気づき
ヘラが帰ってきたので、マリアは改めてお礼を伝えた。
「いいのよ。おかげでダンと過ごす時間が増えたし」
そういうヘラにダンは肩をすくめた。
クリスとヘラが台所でお茶やお菓子の用意をしている間、マリアは居間でダンと話をしていた。
「クリスの守りは僕かカインか、エズラやヘンリー……今のところ仲間の魔導士で見守ることにした。キースもこれから魔導士の修行をすることになってる。知ってたかな?」
「母親のスザンナから聞いたわ。彼女はキースから手紙をもらったみたいだけど、あまりよくわかってない感じだった。魔導士さんのお手伝いかしら?って」
「……とにかく。クリスを一人にしない」
「ありがとう、心強いわ」
「カインには会ったっけ?」
「ええ。この間、初めてカイン先生にお会いしたわ。店にわざわざ来て下さったの。とても申し訳なさそうにしてた」
「そうか。気になってるんだな。本当は彼自身がクリスの救出に向かおうとしてたんだが、僕が止めたんだ」
「えっ……」
「彼は僕よりいくつか年下の城魔導士の後輩っていうのは知ってるだろ?」
「……ええ」
「城の魔導士の後任に彼が来たとき、引き継ぎのために少しの間、寝食を共にした。そのとき、彼がうなされているのを目撃してね。そのとき、彼が光だけでなく、闇の声も聞こえる者だとわかったんだ」
「それって……」
「悪魔は明け方の夢に乗じてささやく、って聞いたことがあるだろ? 肉体を持たない闇の生き物たちは地上の媒介者を欲する。魔力があり、精霊や悪魔の声が聞こえ、そして何より力の強い者を選ぶんだ」
「……」
「彼は克己心の強い男だから大丈夫だろうが……。あまり闇の勢力の強い領域に、長く留まるのは得策じゃないと思ったんだ。彼の精神が持たないかもしれないと思った」
ダンは思い出したように「それと……」と言葉をつないだ。
「君は僕にクリスが城魔導士を目指すのは幼なじみのキースに会うため、と言ったが……。僕が見る限り、キースの片思いのように感じた。クリスの彼への思いは恋心というより友情のような……?」
「ええ、あなたの言う通りよ、ダン」
「……」
「……女の子ってね、時として本当に好きな人の親友になりたがるものよ。それも片思いって言うんじゃない?」
マリアは魔導士であるダンやカイン先生がクリスにかけられてる魔法に気づかないのはおかしいと思ってた。
「じゃあ、また来るわね」
クリスは玄関先までマリアを見送った。
家に帰る道々、マリアは考えた。
(私はとっさにクリスに呪いだと説明したけれど、正確には試練なんだわ)
(あの精霊の池の主と交わした契約は、一方的なものではなくクリスの意思によって成立してる)
(私は母親だから子供の異変に気付いたけど……)
(ダンやカイン先生は、元の女の子のクリスを知らないから内面の違いに気づけなかったのね)
(キースは……気づけるかしら、あの子の魂に)




