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59.おまじないの結果

背後にたくさんの緊張を感じながら、目を閉じて集中する。

お腹が暖かくなるイメージを持つと、ふわっと本当に暖かさを感じてきてなんだか心地よい。その心地よさを体の外にも薄く広げるようにしてみれば、ふわりと柔らかな光が波のように溢れていった。

光の波が収まると、連日の暑さにちょっぴり萎れていたはずの花々が嘘のようにみずみずしく太陽の光を浴びていた。


よかった、成功だ。


そう、私がほっと息を吐くと、わあ、という歓声が聞こえた。


「今のは意識的になさったんですよね?前やって頂いた時よりずっと発動が早くなっています!」

「効果もかなり安定していて、前のような魔力の暴力みたいな感じではないですね」

「あの、今のは広範囲でしたけど、局所的にってできます?」


駆け寄ってきた魔術部の職員さん達が、興奮したように頬を染めながらメモ用紙やら何かの計器を片手に、私にあれこれ質問を投げかけてくる。



私は今日は魔術部による定期健診で、問診中に「魔法を自由に出せるようになった、かも?」と漏らしたらあれよあれよという間に複数の職員さんに囲まれお庭で実践ということになってしまったのだ。

私としても、初代さんのあの雑すぎるおまじないが効いているのか知りたかったし別にいいのだが、できるかわからない事をたくさんの人に見られながらやるのは緊張であった。



「すごいなリリシア、いったいどうしたんだ?」

「え?えーと、なんかできるような気がして……?」


当然のように私の側で見学をしていた魔王さまが感心したように目を丸めるが、初代さんのばれたくないという願いを尊重している私は理由を言う事ができず極めてぼんやりとした答えを返す。

そんな曖昧な答えを受け取った魔王さまは、急に神妙な顔になり、なにかを考えるように視線を横にずらした。暫く考えて、ひとつの推測に辿り着いたようで視線を戻して呟く。


「先日の事がショックで何かスイッチが入ったのだろうか……」

「あーー、まあ、そうかもしれませんね」


ショックではないが、監獄島で会った初代幸福の君に適当なおまじないを受けたからなので、全部が全部間違いではないよね、となんとなく頷く。

そうやって誤魔化しながら職員さんに言われるままにあれこれと呪文を復唱して魔法を出してみると、さっきやった治癒系の魔法は見た目のインパクトが少ないので変化がよくわからなかったが、指先にライターの火程度の小さな火を出してみた時はさすがにちょっと感動だった。

おまじないをしてもらう前にこんな事しようとしてたらほぼ間違いなく火柱が上がっていたことだろう。

ありがとう初代さん!私、ちゃんと魔法使えるようになりました!あんなおまじないが効くなんてちょっと釈然としないけど!





<監獄島初代幸福の君の部屋――>


「ぶえっっくしゅっっ!」


不意に鼻がむずむずしてくしゃみをしてしまった。今読んでる本もだいぶ古いものだから、ほこりがすごかったのかもしれない。


「あらあら大丈夫?風邪かしら……」


くしゃみの音を聞きつけた髪の長い女性がぱたぱたとちり紙を手に駆け寄ってくる。渡されるちり紙で思い切り鼻をかんで、首を傾げた。


「いや……これは、誰か俺の噂をしたな」

「やだ!じゃあ私かも……今、今日もアルカはかっこいいなあ……って思っちゃってたから……」


頬を染め、でも申し訳なさそうに女が俯くのでそっとその髪を撫でてやる。


「君からのそんな噂だったらいくらでも欲しいなあ」

「アルカ……!」


<――監獄島初代幸福の君の部屋>





「ね、ジークハルトさま、なんだかんだで私も結構魔法を操れるようになったんですよ」

「うん。そうだな、リリシアはすごいなあ」

「だから、自分の身ももうちょっと守れると思うんですよ」


にこにことしていた魔王さまの表情が、ぴたりと固まる。

……これはだめかもしれない、だけど、こちらとしても表情ひとつで諦めるわけにはいかないのだ。


「だから、もうちょっと手と目を離しても大丈夫だと思うんですよねー…って」


気持ちとは裏腹にだいぶか細い声になってしまったお願いは、フェードアウトするように消えていった。

魔王さまは不機嫌を隠そうともせずむすっと私を見つめる。




次の瞬間、何かが私の額をとん、と押した。




そんなに強い力ではなかったはずなのに、嘘のように体は後ろへと倒れていき、何が起こったかわからないまま、私は魔王さまの腕の中にいた。



「私の指一本でこうも簡単に倒れてしまうのに?」



目を白黒させていると、魔王さまは私を片腕で抱き留めたまま、空いている手の人差し指を見せつけてきた。つまり、魔王さまは一瞬で私との距離を詰めてその指だけで私を転がしたという事らしい。


「じ、ジークハルトさま相手に抵抗できる人の方が少ないと思いますが……」

「……二度あることは三度あるともいうだろう?もう少しだけ傍で守らせてはくれないだろうか」

「あ、う、そ、その目に弱いって知ってて……!」

「ふふ、リリシアは本当に私の事が好きなんだな」


金の瞳を切なげに潤ませてきらきらとした王子様オーラ(王様だけど)をまき散らされて、私の強い意志はあえなく粉々にくだかれてしまった。

そう言われてしまえば私は首を縦に振る以外できず、我ながら自分のちょろさに心配になった。

首を縦に振ってしまったので、おやすみからおはようまで(お手洗い除く)魔王さまとぴったり一緒が解除される事なくこのまま継続になってしまった。無念。

*次回更新はちょっと日をあけて4月4日を予定しています

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