正体
クリスは気分が悪くて仕方がなかった。
(吐きそう……)
手足に力が入らなかった。
アクセルは何も言わずに、クリスがまとっていたローブを外して、そのまま床に落とした。
「魔導士が身につける物には力が宿り、その者を守るそうだ」
「……」
フラフラになっているクリスを、アクセルは無理やり二階に連れて行った。
アクセルが近づくと一つの部屋のドアが開き、中に入ると自然と閉まった。
「嫌だ……離して!」
そうクリスが言ったとたん、アクセルは腕を離した。
勢いでクリスは床に倒れ込んだ。
(何この模様……)
そのとき初めて、クリスは床に描いてあるのが魔法陣であることに気づいた。
「……!!……」
(なぜ……。まさか……)
次の瞬間、クリスの被っていたマスクは音もなく外れた。
アクセルはそれを拾って言った。
「古代魔法か……。このマスクはどこで手に入れた? お前の物なのか?」
「……」
「そうか……あの城魔導士か。お前の師の名は何て言う?」
「……」
「まぁ、どうせ偽名だろうがな」
アクセルは部屋のドアを開けて、マスクを外に放り投げた。
「この屋敷では古代魔法など役に立たないぞ、女魔導士よ」
「……!!……」
(アクセル子爵が黒魔導士……エネルギーバンパイア……)
「お前にはもっといいものをやろう」
アクセルは胸ポケットから何かを取り出した。
「これを知ってるか?」
手にしていたのは、装飾性の高い腕輪だった。
鈍い光を放つ、緑や赤や青といった石がはめ込まれていた。
「古の時代に使われていた儀式用の物だ。これに俺がある術をかけた。はめたら最後、自分の意思では外せない。そして主が呼べばいつでも戻ってくる……どこにいてもな」
そう言って、その腕輪をクリスにはめようとした。
「……!!……」
クリスはとっさにアクセルの手を振り払った。
カラン! ……カラカラカラ……
腕輪は床に落ちて転がり、部屋の隅の壁に当たって止まった。
「……フッ」
アクセルは笑みを漏らした。
「先にそのエネルギーをいただこうか。少しは大人しくなるかな」
*
屋敷の外で待機させられていた騎士たちは、マントをはためかせて恐ろしい勢いで馬を走らせてきたキースを見て驚いた。
「クリス……ジャンはどこに!?」
「あっ……中に……アクセル子爵と。どうしたキース?」
キースはその問いには答えず、まっすぐ屋敷の入口に向かった。
「おい、キース! 待機してろって言われたろ!」
キースは仲間の声を無視して進んだ。
バーン!!
もの凄い音がして玄関の扉が開いた。
「えっ……」
屋敷の扉はキースが触れる前に勝手に開いたように見えた。
キースが制止を振り切って中に入っていったので、見張りの騎士たちは(伝令か?)と勘違いをした。




