エズラとヘンリー
「エズラとヘンリーが今日、お見舞いに来るの!?」
ダンからカインの伝書を受け取ったクリスは慌てた。
「どうしよう……あっ、着替えなきゃ!」
「その心配はないよ」 ダンは言った。
「でも……」
「カインは二人にジャンが女性だってこと伝えてるそうだ」
「えっ……」
*
「だいたいのことはカイン先生から聞いた。大変だったね」
エズラはベッド脇に並べられた椅子の一つに座って言った。
「いやぁ、ジャンが女の子だったなんて……なぁ。あっ、クリスだっけ?」
そう言いながらヘンリーの方はなんだか落ち着かない様子でエズラの横に腰をおろした。
「ジャンでいいよ……」
クリスはヘラの室内着を借りていたので、恥ずかしさもあって掛け布団を首のあたりまでひっぱって身を隠していた。首の傷には包帯を巻いていた。
「おっかしいなぁ。俺の女性センサーは成人女性にしか反応しないのかな?」そう言うヘンリーに対して、
「な~んてね、ちょっと嘘くさいか」とエズラ。
「えっ……」
「俺たち、早い段階でジャンがクリスって女の子だってことカイン先生から知らされてたんだよな、ヘンリー」
「……ああ」
「……!!……」
「でも、知らないふりをしろって言われて……けっこう苦労したよ、君って無防備だから」
ヘンリーは笑った。
「着替えをしてるときとか、寝てるときとか、部屋にはぜったい入らなかったろ?」
エズラに言われて、そういえば……とクリスは思った。
「男装してまで魔導士を目指すなんて何かよっぽどの理由があるんだろうなって、ヘンリーと話してたんだ」
「……」
「魔導士でいるときはジャンって呼ぶから」
ヘンリーにそう言われて笑顔を見せるクリス。
「……うん」
「エズラとも言ってたんだけど、女の子ってわかっても……俺たちにとっては相変わらず、仲間のジャンなんだよ」
「……」
クリスは泣きそうになった。
「俺たち、ジャンのこと魔導士として認めてるから」
エズラの言葉にヘンリーもうなずいた。
「……ありがとう」
エズラとヘンリーは話をしていて、カインから聞いていた、クリスの左手首にうっすら残るアザに気づいた。
しかし、それには二人とも触れなかった。
「黒魔導士ってどんな奴なんだろうな?」
ヘンリーの問いにクリスは答えられなかった。
「……」
(カイン先生はまだ黒魔導士の正体は知らせてないんだっけ……。言わない方がいいんだよね)
クリスの無言に、エズラはきっと思い出したくないんだろうと思い、とっさに話題を変えた。
「そんなことより、さっきダン先生と奥さんのヘラに初めて会って挨拶してきたんだけど、ジャンを救ったのは幼なじみのキースって騎士なんだってね」
「あっ……うん」
さっき、ダン夫妻と挨拶したときに、クリスがまだ完全に回復していないと聞いてエズラは心配していた。
そのときダンに聞いた。
『けっこう大怪我だったんですか? 回復が遅いってことは』
ダンは『黒魔導士に必死に抵抗しようとしてエネルギーを消耗してしまったみたいだ』と言った。
(そうだよな……マギーはチャチャっと魔法って言うけど、けっこう気力を使うもんな。それは体力も奪うし)
クリスは闇魔術に対抗するために防御魔法を使ったのだろうと思った。
しかし、黒魔導士の屋敷ではすべて無効化されたのかもしれなかった。
魔法は気力も体力も奪う。
『だから僕はクリスにある魔法を使った。君たちはわかるかい?』
そのときヘンリーは回復魔法だと言ったが、
『回復魔法はもちろん使ってる、だがもう一つかけた』とダンに言われた。
『クリスを見ればわかるかも』とも。
ヘンリーはそのことをすっかり忘れているのか気にしていない様子でこう言った。
「ダン先生って気さくな人だね。イメージと違ってた。剣の研究をしてるっていうから、ちょっと向こうで話を聞いてきてもいいかな?」
クリスが「いいよ」と言ったので、ヘンリーは「じゃあ」と言って部屋を出た。




