迎え
「お姫様、お迎えに上がりました」
エズラは王宮の馬車でダンの家にクリスを迎えに来た。
馬車といっても、御者もおらず、一頭立ての軽装馬車だった。
クリス一人で荷物も少ないのでエズラ自身が馬車を走らせてきた。
クリスはローブの下に襟付きの白シャツと黒いズボンをはいていたのでお姫様感はなかったし、髪の毛もヘラに切ってもらってスッキリとしていた。
昨日、母マリアがダンの家を訪れて、城へ帰ることになったクリスと会っていた。
そのときに母から魔導士のローブ以外の衣類を受け取っていた。
すべて新調したものだった。
「……なんでエズラが?」
「カイン先生がジャンを一人にするな、って」
「でも、なんでわざわざ王宮の馬車なんかで」
「カイン先生、古代語の翻訳の仕事も請け負ってるだろ? 忙しいから王宮の馬車も借り放題になってるんだ。ちょっとその特権を利用してみた」
「別にいいのに、馬車なんて……」
ダンとヘラはクリスに渡す荷物を持って現れた。
「これ、魔導士の皆さんで食べて。昨日、町で買ってきたの」
「うわっ、美味しそうなソーセージ。いいんですか?」
エズラはクリスの代わりにカゴいっぱいに入った土産を受け取り、座席の端にそれを置いた。
「クリス、ときどき遊びに来てね」
そう言ってヘラはクリスを抱きしめた。
「色々とありがとうヘラ。ダン先生も」
「ああ。気をつけてな。カインやヘンリー、キースにもよろしく」
「はい。お世話になりました。お二人ともお元気で」
「またね」
ダンとヘラは手を振った。
「おいおい、ジャンは後ろだろ」
クリスが御者台の自分の横に座ったのでエズラが言った。
「だって、おしゃべりができない」
「ったく」
「じゃあ、ダン先生、ヘラ、ありがとう」
そうして、クリスはダンの家を出発し、城の魔導士の館に向かった。
「……カイン先生がマギーに、ジャンが女の子だってこと話してくれたんだけど、マギー、君のこと知ってたんだね。後宮の女医見習いとして潜入してたなんて知らなかったから俺とヘンリーはびっくりしたよ。そんな依頼受けてたんだ」
「うん……極秘のね」
内心エズラは(女官服のジャンを見てみたかったな)と思ったが口には出さなかった。
なんとなく嫌がるような気がしたからだ。
魔導士の館へ帰る道中、クリスとエズラはお互いの近況報告をし合った。
エズラはマギーの反応を教えてくれた。
「……極秘なんて言葉、マギーの大好物だからさ。詮索好きが刺激されるんだろうな、きっと。色々と聞かれて困ったよ」
「フフッ」
「しかもさ、マギーは君の本当の名前まで知ってるだろ? だから先生に聞いてみたんだ。あのおしゃべりのマギーに本名まで知られて大丈夫かって」
「あっ……」(そうだった)
「そしたら先生、親が愛情つけてくれた名前はそれだけで守護がある、って言うんだ。魔除けのようなものだって」
「そうなの?」
「なんだって。で、もともと黒魔導士が悪魔と交信するときに使った名前があって、人に知られちゃいけない名前ってそっからきてるんじゃないか、って。先生の見解なんだけどね」
「……」
(悪魔と交信するときの名前……)
「俺たちには悪魔と交信するための名前なんてないから気にしなくていいって」
「……」
エズラは思い出したように「あっ」と声を上げた。
「そうだ。君を救ってくれた彼は今、カイン先生について魔導士の訓練を行ってる」
「キースが魔導士の訓練?」
「うん……。彼、剣の腕前がいいからカイン先生が魔道剣士を目指せるんじゃないか、って」
「魔道剣士?」
「聖剣とか魔剣とかって聞いたことある? そういうのを扱う剣士らしいよ」
「そう……なんだ」
(キースが魔導士に……。もしかして……)
クリスは自分のせいではないかと思った。
(キース……)
「彼、マギーの質問責めにあってたよ。『キャーかっこいいわね。クリスの幼なじみ?』とか『ふ~ん、そんなに兄弟いるんだ。いくつといくつの子がいるの?』とか。キースもさすがに困ってたな」
「ハハッ……(マギーらしいな)」




