跡
キースたちと分かれて、ダン夫妻はアクセルの別邸にやってきた。
ヘラは平気だったが、ダンは気分が悪くてしょうがなかった。
(クリスもこんな状態だったのか……?)
ヘラは屋敷の扉が開けっ放しなのを不思議に思った。
破壊されている形跡はない。
「キースはよく黒魔導士の屋敷に入れたわね」
ダンもそれを不思議に思った。
「これは……」
彼は玄関を入ってすぐ、床に置かれたローブに気づいて、それを手にとった。
(……クリスが身に着けていたローブ?)
ダンはそのローブが、キースを屋敷に招き入れたのではないかと考えた。
「とりあえず中を確認しよう」
二階では、壊された扉の前に、今度はマスクが落ちていた。
(カインの家に代々伝わるマスク……)
マスクを拾ったダンはその部屋の傾きかけたドアを開けた。
足を踏み入れた彼は、「入るな!」と叫んだ。
ヘラは立ち止まって、扉の外で待機した。
「でも、大丈夫なの?」
ヘラの心配そうな声にダンは「僕があまりに戻るのが遅かったら見に来てくれ」とだけ言った。
「……!!……」
そこで二人の騎士と遭遇した。
めちゃくちゃに争って破壊された部屋……
大小の剣と血……
そして床に描かれた魔法陣……
部屋全体がメラメラと青い炎のようなものに包まれているのは呪術の残像か。
そのあまりの禍々しさにダンは思わず吐き気を催した。
呆然とする二人の騎士を見て、機転を利かしたダンが彼らに忘却魔法を使った。
その上で、こう暗示をかけた。
「アクセル子爵は体調不良のため、今回の護衛は中止になった。キースとジャンは緊急の用で先に帰った。他の者たちにも伝えて解散しろ」
窓は割られ、床に落ちていた血がそこへ続いていた。
下を覗いてみたが、人の姿を認めることはできなかった。
そのときダンは、部屋の片隅で何かがキラッと光ったのに気づいた。
「闇魔術の宝庫だな、ここは」
ダンは二人の騎士が去ったあと、部屋の外にいたヘラにローブとマスクを見せて言った。
「この二つがキースのために玄関の扉を開け、クリスのいる部屋を教えたんだろう」
「じゃあ、ローブとマスクがキースを招き入れたの?」
「いや、それだけじゃない。キースの気迫がこの二つに力を与えたんだ」
「まぁ……」
二人は一緒に屋敷の外へ出た。
「ちょっとここで待っててくれないか」
ダンはクリスのローブをヘラに預け、門のところで待つよう言った。
彼は念のため、屋敷の裏側に回ってみた。
ちょうどあの部屋があった辺りの下の地面に、点々と血が続いていた。
たどっていくと、近くの林道の手前で止まっていた。
(ここで何者かを待たせていたか)
馬車のわだちの跡があり、それはアクセルが逃げおおせたことを物語っていた。
ダンは屋敷をぐるりと回って火炎魔法を唱えた。
屋敷は一瞬にして灰燼に帰した。




