守り
「ジャン、翡翠のブローチはどうした?」
カインはクリスが食事の用意ができたことを告げに部屋に入ってきたときに、気づいたように声をかけた。
「あっ……。服に着けるとなんだか落ち着かなくて」
クリスはウルヒ王子からもらった翡翠が魔除けになるから身に着けておくようカインから言われていたのを忘れていた。
「そうか」
カインはなにごとかを考えていたが、口にしなかった。
「まぁいい。ポケットにでもいいから持っておけ」
「……はい」
*
今日も郊外で演習が行われていた。
ヘンリーとエズラも付き添っている。
クライドは他の新人兵士に指導してるヘンリーを見つけて声をかけた。
「あの……」
「おう、クライド」
「僕、誤解してたみたいです。あなたのこと」
「ん?」
「ありがとうございます」
「……何のことだ?」
「わざとだったんですね、僕に声をかけてくれたのは」
「……」
「盾になってくれてるんですよね?」
ヘンリーは笑った。
「どう思われても構わないけど。ただ……君のその無防備さが似てたんだ、知り合いにね。見て見ぬフリができなかった」
「えっ……?」
「その子は女の子だけど」
「あの……」
ヘンリーはクライドの言葉を手でさえぎった。
「ちょっと休憩に行ってくる」
そう上官に伝えるとヘンリーは、クライドを連れてテント内の休憩所に入った。
「君みたいのがなんで兵士に?」
ヘンリーがそう言って椅子に座ったので、クライドもその横に座った。
「僕はもともと神学校に通ってました」
「へぇ……またまた場違いな感じだな」
クライドは「ええ」とうなずいた。
「僕は……聖職者を目指してるんです」
「……」
「でも、安全な場所にいて綺麗ごと言うのは違うような気がして」
クライドはそこで一度、言葉を切った。
そして今度はヘンリーの目をまっすぐ見て言った。
「それで志願したんです。一度、体験してみようと、戦場を」
それに対してヘンリーはため息のようなものをついた。
「そんなに甘くないぜ。それで心が壊れちまったらどうする?」
「……」
「踏み込まなくていい世界もあるんだよ」
その言葉にクライドは首をかしげた。
「ヘンリーさんは……それを耐え抜いてるんですよね?」
「ヘンリーでいいよ。俺のことはそう呼んでくれ」
「……」
「耐え抜くとかそんな次元じゃない。誰かがやんなきゃならないからやってる。だから、安全な場所にいてもらわなきゃならない人間もいる」
「それってどういう意味ですか?」
「汚れない人間もこの世には必要ってこと。そのためならいくらでも汚れてやる」
「……」
クライドはヘンリーの考え方に興味を持った。
特に、次のようにヘンリーが放った言葉は今までの自分にはなかった。
「自分が綺麗でなくても、俺の代わりに綺麗な人間がどっかにいて、安全なところにいてくれればそれでいいんだよ」




