危機
その日の夜、三人の役人たちが魔導士の館を訪れた。
その中には、カインが王宮で顔を見たことのある男もいた。
「ある情報が入ってな。悪いが、すべての部屋を見せてもらう」
「……はい。どうぞ」
カインは丁寧に対応に出た。
「お前たち、部屋をそれぞれ調べろ」
「はい」
上官らしき人は居間に残り、カインに弟子について話を聞いた。
「23歳、22歳、15歳……の三人の弟子だな」
その間、部下二人に個室を全部調べさせた。
「男の弟子が二人いましたが……」
エズラとヘンリーは自室にいたが、クリスの部屋は空っぽだった。
部下の報告に上司がクリスの部屋を訪れた。
特に女性らしい物は置いてなかった。
「この部屋の住人は?」
「あの……今、休暇中で実家に帰っています」
「……」
上官は「とにかく他の部屋も調べさせてもらう」と言った。
「はい……」
『キースの弟に今度、ジャンの身代わりを頼めばいいから、今夜はとりあえず応急処置で』
そう言ったのは、キースにジャンと近い年頃の弟がいることを知っていたマギーだった。
彼女はクリスの不在を装う計画をみんなに話した。
『クリスは屋根裏部屋の荷物の山の陰に隠れてもらって……』
時間がなかったので、みんなは「でも……」と言いながらもマギーの話にのることにした。
が、カインを筆頭にエズラやヘンリーもいざとなったら忘却魔法などの強硬手段をとることを考えていた。
「水の音がこの部屋からします」
役人の部下が台所横の部屋を指さした。
その瞬間、カインは心臓が高鳴った。
(そういえば、さっきからマギーの姿を見ていない……屋根裏部屋にいるのだと思っていたが。まさか……)
『遅いわね、役人さんたち……先にお風呂に入っててもいいですか?』
そう聞かれたマギーに「ダメだ」と言った……はずだ。
「待ってください!」
カインの制止を無視して役人の一人がドアを開けた。
「キャーっ!!」
浴室には湯舟に浸かっている女性がいた。
「なんですか、突然入ってきて!」
王宮の役人たちは顔を真っ赤にして「失礼!」と言ってドアを閉めた。
「……彼女が例の女魔導士か?」
役人たちは集まってコソコソ話しだした。
そこへ、すぐローブをまとった女性が出てきた。
「私、ここに住み込みで働かせてもらってます、マギーと言います。これは今ちょっと魔導士さんのローブを借りてるだけですけど……私は魔導士ではありませんからね!」
「……」
「そういえば、住み込みの女性が一人いると……」部下の一人が言うと、
「なんでそれをもっと早く言わないんだ!」上官が怒鳴った。
「いや、だって。ローブを着た女性がいるって情報が……」別の部下が言った。
上官はマギーの方を見た。するとマギーが言った。
「これ、カイン先生のですの。ときどきお風呂上がりに借りてます♪」
役人たちは今度はカインの方を見た。
「いや、その……」
カインは臨機応変というのが苦手だった。
「コホン……。まぁ、その。婚前交渉には気をつけてもらってだな……。言うまでもないが」
役人の言葉をカインは否定しなかった。
「……はい、わかっています」
*
「だって、本当の計画を話したらカイン先生の許可がおりないと思って……ごめんなさい。カイン先生に恥をかかせちゃった?」
役人たちがゾロゾロと帰っていったあと、マギーがそう言った。
ローブはカインの洗濯予定の替えのローブをこっそり借りていた。
カインは首を振った。
「君の方こそ、裸にまでなってジャンを守ってくれた。すまない」
「あらやだ。裸じゃないわ。ちゃんと下着はつけてたわ。見えないようにね」
「……」
「先生のローブを濡らしちゃった……。乾かしてくるわね」
まだローブ姿のマギーは着替えに屋根裏部屋に行こうとした。
「待て」
「えっ?」
「薄着でウロウロしてたんだ。体が冷えてるだろ? 先に風呂に浸かるといい。私が沸かす」
マギーが浸かっていたのは昨日の残り湯で、かなりぬるま湯だった。
「すぐに水を入れ替えて沸かすから少しだけ待っててくれ」
「……優しいのね、先生って」
「マギー……ありがとう」
「は~い♪」
*
役人たちが帰ったと言われ、クリスは屋根裏部屋から出てきた。
「えっ……」
マギーがお風呂に入っている間に、食堂でカインやエズラたちと待っていて、彼女が体を張って守ってくれたことを知った。
クリスは胸を痛めた。
「ごめんね、マギー」
マギーからもらったドレスや、母から送られた女性もののコートや靴なども一緒に屋根裏部屋に置かせてもらっていた。
「いいのよ、ジャンのためなら」
「でも……」
「あと先生のためでもあるの」
クリスにだけ聞こえる声でマギーは言った。
「えっ……」
「カイン先生の大切な弟子だもの」
*
「お前良かったな、ヘンリーのお気に入りで」
クライドは先輩兵士にそう言われてキョトンとした。
寄宿舎の廊下ですれ違うときにそう声をかけられた。
「えっ……」
「はじめ心配したんだよ。お前みたいに綺麗な子、他にいないからさ」
「……」
「なんで文学的な香りのするような子が、こんな男くさい体育会系のトコに?って。羊が狼の群れに混じるようなもんだからさ」
「あの……?」
「お前狙ってるやつ、けっこういたからさ、大丈夫かなって」
「……」
「でも、宴会であんなにヘンリーのものだって見せつけられたら、お前に手を出す猛者はいないよ」
「……」




