警告
「私はダンの妻のヘラよ。あなたのことはダンから聞いてるわ。あっ、コートは脱いでちょうだい」
ここはダンの家。
カインに頼まれてダンに品物を届けに来たのだが、そこで初めてヘラに会った。
(ダン先生、奥さんいたんだ)
ヘラはクリスから冬用のコートを受け取ると玄関横のフックにそれをかけた。
「今は離れて暮らしてるけどね、その方が私たちには合ってるの。ゆっくりしていってね。カイン先生からの手紙にもそう書いてあるわ。うちで湯あみでもしていくといいわ」
「湯あみ……ですか?」
カインのところではゆっくり風呂につかることもできないだろうと気を使ってくれているみたいだが、クリスはとまどった。
「隣町で店をやってるの。ダンの古書店ってとこ、知ってる? 古い魔導書の複写本なんかを扱ってるわ。当のダンはいないけどね」
ヘラはのべつまくなしにクリスに話かけた。
「さぁさぁ、いいから服を脱いで。お湯もたまってるわ」
ダンはというと、奥さんの勢いに押されて何も言えない風だった。
脱衣所に連れていかれたクリスはテキパキとヘラによって服を脱がされた。
(普通に恥ずかしいんだけど……)
「まぁまぁ女の子が、こんな服しか身に着けられないなんて」
ヘラはクリスが着ていた少年のような洋服をたたんだ。
「どうぞ」
そして真っ裸で浴槽のある風呂場へ放り込まれた。
しかし、風呂に入ってみると疲れがとれるような感じでなかなか快適だった。
(お風呂もいいもんだな。城では体を拭くくらいだったから)
その時である。
「湯加減どう?」
ヘラが入ってきた。
「背中を流してあげるわ」
「えっ……」
そうして言われるまま体のあちこちを触られた。
「まぁ、なんて綺麗な肌なんでしょう。傷一つなくて羨ましい!」
「……!……」
(ぜったい、これ外のダン先生にも聞こえてる……)
「じゃあ、ゆっくりつかってね」
ヘラはそう言うと風呂場から出て行った。
クリスはため息をついた。
なんだか落ち着かなくなったクリスは早めに風呂から上がることにした。
(お風呂は温かだったけど、脱衣所は寒いな。ダン先生んとこって冬はこんなに寒いんだ)
そして脱衣所でそそくさと服を着替えていると……。
「……そうか。体にはまだ印は現れていなかったか」
ダン先生の声だった。
「私が見逃したのかも」
こっちはヘラだ。
「いや、奴らが印をつけるのは自分のものだと示すためだ。目立つところにつけるはず」
「でもダン、黒の魔導書が警告してきたということは……どこかで接触しているって手紙に」
「そうだな。クリスが狙われてる可能性がある。しかも女魔導士だと知られたら奴らは必ず自分のものにしてそのエネルギーを奪おうとするだろう」
「彼女の母親には話したの?」
「ああ……。実家に戻るより、カインやエズラ、ヘンリーのそばにいる方が安全だと考えている」
「それもそうね」
その会話に驚いて、思わずクリスはタオルを床に落としてしまった。
「クリス……聞いてたのね?」
ヘラが脱衣所にいるクリスを確認して言った。
とりあえず服を着たクリスは髪も乾かさずダンの前に立った。
「今の話、何ですか?」
ダンはヘラと顔を見合わせたが、意を決したように話し出した。
「エネルギーバンパイアのことはカインから聞いてるだろう。そいつは人の欲望をエネルギーとして吸収する。金への執着、権力、男女が惹かれ合うエネルギー……なんでも奪う」
「……」
「女魔導士の潜在能力も奴らのエネルギー源になる」
ダンが言うには、エネルギーバンパイアは所有欲や独占欲も強いため、狙った相手に対して自分のものだという印をつけるのだという。
「たいていは相手の体のどこかにアザをつける」
魔導書は意思を持っており、時おり予知や警告を魔導士に示すことがあるという。
「カインやエズラ、ヘンリー以外の魔導士と会ったことはないか?」
「……」
クリスには身に覚えがなかった。
そんな様子を見てダンはさらに言った。
「君が狙われているのではないかと心配したカインが私に連絡をくれて、ヘラに君の体にアザがないか調べてもらった」
「……」
「幸いにも今のところ印はない。だが、今後さらに接触してくる可能性はある」
(ドキン……)
「とにかく女魔導士であることは誰にも知られるな」
「……はい……」
「それと、もし体にアザのようなものが現れたときは私かカインにすぐに知らせてくれ」
「その印をつけられるとどうなるんですか?」
「奴らに居場所を知られる。どこにいても追いかけてくる。遠隔でもエネルギーを少量ずつ盗んでいく。そして心身ともに自分のものにするまであきらめないだろう」




