カインとマギー
「この前、乗り合い馬車ってのに初めて乗ってみたんです。先生聞いてます?」
「……聞いてる」
「こんな話は退屈? ときどき、ため息をついてらっしゃるでしょ?」
「……そうかな。悪い。話は聞いてる」
カインは館の食堂で、マギーと向かい合ってお昼の食事をとっていた。
「で、その馬車なんですけど、たくさん人が乗ってて。でも、朝早いからみんな眠そうで、私も眠かったし、誰一人しゃべってなかったんです」
「……」
「そしたら、隣の席のおばあさんが、私に話かけてきて。でも、ほとんど一方通行っていうか、おばあさんは自分のことばっかりしゃべるんです」
まるでマギーのようだ、と内心カインは思った。
「眠たいし、うん、うん、って話を聞いてたんです。車内はおばあさんの声だけが響いてて、朝から元気だなぁって思ってたんです」
「……」
「けど。急におばあさん、私に目が覚めるようなことを言ったんです。何て言ったと思います?」
「……さぁな」
「わたしゃ、今から寝るから静かにしとくれ、だって」
「……」
「案の定、おばあさんが眠ったら、車内はシーンってなったわ」
「……」
「なんか既視感あるなぁって思ったら、うちの亡くなった祖母に言動がそっくりだったんです」
「……」
「……おばあさんて、どこも似たような感じなんですね」
カインは思わず吹き出してしまった。
「なに、先生、どうしたの?」
*
マギーはカインの館を出て、城下町で買い物をしてから自宅に戻った。
夜になると、今日の出来事を思い出してあれこれ考えた。
(カイン先生、急に笑い出してびっくりした。でも、理由は教えてくれなかったのよね)
(でも、洗い物を手伝ってくれたりして優しかったな……)
マギーが思わずお皿を割ってしまったとき、カインは「危ないからいい」と言って、片付けを代わりに行ってくれた。
(カイン先生って女性の扱いには慣れてる感じなのよね)
マギーは後宮での経験から耳年増ではあったが、実際には男性との恋愛経験には疎かった。
脳内ではたくさん騎士たちと恋愛したが。
(カイン先生のあのため息……もしかして好きな人が?)
考えだすと妄想が止まらなかった。
しかし突然、睡魔が彼女を襲ってきた。
(とりあえず眠いから寝よっと。今度、先生を問い詰めなきゃ)




