不安
屋敷にはまるで人の気配がないように見えた。
(なに……ここ……)
クリスは屋敷に近づいたとたん、強烈な冷気とめまいのような気分の悪さを感じた。
(入りたくない……)
「誰も中に入れないでくれ」
そう言って、一緒に連れてきた二人の騎士を門に置いて外を監視させた。
クリスも門に残ろうとすると……。
「お前は一緒に来い」
急に態度が変わったアクセルに恐怖を覚えたクリスは屋敷に入るのを躊躇した。
「来い!!」
アクセルはクリスの手首をつかむと無理やり屋敷に連れて入った。
「痛い!」
*
ダン夫妻も馬を駆って別邸へ向かっていた。
カインに借りた馬は、精霊岩で待機していた別の騎士の馬と交換してもらった。
来るときに回復魔法を使っていたが、馬を休みなく走らせたのでこれ以上は可哀そうだと思ったからだ。
新しい馬にも回復魔法を使いつつ走らせた。
が、1頭の馬に二人で乗っていることもあり、キースには追いつけない速さだった。
「雪が降る前で良かったわね、ダン! じゃなきゃ追いつけないわ!」
そう言いながらヘラは前にいるダンの様子を気にしていた。
ダンの家を出るとき、ヘラは自分は足手まといになるのでは?と彼に聞いた。
しかし、ダンは「ついてきてくれ」と彼女に頼んだ。
「相手は黒魔導士だ。きっと罠を仕掛けてる」
ダンが言うには、その罠は敵の魔導士を惑わすものだという。
「僕の様子がおかしくなったら顔を思いっきりひっぱたいて欲しい」
そう言われた。
精霊岩を過ぎた辺りから、ダンの口数が減っていた。
必死に何かと戦っているような様子が見られた。
「大丈夫なの、ダン!」
ヘラは思わず叫んだ。
ハッとしたようにダンの頭がガクンと揺れた。
「……大丈夫だ。ありがとうヘラ」
かすれかすれにダンの言葉が聞こえた。
まだ若い木霊たちが黒魔導士の術にかけられて、ダンを道に迷わそうとしていた。
「すまない、力を貸してくれ……」
ダンは小声で呪文を唱えた。
行く手に亡霊のようにキースの姿が見えた。
森の木々たちに、ここを通った者のことを聞いていた。
「こっちの道で合ってるそうだ。親切な古木の霊がいて助かった」
二人は馬に乗り込む前にこんな会話も交わしていた。
「この状況だと怪しいのはアクセル子爵……もしそうなら、やっかいだな。よりによって貴族の子息とは……」
「闇魔術の力で他人のエネルギーを奪い、権力も金も女も欲しいまま……ってことでしょ?」




