ワイズ工房二日目
お爺さんの朝は早い。
キースとクリスは早朝から儀式の手伝いをしていた。
小さな壺いくつかに、お酒をそれぞれ入れて、外に置いた。
「昇ってくる太陽の恵みを受け取るのじゃ」
そう言って、ワイズは地平線から昇ってくる太陽に向かって剣を差し出した。
そのとき、ワイズはお祈りのようなものを唱え始めた。
「これ何だろう? 歌? 何語なんだ?」小声でキースがささやいた。
「……(古代語かな?)」
古代語は生きた言語とも言われていた。
「呪文みたいだな」キースがつぶやいた。
その言葉でクリスは剣の講義のときのダンの言葉を思いだした。
『古代魔法には物に命を吹き込む力がある』
(古代魔法なんだろうか?)
「……ゴホッ、ゴホッ……」
「キース、大丈夫?」
「うん……なんだろ? 咳が急に……」
ワイズが歌のようなものを唱えている間、なぜかキースは咳が止まらなかった。
「昨夜、爺ちゃんの咳の話をしたからかな?」
二人はそのとき、あまり気にしなかった。
歌が終わり、太陽が完全に昇ると、ワイズは壺に入っていたお酒を少量ずつ口に含み剣に吹きかけた。
そして何回か剣を振った。
酒を綺麗に拭き取ってから剣を鞘に収めた。
「刀にも相性がある」
ワイズは剣をキースに渡すときに言った。
「相性の良し悪しって自分でわかるんですか?」キースの質問に、
「扱いが悪いと感じるか感じないか」そうワイズが答えた。
*
魔導士の館にダンが訪問していた。
「今ごろはワイズさんの工房かな」
彼は居間にあるフカフカの長椅子に腰かけていた。
鍵のある魔導書を手にしているダンを見てカインはドキリとした。
黒い魔導書を手にしていたが鍵は開きそうになかった。
「最近は夢を見てないのか?」ダンが言った。
「……たまに見る」
「そうか」
夢魔はカインの身近な人物に化けて夢に出てくる。
そして、彼の闇の名を聞き出そうとするのが常だった。
そのとき、もう一つの声が彼を助けてくれることがある。
『カイン、だまされるな』
年老いた男の声だった。
(あの声は誰なんだろう?)
カインはなんとなく魔導書に関係のある人物ではないかと思っていた。
「ところで、不穏な出来事を耳にしたんだが……」
そう言ってダンは巷で聞いたと、ある噂話を始めた。
「黒魔導士狩り?」
「巻き添え食って、普通の魔導士も狙われたらしい。気をつけろよ」
「……」
遠い国ではあったが、黒魔導士に恨みを持つ連中が手を組んで、過激な行動に出ているといった話だった。
「アクセル子爵は最近、姿を見せないらしい。警戒して国外に逃げているとか」
「……」ダンの情報はカインも知っていた。
アクセルは今、隣国にはいない。では、どこにいるのか。
*
「カイン先生。いつでもいいんですけど、休みの日に一日外出してもいいですか?」
ダンが帰ったあと、マギーにそう声をかけられた。
「ん? どうした?」
「あの……毎年、この時期に両親のお墓参りに行ってて」
「……そうか。わかった」




