーは食卓にエリザベスの日誌を置いた。
「ジャンと少し読んでみたけど、彼女は王女つきの若き占い師でここに住んでたらしいの」
「へぇ……」 エズラとヘンリーは少し興味を持ったようだった。
「お茶入れるわ」
そうマギーが言ったのでクリスも彼女について台所に消えた。
エズラは卓に置かれた日誌を手にとって読み始めた。
「ふ~ん。占い師って星を見てたんだ。望遠鏡で毎夜、星を見てたらしい。天候のことがすごく気になってる。面白いな……天文は天候と時間、お金と技術と気力がいるってさ。マニアックな人だな。エリザベス……22歳……俺と同い年か」
「天文……」
ヘンリーは日誌の人物に対して、自分とは違った浮世離れしたイメージを抱いた。
「望遠鏡も置いていくつもりって書いてある。もしかして屋根裏部屋にあるんじゃないの」
そうエズラが言った。




