戸惑い
マギーが魔導士の館で暮らすようになって、ようやくクリスにも前のような笑顔が見られるようになった。
マギーの明るさと華やかさが館を明るくし、穏やかな雰囲気が流れた。
クリスにも姉のようにあれこれ世話をしてくれた。
「もっと食べなさいよ。女の子はちょっとくらい太ってる方が可愛いのよ」
「……」
「お風呂、チャチャっと入ってきなさいよ。私、次入るから」
「あっ、うん」
そんなマギーとクリスのやり取りを見て、カインは安心した。
そんなある日。
魔導士の館の庭で自主練習しているキースを、たまたま通りかかったクリスが見ていたときのことだ。
気を集中しているキースの周りの空気が震え、小さな竜巻のような風が起こった。
それ以上は気が持たなかったが、キースは汗びっしょりだった。
クリスは思わず駆け寄って彼の袖をつかんで喜んだ。
「すごいね! もうそんなことまでできるなんて」
「……」
クリスはキースの困った表情に気づいて戸惑った。
「どうしたの?」
「こんなこと、エズラたちにもやってんの?」
「こんなことって?」
キースの視線は自分の服をつかんでいるクリスの手にあった。
「あっ……」とっさにクリスは手を離した。
「俺……バカだから気になっちゃうし、またそれで落ち込むんだ」
「……」
「クリスにとってはなんでもないことでも」
クリスはいつものキースと違うのが不安だった。
「エズラたちにもこうやって触れてんのかと思うとたまらない」
「……」
キースは勘違いしていた。
確かに、今までクリスは自分がどんな風に見られているかわかっていなかった。
でも、最近のクリスは気をつけるようになったし、他の男に対しては、どこか警戒心を持つようになっていた。
「何言ってんだろ俺……」
(キースが怒ってる?)
「クリスは……女の子の自覚をもっと持ってくれないと……俺、心配で。ガードが甘すぎるんだよ」
「……」
キースは、クリスが求めてくる友情と自分の想いとの葛藤に苦しんでいた。
同時に、クリスの無自覚すぎる態度に苛立っていた。
それがなんとなくクリスにも伝わった。
(キース……)
そして、あることがクリスの心に浮かんだ。
(キースはあきらめようとしてる……?)
そう思うとクリスの胸はズキンと痛んだ。
まるで女の子のクリスの痛みのように。
(キースが離れてく……?)
わけのわからない不安からクリスは自分でも思ってもみないことを口走っていた。
「キースには女の友だちはいらないってこと?」
「えっ……」
「恋人じゃなきゃ、そばにいてはいけないってこと?」
「……」
「キース以外の人になんか触れられないし、触れられるのも嫌だ! 安心できるのはキースだけなのに、なんで友だちでいてくれないの? キースだけなのに……」
ポロポロ泣き出したクリスに、キースはどうしていいかわからなくなった。
「友だちとしてずっとそばにいたい。他にいない……」
「……」




