コントロール②
「母さん聞きたいことがあるんだけど」
「なに?」
「今日、ダン先生が……」
「ダン先生が?」
「修行中に急に顔を赤くして、力のコントロールがどうとかって。母さんに聞けって」
マリアは「ああ……」と思い出しようにうなずいた。
「そうそう思い出したわ。まだコントロールが効かない女性魔導士の失敗」
「失敗?」
「女性が魔力を使おうとすると女性としての魅力も増幅するのよ。それはその場にいる男を虜にして戦意を喪失させるんだけど……自覚しておかないと独占欲の強い者に“欲しい”と思われてしまうの。それは危険。時の権力者はそのために国を亡ぼしたりもしたの。だから女魔導士は城では使われなくなったわ。いい? 魔力を使うときは同時に一方の力を制御しなくちゃいけないの」
(女性としての魅力……)
「まぁ、フェロモンみたいなものよ。男性はそれにメロメロになっちゃうの」
「……」
「どうしたの?」
「それって、逆効果だよね? キースはそれでなくても……」
「あなたに夢中よね」
マリアの笑みにクリスは居心地悪くて仕方なかった。
「でもね、力をコントロールすれば男性並みの実力が得られるのよ。そうしたらキースも下手に女性扱いはしないんじゃない? 彼に認められたいならそれを超えなくちゃいけないわ」
「けど……男装したってすぐにバレるんじゃ……」
「男装だけじゃなくて、仮面もつけるの。魔導士の中には顔を見られないように仮面をつけてる人がけっこういるのよ。偽名を使ってたりね。敵の魔導士に呪いをかけられたりするのを防ぐためよ」
「敵って……もうずいぶん長いことこの国に争いはないよね?」
「私たちが知らないだけで、同盟国に応援派遣をお願いされたりしてるわ」
「そうなんだ……」
「大丈夫よ、国外派遣されるのは20歳以上の人って決まってるから。せいぜい国内の揉め事に駆り出されるだけよ」
「揉め事って?」
「色々とね……後継者争いとか」
(そんなことあるんだ)
「とにかく力のコントロールのことだけど……そうね、これは人に教えられるものじゃないの。自分で体得するものだから」