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50.罰

先日のリタさんの件は少しばかり大事になってしまった事もあって、他の者の手前ハウフヴェルン家に何の咎も与えないというわけにはいかなくなってしまった。

なにせある種神格化されている幸福の君に、魔王陛下の婚約者に暴言を吐き、ついでに魔王陛下に対してもなぜこんなものと結婚を、と侮辱にも取れる言葉を吐いたのだから、どんなに私が気にしないと言っても周りがそれを許さないのだ。

正直、私がもっと幸福の君として、魔王さまの婚約者として相応しい身なりだとか身分だとか見た目を備えていれば防げた事のように思われるので、皆は違うと言うけれど私のせいでごめんなさいという気持ちでいっぱいだった。




「……というわけで、今回の罰としてハウフヴェルン家の爵位を下げ伯爵とする」

「は、」


玉座に向けて膝をつき頭を下げていた男性から、短く、重い、承諾の返事が返る。

男性はハウフヴェルン家当主のカール・ハウフヴェルン氏で、今日は改めての謝罪にエマさんと当事者のリタさんを連れてやってきていた。彼の斜め後ろに二人が控えているが、二人とも同じように頭を下げているのでどういった表情をしているかはわからなかった。


「それから、ヴィアベーラの平定に力を注ぐこと」


そう続いた言葉に、カール氏が困惑に染まった顔を上げる。


「?あの、陛下」

「なんだ」

「ヴィアベーラの件は以前よりお話を頂いていた事ではありませんか、それは罰にはならないかと」

「お前が一番の適任なのだから仕方ないだろう」


何が問題だと言わんばかりに言う魔王さまに、カール氏は何か言いたげに視線を彷徨わせた。


「そもそも形ばかりの罰なんだ、そんなに重いものを科しても仕方あるまい」

「いや、そもそも幸福の君への暴言は形ばかりの罰ではだめでしょう」

「そのリリシアが望んでいない事をするわけにはいかないだろう?」


そう、今回の事について私はどうしたいか聞かれた時に、罰なんてとんでもない、当然の事を言われたに過ぎないのだから罰を与えるにしてもハウフヴェルン家を苦しめるようなものは止めてほしいと魔王さまに懇々とお願いしたのだ。

その言葉にカール氏も若干信じられないというように私を見るが、望んでないものは望んでないのだ。ただ、あれだけの騒ぎを起こしてお咎めなしだとそれはそれで問題になるという事もわかるので、罰っぽく見えるけれどそれほど生活そのものに影響の出ないものを、と考えてこういう事になった。

バルトロジカにおいて爵位は国に貢献したかの証のようなもので、気にする家は物凄く気にするが、あくまで称号の一つにすぎないので爵位が下げられても目立った影響はない。


「リリシア様には、エマもリタもご無礼を致しましたというのに、寛大な処置、感謝いたします」

「とんでもございません、原因はどちらも私ですし……私がしっかりしていれば防げた事と思いますと申し訳ないです……」


深く頭を下げられて、頭を下げられる理由のない私は慌てて謝罪を重ねてしまう。

こうやってやたらめったらに謝ってしまうのも止めるようにと言われてはいるが、長年の生活で染みついた謝り癖はなかなか治ってはくれないのだった。


「リリシア様はお優しい方だと聞いておりましたが、噂は本当でしたな」

「いえそんな、世間知らずなだけでございます……」


転生者ボーナスなのか、よくわからない所で好感度が上がっていくのはありがたいといえばありがたいのだが、それに見合った行動をしていないので私のような小心者にはいたたまれなさを感じるだけだった。








「リリシア、結婚式は見に来られるようにしますわ、どうか元気でね」


去り際にエマさんが寂し気にそう言う。その表情に、ああ、カール氏にヴィアベーラが任されたという事は、娘のエマさんもそれについて行ってしまうのかと察し、言いようのない寂しさに胸にぽかんと穴が空いたような気持ちがした。

別れを前にしんみりとした空気をかもし出す私達だったが、その空気は突然破られてしまうのだった。


「何を言っている?エマにはここの家を任せるのだから、そんな今生の別れのような顔をする必要はないぞ」


カール氏の言葉にエマさんがぽかんとする。


「任期付きの仕事だし、お前ももう立派になった、家一つ守る程度十分任せられる」

「でも、お父様……」

「それに、お前とリリシア様は友人なのだろう?異国の地で暮らすリリシア様から友人を奪うのは気が引ける。陛下も了承済みの事だが、不満かね?」

「不満なんて!」


優し気に微笑むカール氏に、エマさんはどうしていいかわからないように思案していたが、ほんのりと頬を染めて「ありがとうございます」と目を伏した。

これは私にとっても僥倖である。やっと打ち解けてきた友人が遠くに行ってしまうのはやっぱり寂しいもの。


「代わりにリタを連れて行く。お前も姉の事ばかり考えず世界を広く持たねばいけないぞ」


少し演技くさい厳しい声にリタさんが「えっ」と肩を跳ねさせた。


「末っ子だからと甘やかしすぎたようだからな、修行だ」

「そんなあ!」


エマさん大好きなリタさんにとって、この話は死刑宣告に等しかったようで、今にも泣きそうになりながらしょんぼりと頭垂れる。

そんな姿を見たエマさんは溜息を吐きつつその頭を優しく撫で「頑張りなさいね」と短い言葉をかけていて、その優しい眼差しに私も姉を思い出してしまいほんのり物悲しい。


顔にも態度にもそれは出ていなかったはずなのに、次の瞬間には私の頭の上には暖かく優しく撫でる手が乗っていた。

吃驚して手の持ち主を探すと、包み込むように優しく私を見る魔王さまと目が合う。


「よしよし、リリシアは可愛いなあ」

「な、なんですか!?」


撫でる手が優しくてなんだかすごく恥ずかしくなってしまった私は、その照れを隠すように手から逃げようとするが、私と魔王さまの果てしないレベル差がそれを許してはくれなかった。

逃げようとすればするほどからかうように腰に腕を回して私を捕まえ、犬でも撫でるかのようにわしわしと頭をかき回される。

よりにもよって他人の、ハウフヴェルン家の面々のいる前でこれはあまりにも恥ずかしい。

カール氏のきょとんとこちらを見る目に、なんで私がこんな罰ゲームを受けているんだ?と思わずにはいられなかった。

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