頭巾の男
クリスとエズラが乗っていた護衛船は損傷が激しいため、二人はヘンリーのいた護衛船に乗り換えた。
「ほら、ジャン。仮面は無事だったぞ」
エズラが見つけてクリスに手渡した。
「あ……りがとう」
エズラは足が震えているクリスを見て微笑んだ。
「大事にしろよ。カイン先生にもらったんだろ」
「あっ、うん」
「このマスク……かなり古い時代の守護魔法がかけられてる。持ち主の身を守ってる」
「……!……」(そうか、だから柱に直撃せずに済んだんだ)
そこへ、ヘンリーがやってきた。
「おい気づいたか」
「ああ、頭巾の男だろ」
と、エズラとヘンリーの会話。
「どういうこと?」
クリスは二人の会話を不思議に思って聞いた。
「あの頭巾の男、魔導士だ」
(頭巾の男……?)
クリスはその男の存在には気づかなかった。
「魔法の効きが悪かっただろ? あっちにも魔導士がいたんだ。それも黒魔導士だ」
(黒魔導士……!)
「俺たちはお前の護衛でもあるんだ。カイン先生から頼まれた。必ずジャンの前に黒魔導士が現れるって」
*
海賊船ではその黒魔導士の男が海を眺めていた。
頭巾からはみ出た金髪は海風になびいていた。
(あのときの女……。そうか魔導士だったのか)
砲撃で仮面がはずれたとき、クリスは頭巾の男に素顔を見られてしまっていた。
男はククッと笑いを漏らした。
(もう女魔導士など絶滅したと思っていたのに)
「狩りには獲物がいないとな」
男は商船が去った方向に人差し指を向けた。
「魔女発見……」
*
海賊退治から帰ってからも、時おりエズラとヘンリーは黒魔導士のことを話題にした。
クリスは黙ってそれを聞いていた。
カインが王宮に呼ばれて不在だったときのことだ。
「俺たちも多少、黒魔法は使うけど……闇魔術っていう本格的なのは使えないだろ、黒魔導士にならないと」
ヘンリーはカインがいないのをいいことに本棚の魔導書をいくつか手にとって眺めていた。
彼はこの気難しい原書が好きだった。
今は魔導書の複写本がいくらでもあるので、わざわざカインの鍵つきの魔導書に頼らなくても事は足りる。
鍵つきの本ではあるが、魔導士のレベルに合わせて扉を開いてくれる、その仕組みにワクワクした。
が、どうしても見れない本があった。
「あいつら自分の命と引き換えに悪魔と契約してるって。闇を使う者はいつしか闇に取り込まれるっていうのに」
エズラはそう言って、はずした眼鏡を拭き始めた。
彼はマスクを被ったせいで眼鏡の柄がゆがんだと言い、「眼鏡つきのマスクを作ろうかな……」とつぶやいてクリスを笑わせた。
「あと、長く闇魔術を繰り返し使うと異形化するって聞いた」
続けざまにエズラが言った。
「どの国も表面上は黒魔導士は禁止してるけど、実際のところはいるからな」
ヘンリーは見ることの叶わない頑強な黒い魔導書を元の棚に戻した。
複写本が存在しないこの本を、カイン先生はどこで手に入れたのだろう?と思いながら。
クリスはその後、カインからも体に特徴的な印がないか、現れたら知らせるよう言われた。
今のところはそれらしい印はなかった。




