始まりはいつも唐突に
人というのは誰かと比べたがる生き物だ。
……いや、少し違うか。
人いうのはどの生き物よりも他人と自分の差をはっきりと認識できる生き物だ。
だから人は人に対して、嫌悪したり嫉妬したり激怒したり憎んだりといった負の感情を持ち、また憧れたり親しんだり尊敬したり愛したりといった正の感情を持つ。
難しい話にするつもりは無い。そもそもこの話に深い意味は無い。
無いが、まぁ俺が今こんな有様になった理由の根源でもある。
人は差を認識できる。
つまり誰が上で誰が下かはっきり理解できる。
だから人は下には厳しく上には甘い生き物になった。
高校生だった俺という人間は残念ながら下側だった。
いじめを受けた。
誰も助けてくれなかった。
苦しんで絶望して全てを憎んでそして望んだ。
みんな居なくなれと。
普通はそこで終わりだ。
望んだところで何か変わることはない。
だが、神様というのは気まぐれでかつ、暇人なのだ。いや暇神か。
俺は神に拾われた。
可哀想だからとか、助ける為にとかではなく。
ただ、そのままの意味で拾われた。
例えば人が何気なく、落ちている物を拾うように。
俺は拾われた。何の意味もなく何かに選ばれた訳でも無く。ただ拾われた。
そして俺の望みは当初とは違った風に叶えられた。
神にとって俺一人のために他人を消すことなんてしない。
だが、拾ったのだから少し優遇してもいい。
だから逆転の発想と言わんばかりにこの世界から俺は消された。
そして俺は異世界にやってきた。
しかも、神は要らないサービスも付けてくれた。
俺が俺である限りいじめは無くならない。なら俺の姿が見えなければいい。
そんな冗談にもならない理由で俺は異世界でも珍しい透明人間になった。