歓迎祝い
「おはよう。……エズラ、大丈夫?」
食堂にクリスがやってきた。
「あっ、ジャン。何?」
先にいたエズラは食卓に頬杖をついていた。
「なんか元気ないっていうか」
「……そうかな」
眠いだけなのかな?とクリスは思った。
「ところで、朝からあの二人はなんであんなにうるさいんだ?」
エズラは話をそらすかのように言った。
「ちょっと聞いてよ~!!」
マギーが入ってきた。
後ろにはヘンリーがいる。
「ヘンリーったら酷いこと言うのよ!!」
「……?……」
エズラもクリスも朝からよくこんなに元気だなぁと思った。
「ヘンリ―ったら昨夜、地下に降りるときに酔っぱらって階段を踏み外したのよ!!」
「えっ……」
「カイン先生と私とでヘンリーを自室まで連れていってあげたのに」
「だって、覚えてねーんだもん」
「起きてから、痛い!痛い!なんで? 体のあちこちが痛い!ってうるさいから、昨夜のこと教えたら何て言ったと思う?」
「……?」
「マギーに突き飛ばされた!って」
「だって……なんかそんな記憶が……」
「なわけないでしょ! カイン先生にも聞いてよ!」
その後も二人のギャーギャーが続いた。
「まぁ……いつもの光景だね」
エズラがそう言うとクリスは笑った。
騒ぎがおさまって、とりあえず落ち着いたマギーは次にこう言った。
「ねぇ、今夜でしょ? 私の歓迎祝い」
マギーがそう言うと、その場にいたみんなは(そうだった)という顔をした。
「まさか、まだ何にも用意してないわけじゃないわよね?」
「……」
「まったくもう」
「……」
「そんなことだと思って、仕込んでたの。色々と料理の下準備をね。自分の歓迎祝いの料理を自分で用意するなんて……」
「いやいや、手伝うよ」 ヘンリーが言った。
「もちろんよ」
で、その結果こうなった。
「ちょっとヘンリー!」
「なんだよ」
「伝説のなんとか屋じゃないんだから、スープに指突っ込んで持ってこないでよ!」
「だって俺の手デカいんだからしょうがねーだろ」
今夜の夕食はかなり豪華だった。
「うわっ、美味そうな肉!」
「エズラ、味見ばっかりしないで、ジャンを手伝ってあげて」
クリスは飾り付けをしていた。
この飾りもマギーが用意したものだった。
一応、カインの弟子三人が「ようこそマギー♪」という垂れ幕を用意していたのだが、マギーは自分でたくさんの花飾りを買ってきていた。
「こんなに買って……片付けるときはどこに置くんだ?」とカインに聞かれ、マギーは、
「もちろん屋根裏よ」と答えた。
すでに屋根裏はマギーの私物と化していて、元々あった荷物の山の横にマギーの私物がたくさん集まってきていた。
「……」 カインは少し危機感を感じていた。
「いつか出ていくときに困らない程度にしてくれよ」そう言った。
「は~い♪」
「……」
*
(今日は楽しかったなぁ……)
マギーはにやけながら深夜、屋根裏部屋から出てきた。
歓迎会で、ヘンリーがちょっと気の利いたことをしてくれたおかげでマギーはとても幸せな時間を過ごした。
浮かれて少しだけお酒を飲んだマギーがふらついて、それを見たヘンリーが「先生、マギーに肩を貸してやって」と言ったのだ。
たまたまマギーの傍にいたカインは当然のようにマギーに肩を貸してくれ、なんなら腰に手をまわして支えてくれた。
(先生の手……優しかったな……)
そんなことを思いながら食堂に降りてきたのだった。
(喉が渇いたわ……。あら?)
そこには先客がいた。
「珍しいわね、エズラが一人酒なんて」
「マギー……」
「なぁに、何かあったの?」
マギーは水を入れたコップを持って、興味津々でエズラの隣に座った。
はじめは「なんでもないよ」と言っていたエズラだったが、しだいにその理由を語った。
「えっ、例の彼女と別れちゃったの?」
「……はぁ……」
「理由は何なのよ」
「会えない時間が多くなって、なんとなくそうなった」
「遠距離ってそうなるのよね~」
マギーにそう言われて、内心エズラは(マギーにそんな経験あるのかな?)と思った。
「またいい出会いがあるわよ。そう落ち込まないで!」
「ありがと」
「あっ、言っとくけど、私とクリス……じゃなかったジャンはダメだからね。ジャンにはキースがいるし、私も……」
「はいはい、カイン先生だろ」
「なんで知ってるのよ」
「他に誰がいるんだよ。ヘンリーのわけないし」
「……」
「カイン先生は難攻不落な感じするけどな。まぁ頑張れよ」
「嫌なエズラ」
「なんだよ、事実だろ。脈あるのかよ」
「……先生だって男だもん」
「……」
(確かにそうだけど……。でも……)
普通の女性ならあきらめてしまいそうなタイプのカインだが、マギーの性格なら可能性はあるかもしれない……そう思ったエズラだった。




