カインの訪問
伝書によって無事にクリスが戻ったことを知ったカインは深い安堵を覚えた。
とりあえず回復するまでクリスはダンの家で療養することになり、ヘラもその間は店を休んでクリスの世話をしてくれることになった。
さっそくカインはダンの家を訪れていた。
「ジャ……クリス、すまない。あっ、寝てていい」
ベッドで横たわっていたクリスが起き上がったのでカインは慌てて言った。
「……なんでカイン先生が謝るの?」
「……」
思ったより元気そうでホッとするカイン。
聞いていた首の傷は、包帯を巻いてあったため、どのくらい癒えているのか確認はできなかった。
ヘラの話によると、ダンの回復魔法とクリス自身の回復力で徐々に癒えつつあるとのことだった。
カインはクリスの左手首にうっすら残る赤いアザに気づいた。
「クリス、君はどこでアクセルと接触したんだ?」
そう聞くカインに、クリスは事の顛末をすべて話した。
「……そうか。私のせいだな。私が君にウルヒ王子の護衛を頼んだせいで……」
「違います! 自分が勝手なことをしたから……先生のせいじゃありません!」
「……」
カインは1通の手紙をクリスに差し出した。
「ウルヒ王子から女医見習いクリス宛てだ」
「あっ……」
結局、ウルヒ王子を見たのはラビニア王女とのパレードが最後だった。
お祝い事で休みをもらっていたので、ウルヒ王子がカインに会いに来たというのも後で知った。
ぜひ改めてお礼を言いたいので会いに来て欲しい、という内容だった。
「女医見習いクリスは里下がりして、もう城にはいない、と返事しようと思うのだが」
クリスはうなずいた。
「それで……いいです」
「……」
カインの様子で、アクセルのことに責任を感じているのではないかと思った。
クリスは話題を変えようと、とっさに自分でも思ってもみないことを口にした。
「カイン先生は……偽名なんですか?」
そう言ってから(しまった)と思った。
「あっ、ごめんなさい。いいんです、言わなくても!」
慌ててかぶりを振った。
「……カインは愛称のようなものだ」
「えっ……」
「本名はもっと複雑で長い。二つの名をつなげたものだ」
「……」
「私の家には代々、表と裏の名があって、両方で一つの名を表す。表は光の名で、カインはその光の名の一部だ。裏は闇の名。今まで一度も口にしたことはない。闇の名は口に出すなと言われた。書に記すときは普通の人には読めない文字で書かれている」
「読めない文字……」
カインはこのとき、クリスの表情に気づかなかった。
アクセルにも同じように光の名と闇の名があるのか?と考えていたからだ。
カインの一族から出た黒魔導士は闇の名で交信したと言われている。
「先生ごめんなさい」
クリスが申し訳なさそうにそう言ったのでカインは微笑んだ。
「聞かれなかったから言わなかっただけだ。気にするな。それと……」
「黒魔導士の正体は今のところ極秘だ。ダンやヘラ、キースにもそう伝えてる。いずれエズラやヘンリーたちにも明かさなきゃならない時が来るかもしれないが、今は彼らを巻き込みたくない。魔導士や魔力を持たない人間の中には、黒魔導士に対して過激な思想を持っている者もいる。恨みを抱いている者も。相手は隣国の貴族だ。国と国との戦争に発展しかねないから慎重に動くしかない」
*
クリスに会った後でカインはダンの部屋で少し話をした。
「これ、君の家のマスクだろ? クリスが身に着けてるんだな」
そう言ってダンはマスクを返してきた。
「カイン……これもあの屋敷で拾った」
ダンが持っていたのは古い腕輪だった。
「……」
「これをクリスにつけて意のままにしようとしたんだろう。古代のものだ。ちょっと調べてみてくれないか」
「……わかった」 カインは少し複雑な気持ちで呪われた腕輪を受け取った。
「母親には知らせたのか?」と聞くカインに、
「クリスがもう少し元気になってからでいいって。心配させたくないからって」
そうダンが答えた。
「まだアザは残ってるんだな……」
カインの胸は痛んだ。
「それなんだが、カイン。君に頼みたいことがある」




