提案
「その……これは提案なんだが」
庭から戻ると、ダンはキースに言った。
「僕は昔、城魔導士をしていたんだ。騎士団にも知り合いがいてね、今はもっと偉くなってるみたいだ。君が良かったらだけど、少し休暇をとらないか? 僕が取り計らってあげるよ。その間、実家からここへ通うといいよ」
「えっ……」
「クリスの気持ちが安定するまで、ここで療養させようと思う。もちろん、その間はヘラについていてもらうけどね」
「……はい。ありがとうございます」
「君やヘラのように魔力のない人間の方が、こういう時は魔除けになるんだ」
ダンの言葉を受けて、キースは気になっていたことを思い出した。
「その……騎士たちに使った忘却魔法……それをクリスに使うことはできないんですか?」
キースはクリスからアクセルの記憶を消してあげたいと思っていた。
「……」
ダンはしばらく黙ったままだった。
そのとき、クリスが脱衣所から恥ずかしそうに出てきた。
「あっ……」
ヘラのワンピースを着たクリスを見て、キースは思わず赤面した。
「ちょっと大きいけど……。あれ、ヘラは?」
クリスはキョロキョロした。
「今、台所で料理を作ってる」
「あっ、じゃあ手伝ってこなきゃ」
そう言うクリスに、ダンもキースも慌てて、「いや、クリスはいいから!」と叫んだ。
「とにかく、ゆっくりして。元気になったら手伝ってもらうから」
「……」
キースはクリスを見てニコッと笑った。
「ダンが昔からの知り合いの騎士団の偉い人に取り計らってくれるみたいで、休暇をもらう予定なんだ。家からときどき見舞いに来るよ」
「……うん」
「でも、馬だけは返してこなくちゃ」
クリスは思わず笑ってしまった。
それを見て、キースも笑顔になった。
「あっ、そうだ。クリスのお母さんには俺から伝える?」
そう言うキースにクリスは少し考えた。
「う……ん。どうしょう。心配させるかな。ちょっと待って……この首の傷が癒えるまで待って」
「……」
キースはダンの方を見た。
「……まぁ、そうだな。もう少し、首の傷が目立たなくなるまでマリアにはまだ言わないでおこう」
クリスが疲れて眠ってしまった後、キースは帰ることにした。
「キース、さっき言ってたことだけど」 そうダンに声をかけられた。
「えっ……」
「忘却魔法のこと」
「あっ、はい」
「忘れない方がいいと思うんだ、女魔導士である以上」
「……」
「警戒心はあった方がいい。クリスには酷なことだが、自分で身を守るためにも」




