表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/72

4.恐怖のお茶会

暖かな昼下がり、色とりどりの花が咲き乱れる見事な庭園、美味しい紅茶、サクもちな美味しいマカロン。

状況がまともであれば大変素晴らしいティータイムなんだろうけど、私の心と目には光がなかった。

なぜなら、お茶の相手は麗しの魔王さまだからだ。



「はあ…今日もリリシアは可愛いな」

「……恐れながら魔王さま、それは目の錯覚でございます」


あー、この世界にもマカロンってあるんだしかもめちゃくちゃ美味しいこれ…などと現実から逃げつつ死んだ目でそう言い放つも、目の前の魔王さまはなにも気にしてない様子でにこにこしていた。


「そんなことはないさ。俺の目に狂いはない。リリシアは今日もすばらしく愛らしい」

「酔っている方は酔っていないと言い張るものでございます」

「例え酔ってるにしても君に酔えるならそんな幸福なことはないな。ほらリリシア、今日の菓子はうちのパティシエが腕をふるったものだ、たんとお食べ」

「ふっ、太らせて食べようという魂胆ですか?」

「なんだ、食べて良いのか?」

「勘弁してください!!!!」



ゴルドフさんの「とりあえずお友達からはじめましょう」案がなぜか採用されてしまってから、私と魔王さまはこうして親睦を深めるため1日2度お茶の席を共にしている。

どうやら私は殺されずに済んだらしい。…家に返してももらえないらしいが。

先日勇気を振り絞って家に帰してほしいと頼んでみたが、魔王さまは金の瞳をぱちくりさせて「何故?」と心底わからないというふうに返してきた。

その時悟ったのだ、(あ、これは帰れないやつだな)と。

第二の人生もまた、平凡には生きさせてもらえないらしい。


「(前世よりは長生きできるかなあ…)」

「ああ…そのふわりと豊かな白雪の髪も、どんな宝石より美しい藤の瞳も、愛らしい小さな体も、その素っ気ないところも、それでいてこの時間には必ず共にいてくれるところも、柔らかな魔力も、全てが愛おしい」

「ヒェッ」


恐怖のあまり思わず変な声が出て、カップを取り落としそうになってしまった。

私は自分で思うよりもずっとこういうセリフだめらしい。モテない歴16年+26年は伊達ではないということだ。

人から好意を向けられることに慣れてなくて耐性がなさすぎて、照れるとか通り越してもう恐怖しか覚えない。末期である。


「リリシアはこれだけ愛を囁いても顔色ひとつ変えないな。そこがまた攻め甲斐があっていいが」

「恐ろしくて青ざめはしますよ」

「おや、どこが恐ろしいと?」

「矮小な人間ですもの。魔王さまと対峙して恐れを感じないなどということがありましょうか」


こんな事を言える時点で結構大丈夫なんじゃ?と思われるのはごもっともで、半月もこんなことをしていればいくら怖くても慣れるものだったのだ。

最初の1週間はいつ殺されるのかとぶるぶる震えてお茶もお菓子も味がわからなかったが、今ではお菓子に舌鼓をうてる程度にはなってきていた。

この国のお菓子本当においしい。

ただし愛を囁かれるのは無理&無理。



「前も聞いたが、今何か不便を感じていることはないか?こういうものがあったらとか、そういうことは?」

「え?ええと…」

「なんでもいいんだ。食べたいものでも、着たいドレスでも、装飾品でも」


ここに攫われてきてからというもの、人間の国から急に魔物の国に攫われてきた私を思いやってなのか、魔王さまはよく同じ質問をしてきた。


「とくに、なにも…」


その度に私はこう答えるしかなかった。

だってここ本当になんでもあるんだもの!文化レベルがどういうわけかすごく高くて、ご飯も美味しいしお菓子も多種多様、庭園には温室もあるし水路も美しい、びっくりしたのが大浴場と水洗トイレに暖房便座だった。

噂によると北の方の火山地帯には温泉施設まであるらしい。

これまで住んでいたフィロジーア王国では湯船はあれどお湯を張ってゆっくり浸かるっていう文化はなかったし、まして暖房便座なんてとんでもなかった。

中世ヨーロッパ風の世界みたいだししょうがないかーと思って暮らしていた私は暖かな便座に驚き感動したのは記憶に新しい。



「そうか……何か思いついたらすぐに私に言って欲しい。君が欲しいと思うものは何でもあげたいんだ」


何か思い詰めたような顔をしていたかと思えば3秒後には練乳とはちみつをあいがけしてきてこの魔王さまは…!

歯が浮くようなセリフにヒッと息を詰まらせていると、



「まあ城に篭っていては思いつくものも思いつかないか、…よし」

「魔王さま?」

「出かけよう。君に俺の統べる国を見て欲しい。」


などと一点の曇りもない微笑みで言ってきて、私の背にはまた一雫冷や汗が流れたのであった。




こうして、魔王さまと私の初デートが決定してしまったわけだけど…………ん?デート?えっこれデートなの!?わからない、前世も含めてデートしたことないからわかんない!でも男女が2人で出かけたらデートでは?わからない!怖い!!!次回、リリシア死す!?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ