黒と闇
「エズラはダンの話を聞きに行かなくていいの?」
そう聞くクリスに、エズラは首を振った。
そして次のようなことを言ったので一瞬、クリスはとまどった。
「マギーには君が女の子だってこと話すの? 黙ってるの? もし君がいいなら俺らからマギーに話そうか? 先生にも相談して」
「……うん」
もう、黙っていない方がいいと思った。
「わかった。先生の意見と、あとは頃合いを見てみるよ」
「いろいろとありがとう……。エズラごめんね、本当は起き上がれるんだけど、ヘラの服を借りてるからそれを見られるのが恥ずかしくて」
「気にしてないよ」
「でも、なんだかすごく眠くなるときもあって。なんでなんだろう。カイン先生が来てから、本当は動きたくて仕方ないんだけど。ヘラの手伝いもしたいし、早く元気になりたいのに思うように体が動かなくて」
そう言われてエズラは気づいた。
「あっ、そうか」
「なに?」
「ダン先生が君にかけてる魔法」
「魔法? それって回復魔法でしょ?」
「それだけじゃないんだよ」
「……?」
「君がなぜそんなに眠気に襲われるかわかる?」
「……えっと……」
「ダン先生が君に黒魔法をかけてるからだよ」
「えっ……」
(黒魔法……)
「相手の強い気を抑止し眠らせる黒魔法。それには、興奮や強い不安を鎮静化する作用があるんだ」
「……」
「君が無駄なエネルギーを放出して疲れないよう、無理やり眠らせてるんだ」
(そうだったんだ……)
「強制的に休ませてるんだよ」
「エズラ、ちょっと聞いていい?」
ついでに、気になっていたことをエズラに聞いてみた。
「なんだい?」
「あの海賊退治のとき、どうして相手が黒魔導士だってわかったの?」
「……カイン先生に、ジャンの前に魔導士が現れたら用心しろって言われてたんだ。魔法の効きが悪かったら黒魔導士だって。黒魔導士は奪うのが特徴だからって」
「奪う……」
「ダン先生は魔導書を使った授業はしなかったの?」
「魔導書の複写本は少しは見たけど、ほとんど実践が多くて。選抜試験に間に合わせるために急いでたから……」
「そうか……。今度、カイン先生の許可もらって原書を開いてみるといいよ」
「あっ、うん」
「魔導書に植物、地、水、火、風、動物、鉱石……いろんな本があるけど、それ全部魔法のエネルギーの元なんだよね。俺たちはそこから力をもらってる。四大元素やこの世のあらゆるものから借りてるエネルギーなんだ。借りものだから何も奪っちゃいけない。俺らのこの体だってそう」
(借りてるだけ……)
「黒魔法はあくまで人間を自然の中の一部として見てる。特別視はしてない。死は必ず訪れるもので、やがて新しい生命を生むための礎にもなる自然なことだって」
(自然の一部……)
「俺たちも草木を枯らす黒魔法を使うときがあるけど……マギーにいずれ雑草を刈れって言われたときに使いそうだけど。彼女、俺やヘンリーより二つか三つ年上なだけなのに、なんかすげぇ年上みたいな物の言い方するから抗えないんだよなぁ」
クリスはクスっと笑った。
「ごめん、話を元に戻すけど。黒魔法で除草しても、やがてまた草木が生えるだろ? 枯れ木を養分として。俺の師でもある伯父は黒魔法は冬のイメージだって言ってた。さっき言った眠りもそう。エネルギーを溜めるために休む。停滞しているように見えるけど、それはやがて春が来るための準備なんだ。循環のために必要な休止。循環の中の死は生を産むための再生エネルギーになるんだ」
(循環……)
「でも、闇魔術は自分が主だと思ってるんだ。すべて奪う。闇魔術で草木を枯らすと土のエネルギーまで奪っちゃうから何も生えなくなるんだ。循環しない、止まってる死なんだ。闇は奪うだけで何も生まない」
「エズラって……意外と考えてるんだね」
「なんだよ、それ」
「先生になれそう」
「褒めてんのか?」
「ふふっ」
「早く元気になれよ。……この前なんか、マギーがヘンリーのタオルを無断で捨てたせいでケンカみたいになって大変だったんだ。先生含めて俺たち三人だけじゃ、あのマギーのエネルギーに対抗できないから」
「アハハハ……」
エズラはクリスの笑い声を聞いて、やっと安心したような気持ちになった。




