変わらぬ想い
(前までは平気だったのに。なんでだろ、エズラが怖い)
クリスは、カインが帰ってきてからも様子が変だった。
カインもなんとなく館の雰囲気がおかしいと感じたが、それが何なのかはわからなかった。
庭でボーっとしているクリスを見て心配になったカインは声をかけた。
「留守中になにか変わったことでもあったのか?」
「えっ……。あっ、いいえ……」
様子のおかしいクリスにカインが「熱でもあるのか?」と額に触れようとすると、怯える様子を見せた。
「私が怖いか?」と再び問うカインに、クリスは必死でかぶりを振った。
(言えない……先生が怖いなんて。そしたらまた誤解される。そうじゃないのに)
「そうか……」
(エズラだけでなく、ヘンリーやカイン先生まで怖いって思うなんて……どうして)
不意に涙が出てくるクリス。
(なんで涙が……なんで怖いんだろう)
深いため息をつくカイン。
それを見て、カインを傷つけたのではないかと思ったクリスは言ってしまった。
「違うんです。先生だけじゃなくて、エズラもヘンリーも……人が怖いんです」
「……」
「なんでかわからなくて……」
動揺するクリスを見て、ようやくカインはアクセルのときの恐怖がまだ若い弟子の中に巣食っていることに気づいた。
華奢な体で精いっぱいやせ我慢してきた愛弟子の姿を見て、カインは思わず抱きしめたくなった。
が、思いとどまった。
「お久しぶりです。遠征から戻ってきました。今日もよろしくお願いします」
そこへキースが現れた。
「どうした!? クリス……?」
カインの前で元気なさそうにしているクリスを見て、キースは思わず駆け寄った。
「キース……」
(どうしてだろ。キースの存在に安心してる……)
「泣いてるのか?」
心配そうにクリスをのぞき込むキース。
「カイン先生、クリスは……」
そう言ったキースと、言われたカインは次の瞬間、二人とも驚いた。
「クリス……?」
クリスがキースの胸に体を預けたからだった。
「えっ……」
カインの手前、キースは戸惑った。
辺りに甘い花の香りのような匂いが立ち込めた。
「……」
カインは何も言わずにその場を立ち去った。
*
「えっと……クリス?」
両手をどうすべきか迷うキース。
抱きしめてもいいのか、そっとするべきか。
「……!!……」
そのとき、キースはなんとも言えない感覚に包まれた。
(なんだ……今の)
(クリスの柔らかい気がフワッと俺にまとわりついたような不思議な感覚)
(それにとてもいい匂いがする)
それにはクリスの方も気づいた。
(あっ……この感じ……そうだ、キースはもう魔導士だから……)
「クリス……」
「あっ、待ってキース!」
(これ以上近づいたらダメだ)
クリスはとっさにキースから体を離した。
「どうして逃げる?」
しかし、すぐに手を掴まれた。
その瞬間、クリスの方にもキースの気持ちが伝わった。
(クリスを守りたい)
(傷つけたくない)
(自分の欲求のままに自分のものにしたくない)
(クリスが友情だけを望むならあきらめた方がいいのか……)
苦しいほどの葛藤がそこにはあった。
(でも最終的にクリスの笑顔が見られればそれでいい、それが一番安心する)
「キース……」
(あれ……なんで涙が出るんだろ……今度のは怖いからじゃなくて……)
「ううっ……」
クリスは嗚咽するほど泣いた。
心の底からホッとする安心感によって。
「どうしたクリス!?」
(キースはいつでもこんな純粋な愛情をずっと……)
そう思うと涙が止まらなかった。




