夢
「先生って考え過ぎて動けないタイプでしょ?」
「マギーあれほどノックしろと……」
「しましたよ。また、そんな気難しそうな顔して。ときどきため息ついてらっしゃるでしょ? 原因は誰なんです?」
「誰って?」
ポカンとした表情でマギーを見るカイン。
「えっ、もしかして私!?」
「何を言ってるんだ」
カインはマギーがクビにされると勘違いしているのではないかと思った。
「違う、君はよくやってくれている。少し、おしゃべりが過ぎるが」
(な~んだ、恋の病じゃないのね……残念)
「あっ、もしかして! この前、私が捨てたボロボロのタオル……あれ先生のだったの?」
「そんなもの知らない。だから君には関係ない。……明け方の夢が……」
「夢……?」
「なんでもない」
「夢がどうしたんですか?」
「気にしなくていい」
「あっ、もしかして怖い夢なんでしょ? フフッ」
「何だ?」
「だって……。まるで小さな子供みたいで可愛い♪」
「……」
マギーは質素なカインの部屋を見て何か感じるものがあったらしく、しばらく無言になった。
「マギー、用がないならもう……」
「父は私が13歳のときに亡くなりました」
「……」
「たった一人の母も、私が15歳で後宮女官として働き始めて数年後に亡くなりました。で、今は身寄りがなくて、ここに置いてもらってるんですけど」
(何が言いたいんだ、マギーは)
「でも、私、生きてる間は楽しく生きたいんです。それが私の夢なんです。その方が親孝行でしょ?」
「……」
「父や母が天国から見てるなら、自分を幸せにしなくちゃ……って最近、気づいて」
「……」
「カイン先生は誰かに心を開いたことがある? 誰かを心から大切に思ったことが」
「……」
「心の中に大切な存在がいるって強いと思うんですよね。守りたいって思うから。先生見てたら、そんな人いるのかな?って。大きなお世話かもしれないけど。なんだか心配になっちゃって」
ときどきマギーは普通の人なら言わないことを面と向かってズケズケと言った。
特にカインのような地位がある人間に、そんなことを言う者は今まで皆無だった。
「あ~また私ったら言い過ぎちゃった……先生、気にしないで。ごめんなさい」
そう言ってマギーは部屋を出て行った。
*
カインと家族の関係は、他の人たちとは異なっていた。
遠くの村に住む高齢の母と、その母と一緒に住む姉家族がいる。
しかし、彼らは魔力のない普通の人間だ。
魔導書を引き継いだ家に生まれた亡き父は魔導士になることを拒んだ。
しかし、カインの素質を見抜いた祖父によって彼は魔導士として育てられた。
『この子には力をコントロールする訓練が必要だ』
カインが小さい頃から『声』を聞く者だというのは家族も知っていた。
『今のうちに正しい道に導かないと手遅れになる』
脅しともとれる祖父の言葉に誰も逆らえなかった。
両親や姉から引き離され、厳しい祖父の元で育ったカインは、血のつながった家族に対してもなかなかすべてをさらけ出すことができなかった。
カインの先祖は、一族に黒魔導士を出してしまったことを恥じ、過去を抹殺した。
カイン自身もまた、これまでに何度となく悪魔からの誘惑を受けた。
何度か負けそうになり目覚めてから落ち込んだ。
自分もいつか闇に取り込まれるのではないかという不安に苛まれた。
そして家族を持つことを恐れた。
しかし、不思議なことに、マギーが現れてから、彼女の明るさに救われている自分に気づいた。
彼女といると憂鬱な気分が和らぐ気がした。
彼女の太陽のように明るいオーラが闇的なものをはねのけているような気がした。




